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●『ラブ・トレジャー~夜になればわかること』
題は『夜になれば』と言うらしい。『ラブ・トレジャー』は「愛の宝」であるから、ラヴ・ストーリーであることは直ちにわかるから、この方がいいだろう。



また、「宝」は「国宝」に引っかけていて、韓国ドラマには珍しい文化財に絡めた物語となっている。そこが人気が今ひとつであった理由であるかもしれないが、実際はコメディにしてはやや中途半端であるからだろう。主演女優は『私の名前はキム・サムスン』のキム・ソナで、彼女のキャラクターにそのまま合わせて作った脚本と言ってよい。キム・ソナは中学か高校の時に日本に住んだことがあり、またその後父親を亡くしたが、このドラマでも父親はある組織によって抹殺されたという設定で、『キム・サムスン』と同じく、回想場面にだけ登場する。また、日本語が話せるという利点を活かした脚本になっていて、最初の回では九州にロケをして、旅館の仲居の姿で演技をする。その日本語はそれほど完璧ではないが、韓国人には難しい発音をうまくこなし、また抑揚も自然で、同程度に話すことの出来る韓国の女優はいないだろう。ただし、ユン・ソナは別格で、日本のTVに盛んに出て、その語学力はキム・ソナの比ではない。キム・ソナのキモノ姿は、背が高いからでもあるが、ほとんど知識のない人に着付けをしてもらった感じが一目瞭然で、いかにコメディとはいえ、目をおおいたくなるほど不格好であった。キモノは全く恐いもので、着方がまずいと、いくら豪華なものをであっても下品に見える。つまり、着方に訓練と思想を要するのだが、それはそれで高度な文明であって、洋服のように誰が着てもほとんど様になるのとは違う。そこを理解していない人は今では日本にも多いが、まして韓国ともなれば全く期待は出来ない。だが、その実情を改めて見せつけられると、やはりドラマ全体が即座に安っぽく映ってしまう。そうしたことをこのドラマの制作者はどこまで自覚していたかだが、おそらく全然それはなかった。だが、同じことは韓国ドラマ全体に言える。どうせお金をかけないTVドラマであるので、そのいかにも無自覚で安っぽいところを黙認しつつ、そのほかに面白いところを探して見るというのが、正直に言えば筆者の韓国ドラマに対する思いだが、古美術品といういわゆる教養そのものの象徴を主題にする内容であれば、もう少しそれに応じて格調を高くしてほしいと思う。だが、今こうして書いていて思い出すのは、このドラマが日本のTVで平日の午後の中途半端な時間に放映される昔のサスペンスものに似ていることだ。もちろんこっちは長編であり、しかも喜劇だが、お金のかけようがよく似ている気がする。さて、最初の回はドラマを盛り上げるための特別にお金をかけての撮影だが、韓国ドラマではよくあるように、その後は全く別の場所での撮影になるので、この最初の回だけでこのドラマを判断するとかなり予想が違うことになる。後の内容にがっかりするという人もあれば、その反対に韓国ドラマらしくなってかえってよいと言う人とに別れるが、どっちにしても、最初の回の内容が脚本上つながりがあっても、わざわざ外国でロケをしたという利点が見えない。だが、どうしても日本で撮影する必要があった。そしてそれは韓国と日本の過去の歴史の複雑さを微妙に照射している。韓国の国宝を主題にしたドラマになぜ日本の九州が舞台になるかと言えば、韓国の国宝級の作品が九州を経て日本にかつては続々ともたらされたからだ。そうした歴史の中には今となっては解明出来ない非合法は当然多くあったろうし、また当時は非合法という観念もほとんどなかったのだろうが、韓国が文化国家になった現在、そうした外国に流出した古美術品に焦点を当てると、どうしても日本に存在する韓国の古美術品に目が行くし、その背後にさまざまなドラマを想定することが出来る。それは硬いものとしてはNHKの教育TVが特集するようなものから、このドラマのように誤解も与えかねない興味本位の内容のものまであって、筆者としてはそういう観点からこのドラマを面白く思う。だが美術品を扱う割りには貧弱な小道具を見せられた気がする。これがもし中国ならばどうかという考えがよぎるが、その点に関しては後日別の話で深く掘り下げる予定でいる。
