「
蒲原を 雪降る町と 覚えしは 広重描く 浮世絵を見て」、「龍描く 凧の飾りに 飽きる頃 寒さひときわ 大空に風」、「裏庭の 白梅見ては 雪想う 暖冬よくも 猛暑うんざり」、「自己流で とにかく好きで 作るべし 自分の位置を いずれ気づくも」

「風風の湯」の従業員は男女ともに4人ほどいる。筆者が訪れる夜の時間帯では3人態勢だが、昼間は多い時には百人の団体が入ることもあるとのことで、そういう場合は特に「花伝抄」から臨時で客の対応に入ってもらうようだ。最近マネジャーの男性が変わったようで、何度か顔を見たことがある。以前のマネージャーもめったにフロントに姿を見せず、脱衣場の清掃はしないので、表向きからは特別の仕事があるようには見えないが、新しいマネージャーは英語が堪能なようだ。外国人客が多い事情に鑑みて雇われたのだろう。フロントがどういうローテーションで勤務しているかは毎日利用している嵯峨のFさんもわからず、何曜日に誰が入るかは全く決まっていないようだ。マネージャー以外は時間給であるから、責任感はさほどなく、急に休む場合もあるからだろう。フロントはFさんや筆者のような常連の顔と名前を覚えているが、たぶんフロント全員とよく言葉を交わすのは筆者が筆頭のはずで、そうした会話から相手の経歴や現状がいろいろとわかる。先月はフロントのあちこちに手描きの凧が飾ってあった。どこで入手したかを訊くと、勘違いとは思うが、アルバイトの美大生が描いたと言う。ついでにスマホで「花伝抄」の玄関に飾られている龍を描いた看板絵を見せてもらえた。凧の絵は武者や龍など、どう見ても熟練の絵師の手になる。一方の龍の看板絵はかなり素人っぽい。正月らしい演出を心がけていることはいいとして、アルバイトの美学生に描かせるのは、時間給で雇っているからには、客の応対も清掃も、また得意の絵もこなすべきとの経営者の考えか。それに美大生も自分の絵が大勢の客に見てもらえるのは嬉しいだろう。その美大生は誰かと訊くと、去年からフロントでたまに顔を見る20歳そこそこの女性Kさんで、夜の9時15分頃から始まる大きな休憩室の片づけ時に深夜に帰宅するのは怖くないかと話しかけると、「風風の湯」のすぐ近くに住んでいるという。ならば筆者の自治会で、2軒あるアパートのどちらかだ。それはどうでもいいが、松山出身で嵯峨美の学生だ。筆者はスマホを持たないので、自作を即座に見てもらうことは出来ないが、「ゆうゆうゆうぜん」の言葉を教え、友禅染の作家であることを伝えた。彼女がアルバイトに励むことは事情があるとして、遠方から京都に単身で出て来たからには、4年の間に貪欲に美術館、博物館に足を運び、またスケッチも毎日のようにすべきだが、20歳くらいではそういう自覚、決意を持つことは難しいか。また本人も学校を出た後、絵の腕で生きて行くことの厳しい現実をそれなりに知っているであろう。
