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●『火星の素顔-Mars Expressがとらえた3次元画像-』
3日に京大の総合博物館で見た。去年と今年の「日本におけるドイツ」という一連の催しのひとつだ。3月からやっていたのになかなか百万遍まで行く機会がなかった。



●『火星の素顔-Mars Expressがとらえた3次元画像-』_d0053294_2315820.jpgTVや新聞で紹介されていたので展示内容は大体わかっていたが、思い切って見に行ってよかった。けっこう人は訪れていて、親子連れも目立った。子どもが見るのはとてもよいと思う。大人でも楽しめるように、火星表面の大きな3次元画像がいつくもあった。これがもし通常の写真であればあまり話題にならなかったのではないだろうか。レンズ部分に赤(左眼)と青(右眼)のセロファンを貼った紙製の眼鏡がたくさん用意されていたが、そんな簡単なものでも、特製の何かを使用出来るというだけで、お金を支払う価値があった催しに思えるから、人間の娯楽愛好の精神をよく突いた企画と言うべきだ。これは火星を撮影した特殊なカメラが3次元撮影が可能であったから可能になったことだが、そもそも3次元で撮影する考えの中に、いずれこうした写真展示では人々にエンタテインメント性を提出出来るとの意図があったことになり、科学を一般のごく普通の人々に身近なものに感じさせる態度としては見上げたものがあるだろう。大人も子どもも、この展覧会を見た人はみなそれなりに思うところがあったはずで、せっかくのいい内容であるだけにもっと宣伝が行き届いてもよかった。天体をこのような3次元用眼鏡で見る試みは、福員館書店が1986年に出した『星の本』にもあった。その本と比べるのも何だが、今回の3次元画像のリアル感は圧倒的なものがある。いずれ本になると思うが、あるいはDVDが発売されるかもしれない。会場ではパソコンが2台置いてあって、火星表面のある一定の区切られた領域の鮮明な立体画像を自由に操作して見られるようになっていた。そうした画像は今では映画のコンピュータ・グラフィックスによって珍しくなくなっているので、本物の火星と言われなければ感慨もないが、人間が火星の表面をここまで詳細に知ることが出来る時代が到来したことを改めて知って、むしろそのことに驚く。筆者が小学生の頃の漫画雑誌にはよく漫画以外に科学読本のページがあって、火星の特集も記憶している。そこに描かれる火星はオレンジ色をしていて黒っぽい蜘蛛の巣状の運河が全体に走り、蛸のような形をした火星人がいるかもしれないとも書いてあったが、それから半世紀もしないうちに人類は火星に何度もロケットを飛ばし、火星表面全体の詳細な画像を続々と撮影することに成功したから、人間は長く生きてみるものであることを思う。
 だが、月や火星は人が住めるような環境にない。流れる川の水もなければグリーンフィールズもない。だが、ひょっとすれば1万年ほど経てば人間の一部が移住している可能性はある。これはあまり考えたくないが、きっと地球上でみんなが仲よく暮らせなくなったことが原因としてあることだろう。島流しとして月や火星に人間を送り込むか、あるいは戦いに破れた側が地球から脱出して住むかで、いずれにしても地球本位の考えがずっと将来まであって、地球に住むのはさまざまな意味で競争に勝った者たちだけということになるように思う。そしてやがて月や火星でも戦いがあって、破れた者たちはまた別の星へ移住するだろう。そのようにして人間は次々と別の星に拡散し、別々の進化を遂げて行くかもしれない。何だかSF的な想像をしてしまったが、一方で昨夜TVでたまたま見たカリブーの集団移動を思い出す。カリブーの巨大な群れは餌となる草を求めてある季節になると移動を始めるが、それとともに狼も移動する。移動中のカリブーには出産するのもいて、生まれたばかりの子どもはすぐに乳を吸いつつ、みなと一緒に移動する。だが、まだ小さいので走る能力は劣る。そんな子どもを狼は狙って追い詰め、30分ほどでようやく仕留めるが、狼も自分の子を育てる必要があるから、これは狼が悪者と思って感傷的に見てはならないだろう。無数にいるカリブーの中からそのように狼に食われるのはほんのわずかで、生態のバランスは保たれている。