 2008年の制作でまだ新しいが、韓国での評判はどうであったのだろう。早々とKBS京都で放送したからには、あまり人気はなかったのだろう。全17話は中途半端に思うが、これ以上の引き延ばしは無理に思える。だが、最後の回はまた日本に捜査に出かけるというほのめかしで終わっており、恋もきっちりとは成就させない格好にし、その意味で続編が作られ得る期待感を残している。ところが、続編が期待された『キム・サムスン』のような大人気を得なかった。その理由はキム・ソナの演技は『キム・サムスン』と同じで、ほとんど地を見せただけに思えることと、彼女を主役にしたドラマは一本調子に彩られ、それほど長く見続けるには華さ加減が少し足りないというのが理由ではないだろうか。さて、物語の粗筋は、博物館付属の古美術品専門の警察があって、盗まれた古美術品を取戻し、犯人を逮捕する役目を負う部署にキム・ソナ演ずるホ・チョンが勤務している。不法に外国に持ち出された美術品の行方を追って、時に変装してその犯人を逮捕するのだが、そのひとつが前述した九州の旅館で仲居に扮して、地元の有力者が韓国から持ち込まれた古美術品を受け取る仕組みを暴くという行為だ。韓国ドラマでお馴染みの顔を揃えた脇役が多く、その点で賑やかなのはいいが、韓国ドラマ特有の若い男女の四角関係も一応設定されている割りには肩透かしを食らう展開で、焦点がややぼやけている。悪を追い詰めるヒーローという側面に恋愛を絡ませると自ずとそうなりがちだが、そこはキム・ソナと同じくほとんど地そのままを演じたに違いないイ・ドンゴンのキム・ソナとの絡みがまるで漫才のように絶妙で、何度かあったよけいと思わせるキス・シーンも厭味を感じさせなかった。イ・ドンゴンの演技は『パリの恋人』で見ただけであったが、今回は主役であるせいか、なかなかさっぱりとして好感が持てた。キム・ボンサンというちょっとコミカルに響く名前で登場し、古美術の修復家、研究家を演ずる。そしてTV番組を持ったりして、若い女性を中心に大いに人気があるという設定だ。そういう存在が韓国に実際にあるのかどうか知らないが、美術品の修復家がTVで顔を売るということは日本にはなく、あえて言えば美術評論家かお宝番組に登場するゲストを思えばよいか。キム・ボンサンは自由業であるから、いい話があればすぐにそのポストに収まる用意があって、このドラマでは国立博物館のある室長の地位を得る。だが、古美術品を扱う黒幕と接触があるなど、ホ・チョンらの博物館付属の警察と対立するようなことにもなる。彼の主義は、古美術品に罪はなく、それが修復を要する状態にあれば、どこの誰が非合法的に所有していても、依頼があればそれに応ずるというものだ。だが、次第にその依頼者がかなりの悪人であることを知り、身に危害が及ぶことにもなる。しかもホ・チョンと恋仲になって、黒幕を検挙することに力を貸すというように話が進む。
 物語を特色づけている設定は、ホ・チョンは弟と一緒に暮らしていて、ふたりは父親がどこでどう生きているかをよく知らないということだ。だが、彼女は父親が古美術品の強盗であった過去をよく知っていて、その罪ほろぼしの意味もあって、盗まれた美術品を取り戻す職業に就いた。そうして暮らしながらも、父がどこかで生きていると思っているのだが、その情報をキム・ボンサンが把握し、調べ上げた結果、自分が知るある会社の会長が、罪が及ぶのを恐れ、雇っているヤクザに殺させたことを知る。この会長やヤクザは毎回登場するが、特にヤクザの親分は白髪頭の割りに若く、全く漫才師のようなコミカルな役柄で、深刻さは皆無だ。それがこのドラマの意図であるので、暴力シーンでも安心して笑いながら見ることが出来る。会長というのは、仕事柄日本の企業と関係があり、そして日本のそうした企業には韓国の古美術品の蒐集家もいて、会長は国外持ち出し禁止の美術品を、ヤクザを使うなりしてどうにか入手、また密かに国外に持ち出す必要があるのだが、日本側のヤクザや企業家も多少登場し、韓国の古美術品が今もなおそうした流通経路で日本に流れていることをほのめかす内容になっている。韓国ではある一定金額以上の古美術品を国外に持ち出すことは出来ない法律があるが、日本は国宝や重文以外にそうした決まりがなく、経済の論理で自由に外国に流れて行くから、日本における韓国の古美術品の流通問題はそう簡単に韓国側から見ただけで結論づくものではない。また、在日の韓国人による韓国美術品の蒐集が結局韓国に寄贈されず、日本に留まって展示されるという場合は少なくなく、またそうした在日の韓国人は韓国から買わず、欧米の競売で優品を見つけて落札するため、意外に韓国の古美術の優品は韓国以外の国にある。理想は韓国の大金持ちが外国でどんどん落札して国立の機関に寄贈することだが、そういうことがどれほど行なわれているのかどうかは知らない。ドラマの小道具のひとつとして、廊下や部屋のあちこちに韓国を代表する国宝のポスターが飾られていた。その中に去年2月に放火されたソウルの南大門があった。このドラマが作られたのはその事件後と思うが、案外その事件を契機として脚本が書かれたかもしれない。国宝が一瞬にしてひとりの男の放火によって焼失してしまう様子を見ると、韓国の国宝に対する意識はまだおそまつではないかと感じる。国宝になるほどの文化財が外国に対して好感度で迎えられ、それが観光につながるということを韓国はよくよく知っているはずだが、ソウルのど真ん中に建つ門となれば、灯台元暗しで、案外油断もあったのかもしれない。