とはいえ餌食になるカリブーの子の立場になれば、せっかく生まれ出て来て母親の乳の味も知り、仲間の姿も見ているのに、急に現われた狼に狙われることで、本能から死にもの狂いに逃げ走るというのは、何とも納得し難い現実だろう。可愛いカリブーの子が必死に走りながらも、ついに狼にじわりじわりと追いつかれる様子を見ていると、生命の残酷さを思わないわけには行かない。食べられてもよいと思う優しい心はカリブーの子どもにはない。とにかく生きるのに必死だ。必死同士が戦って、わずかに勝った方が食われる。生きるには何かを殺さねばならない。食うか食われるかの闘争は人間界でも常に無数に生じている。それが人間の繁栄の原動力にもなっている。だが、ここに疑問を抱けば宗教が姿を見せる。それを知る人間は他の動物より優れているのか劣っているのか。食われてもいいと思うような心が優しいとして、動物にそのような優しさがあれば種の繁栄はない。となると、食われてもいいと思う心は優しさという美徳ではあり得ず、それはむしろアホということだ。アホは死ななければ直らない。
 人類がなぜ月や火星など、ほかの天体に関心を持ってそのことをもっと知りたいと思うのだろう。走り始めた船、つまり始めた研究は止まらないということが最も大きな理由だろうが、科学者ばかりが純粋な探究心で人間界を動かしているはずがない。どの国よりも先に到着して何か利益があるかもしれないという、大航海時代の時と似た利害心がそこには働いてもいるだろう。とにかく土地は広大、しかもどんな鉱物があるかもしれない。ロマンというのも金の沙汰次第という面があって、月や火星に人類が行ったり住んだりするようになるとしても、それは人間生活の面から見てどう利用出来るかという観点からあらゆるものが決められて行くだろう。そう思えばそれこそロマンも萎む気がするが、人間とはそういう存在であるから仕方がない。生きるのに必死という点でカリブーの子どもや狼と永遠に一緒の存在なのだ。となると、先に書いたように未来の地球や他の住み着く惑星では今と同じようなことが相変わらず繰り返されているだろう。生物である限り、闘争や他の存在を食うということからは逃れられない。それがわかってしまうと、月や火星がどういう姿であってもどうでもよいという気にもなる。なぜなら、いつか月や火星で繰り広げられる人間の行為のすべては現在の地球に毎日そのまま生じていることの再現以上では絶対にあり得ないからだ。そう考えることは「退屈」で、人間はそれを紛らわすために星を眺めたり、あるいはロケットを飛ばしたりするが、火星に実際に住んだとしてもこの「退屈」の思いは人間からは消え去らないに違いない。それで今日はマーク・トウェインの最晩年の異版のある小説『不思議な少年』だったか、それをぼんやり思い出していた。トウェインが今生きているとして、火星の3次元写真を見ながらきっと筆者と同じようなことをいろいろと思ったのではないかと思う。その「退屈」をごま化すために人間はあらゆる娯楽を開発して来たが、火星の表面を3次元画像という一種の娯楽形式で提供している今回の催しは、やっぱりなあという思いにさせる。
 3次元画像は全部で6点あった。1枚が畳3枚ほどの大きさだろうか、とにかく迫力があってその前に立って赤青眼鏡で見ると、それなりに本当に火星を上空から見ているような錯覚に囚われる。だが、どの写真も灰色っぽくて、寒々とした感じが押し寄せて来る。6点は「水の痕跡」「火山」「地質構造」「氷の痕跡」「大気と風」「浸食作用」という、火星の特徴的な地勢部分をそれぞれ選んでいて、説明の文章も端的でよかった。オリンポス、アケロン、マリネリスなど、火山や谷にはみな名前がついていて、これらは最初に見つけた国の科学者が早い者勝ちで勝手に命名したものだろうか。火星は表面が岩石で出来ていて、この点で地球型の惑星と言える。山や谷、火山、砂漠があり、大気は二酸化炭素、気圧は低い。自転軸が公転軸に対して傾いているので四季があり、北、南極での氷の増減が起こる。1年は地球の2倍で1日は地球とほぼ同じだ。夏の赤道付近でも気温0度くらいしか上がらず、冬の極地ではマイナス100度を大きく下回る。表面積は地球の全大陸面積の合計とほぼ同じで、地形は全体的に地球の大陸や海底よりかなり古い。地球より山は高く、谷は深い。南半球は大きな隕石の落下で出来た深いクレーターのある古い高地、北半球はより新しくて平らな低地となっている。太陽系内で最も巨大な火山は火星に存在し、そのうち4つは2万メートル以上の高さがある。数十億年間、火星の地殻内でマグマが供給される位置が変わらなかったため、ここまで火山が成長した。火星表面は現在は風が吹くのみで、噴火があるかどうかは疑問視されている。多くの谷の形から見て、火星には水が流れていたことがわかる。現在は水があっても低い気圧と寒さですぐに凍りついて蒸発する。深さ数百メートルまで地中に氷があったか、現在もその可能性はあるかもしれない。衛星は「フィボス」と「ダイモス」のふたつで、球ではなく、デコボコと不規則な形をしている。前者は「恐れ」、後者は「悪魔」の意味だ。前者は最大の径でも22キロメートルしかなく、後者は前者の半分の大きさとさらに小さい。1877年にアメリカ海軍天文台の天文学者が発見した。
 簡単に火星ロケットの歴史を書いておく。1965年、NASAの無人探査機マリナー4号が詳細な南半球の写真を地球に届けた。同9号は太陽系の他の惑星軌道を回る初の探査機となり、71年11月に火星に到着、約1年火星を周回した。最初の数か月は猛烈な砂嵐のために撮影不能であったが、その後7000枚以上を撮り、火星表面の3分の2ををカヴァーして初めて詳細な地図の作成が可能となった。75年夏には重量3.5トンの火星探査機バイキング1号と2号を載せたふたつのロケットが打ち上げられ、1ピクセル当たり100メートル以下の分解能で5万枚もの写真を撮った。これに基づく地図は現在も火星研究の基礎となっている。76年には2機のバンキング周回路からそれぞれ離脱して、クリセ平原とユートピア平原へ着陸し、数か月ないし3年もの間動作して、地球に55万枚もの火星上の砂漠風景写真を送り続けた。97年以来現在もアメリカのマーズ・グローバル・サーベイヤーは火星周回軌道上にあり、データ送信を続けているが、これはレーザー高度測定装置が初の全球規模の高度な地図を作成するもので、1メートル以下の細部が捉えられている。97年夏は数か月間、6個のタイヤのついた靴ほどの大きさの探査機ソジャーナが火星の岩の間を走行したが、これは記憶に新しい。さて、今回はヨーロッパ宇宙機関(ESA)の成果を見せるもので、宇宙と言えばNASAという日本における固定観念を崩すもので、その点でも意義があるだろう。「マーズ・エクスプレス」はESA初の太陽系天体探査機で周回船と分離式の着陸機から成るプロジェクトだ。最初のアイデアから実際に飛び立つまで5年、比較的低コストで済んだ。2003年6月2日にソユーズ・ロケットでカザフスタンのバイコール宇宙基地から地球周回軌道に運ばれ、その後火星までの4億キロメートルの軌道に移された。2003年半ばは火星と地球の位置関係が燃費的に非常に好つごうで、同年12月にマーズ・エクスプレスは火星に到着し、火星を周回する楕円軌道に入った。これは2007年末まで回り続ける。マーズ・エクスプレスにはドイツが開発した高解像度ステレオカメラ(HRSC)が搭載され、カラー撮影、3次元表示が可能となっているが、最も接近するのは火星から250キロメートル上空だ。HRSCは最大1ピクセル当たり2.5メートル四方の分解能の写真を撮るが、カラーの3次元ステレオとなると平均10メートル、モノクロではその4倍の解像度になる。いずれにしてもこれほどの解像度で火星全体が撮影される時代が来ているとは知らなかった。チラシには地球上の土地の地形図よりも精度がよいとあるが、何ともすごいことだ。だが地球のように変化に富んだ表面ではなく、岩と砂ばかりでは詳細な画像を見てもすぐに退屈する。3D眼鏡で立体的に浮かび上がる火星表面は、抽象画にようにも見えて思わず写生しようかという気になったが、赤と青の眼鏡を通してでは不自由なので諦めた。それにそっくり描けても、それが火星だとは誰も思わない。火星表面はよくわかったので、次は内部探査の番だが、自在に動くロボットが必要なようだ。1万年どころか、数十年先にはきっと実現するだろう。それはロマンと退屈の戦いだが、きっと日本が参加してロボットをガンダムのデザインにするなどして娯楽部分の役割を担うことだろう。人間は長く生きてみるものかな?
by uuuzen | 2006-05-09 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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