 当然このドラマは古美術品を扱う必要があるので、韓国美術に詳しい人はそういう部分に注目することになるが、古い絵画、古書籍、陶磁器など、そこそこ毎回順に品物が取り上げられ、韓国の持ち出し可能な大きさの国宝というものをある程度知ることが出来るようになっていたのは脚本家の勉強の跡をうかがわせるに足る。古い絵画というのは、中国の毘陵で盛んに描かれた草虫図の朝鮮版で、李朝民画の元祖とも言える花と蝶を画題とするが、朝鮮がいかに中国の影響をもろに受けていたかがよくわかるが、毘陵の草虫図はかつて日本にも多くもたらされ、また模写も盛んにされた有名なもので、東洋美術に詳しい人が見るとにんまりする。韓国の国宝級の古書籍にどのようなものがあるのか知らないが、キム・ボンサンが机の上で外れた丁の裏打ちを外したり、また裏打ちしたりする場面があって、それなりに修復の様子がわかって面白いと言えるが、まさかあんな事務所机の上で簡単に作業を進めるはずはなく、誤解を与える方が大きいだろう。外国に持ち出される古美術品の代表は陶磁器だが、このドラマでも二種登場した。ひとつは新羅時代の有名なもので、似たものはいくつかあると思うが、騎馬人物型の土器だ。もうひとつは高麗の青磁象嵌や李朝の白磁壺だ。あえてその贋物も使用され、時として割られたが、本物として展示されたものも贋物であるのは仕方がないとはいえ、もう少しどうにかならなかったかと思う。それはいいとして、こうした陶磁器を日本に密輸する方法は、韓国でまず展示会を開き、それを日本に巡回させるという名目を立てる。そして展示の際、壺表面に土を塗って現代の作家物に模倣させるのだが、それをそのまま梱包して韓国の税関の目をくぐり抜けるのだ。これはおそらく似たような実際の事件が韓国で摘発されたのだろう。1日だけの展示であれば、専門家が見ておかしいことを指摘する機会もほとんどなく、古美術品が土をまとったまま韓国から持ち出される。そして日本で土を洗い落とせば、当の壺が元はどこの誰の手元にあったものかを示すものは何もなく、そのまま骨董界に流れて行く。そういうことを防ぐためにも、韓国ではこのドラマで描かれるような古美術品専門の警察部があるのだろう。韓国ドラマには、『キム・サムスン』のパティシエや『エア・シティ』の空港つき警察など、ある職業をテーマにしたものが多いが、それは国民にその職業の実情を知らせる啓蒙的な役割を負って意義がある。
 ホ・チョンが勤務する建物の内部がよく映ったが、広々としたロビーは一体どこだろう。ソウルにはかつて日本が建てた総督府の石造建築物を利用した国立博物館があったが、10年ほど前にそれは撤去された。そして同じ機能を持った別の大きな建物が4年前に隣接地域に出来たが、筆者はそこには行ったことがない。ドラマで映ったのはおそらくその内部ではないだろうか。ロビーの隅に巨大な石灯籠があったのには目を引いたが、そういう場所は公的な博物館しかあり得ない。韓国は石造物がよく発達し、国宝も多いが、そうしたものは大きすぎて密輸は出来ず、今回のドラマでは対象外であった。だが、明治の日本はそうした巨大な石造物に目をつけ、どうにかして日本に持ち込もうとしたことがあった。それはひとつに朝鮮においてそうした古美術品が省みられなくなっていたとに一因がある。同じようなことは中国にあって、近代化の遅れた諸国ではみなそのようになったと言ってよい。そして、そうした時代に流出した古美術品を今から本国に戻そうとするのはほとんど不可能で、アフリカでは欧米の大博物館からどうにかして返却してもらおうと運動が続けられている。だが、そのような文化財の移動の歴史に深い関心のある人はこのドラマを見ないであろうし、見たとしても、古美術品の移動については多くの経路と事情があって、このドラマに描かれるような、韓国が被害者で、日本は不当に持ち出したものの受け手でしかないという描き方には不満を抱くかもしれない。だが、そういう見方もまた色眼鏡であって、韓国の企業家が日本の企業家とつながっており、そうした金持ちが趣味半分、そして仕事での賄賂に役立てるも半分として、韓国の古美術品を見ているという、かなりありそうなことを知って、今さらに韓国と日本の深いつながりを思わざるを得ない。またこのドラマで筆者がいかにも面白いと思ったのは、いつもよく書くように、韓国ドラマには芸術家や芸術を扱うものが非常に多く、そのほとんど頂点の作であることと、その一方で韓国が自国の古美術品流出を思う時、日本に対してどのような感情を奥底で抱いているかが見えている点であった。そうしたドラマは他に例は知らない。だが、欲を言えば、韓国から文化勲章を与えられた柳宗悦を主題にした日韓共同の映画やドラマが作られないのは何とも不思議で、それほどに韓国の古美術の世界は日本に対して恨みが根深いとも思える。
by uuuzen | 2009-05-22 23:59 | ●その他の映画など
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