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●『京阪アコーディオンクラブ・コンサート』続き
行に 特準区間 ややこしき 鈍行でよし 暇を楽しみ」、「つなぎ目の 蛇腹が示す 電車蛇 人を飲み込み 吐いては走り」、「好きになり さびしさ感じ なるほどと 自覚あるのに さびしさ消えず」、「音楽は 何を意味する 吾知らず 不思議を言えば 胸の高鳴り」
●『京阪アコーディオンクラブ・コンサート』続き_d0053294_12515061.jpg
没にするには惜しい写真があるので昨日の続きを書く。ただし別の切り口から。堂本印象美術館近くにパンやケーキを売る店があってそこでランチをよく食べるが、もう何年も利用しているのに店の名前が横文字で覚えられない。ただしロゴマークは天使の広げた白い羽根で、ピアソラの『天使の組曲』がBGMで鳴っているかと言えば、もっぱらフランスの筆者の知らないアコーディオン奏者の曲で、それが抜群の速弾きでもあって思わずパリで食事している気分になれる。それはさておき、丸尾知子さんが本コンサートで「天使の死」を演奏したのは、杉村壽治先生の死を悼んでのことと思えばあまりに出来すぎている感がなきにもあらずだが、人生には目下の自己の大きな関心事が個人的なある目立つ出来事と符合していると思える場合はよくある。それは簡単に言えば縁ということになるし、また至るところでその大小は生じている。縁の発展すなわち大きな縁はめったにないが、小さなそれでも慰めになるもので、それほどに人間はつながりを持とうと本能的に思う。さて、午後1時半の開演に充分間に合った筆者は前から2列目の中央やや左寄りに陣取った。やがて斜め後ろに80代半ばの女性が座り、隣りにいた同世代の女性に話しかけ始めた。開演までの20分ほど、話しかけられた女性は相槌を打ちながら話を聞いていたが、それは筆者も同じで、ふたりの顔や姿を想像していた。話しかけた女性は10年ほど前か、娘さんを癌で亡くし、その悲しみのあまり睡眠薬で自殺を図ったこともあったと言い、やがて目覚めて夫と旅行によく行くなど、人生を楽しむことにしたそうだ。それで2日に一度は外出して見知らぬ人に話しかけ、本コンサートもその一貫として訪れた。話しぶりからして毎年来ているのだろう。寝屋川市内在住であれば健康である限り、それは可能だ。演奏が始まって50分ほど後に休憩があり、座ったまま振り返とほぼ満席で、去年より客入りは多かったと思う。休憩後にはブログ用に写真を撮るのに最適な最前列の中央に座った。先のふたりの高齢女性は同じ場所で筆者のすぐ背後で、休憩前より話はよく聞こえた。よく喋る方は「毎年来てるけど、昔は5,6人の客しかおらへんこともあったんですよ。それに演奏は大分ましになって来た。」と言い、筆者は思い切って振り返ってふたりを見ながら、「このコンサートは何年前から始まったのですか」と訊いた。「コロナ以前からやけど…」という返事であった。何回目であろうがよく、外出のひとつの楽しみ以上のものではないのだろう。そうした客が大部分と思うが、当然5,6人よりはいい。
●『京阪アコーディオンクラブ・コンサート』続き_d0053294_12520401.jpg 見知らぬ人がホールに集まり、多くのアコーディオン奏者の多彩な演奏を聴くという非日常的時間の共有が印象的で、その味わいを求めて毎年訪れる人が多いはずで、また筆者のように片道2時間かけて訪れる人は稀と思う。ほとんどの人はプログラムにはないアンコール曲「伊勢佐木町ブルース」が終わった後にそそくさとホールを後にし、いわば奏者らに縁を求めて話しかける人はなかったが、筆者はせっかく丸尾さんの姿を1年ぶりに見るからには挨拶くらいはして帰りたい。今回のコンサートは金森幹夫さんからのメールで知り、また去年、一昨年と違って彼は他に用事があるので行けないとメールに書いて来た。それは6日の朝のことだ。丸尾さんが当日大阪で演奏することも書かれていたが、メールを見たのが11時過ぎで、それから準備して大阪に出ても間に合わなかった。それに前日は夜まで大阪にいたので疲れてもいた。今年は丸尾さんの演奏を聴く機会は本コンサートしかない。面倒くさいこともあって部屋に吊ったままの時代祭の時と同じ服で出かけたが、あまりに目立つのでたぶん会場では訝られたろう。開演前に丸尾さんが姿を見せ、筆者を認めた瞬間、着ているものを見て小声で驚いた様子を口走ったが、去年夏も同様の反応であった。さて、観客が早々とホールから出ていた後は演奏者たちも椅子を片付けるのに忙しく、筆者はどぎまぎしていると、丸尾さんがやって来てくれた。言葉を交わすのは年に一度程度で、またいつもわずかしか話をせず、たぶんこれまでの会話を全部合わせても5分に届かない。またメールもほとんど交わさないので6日の大阪市内での演奏も知らなかった。丸尾さんと話していると小野寺さんの姿が見えたので当日のモーツァルトの曲について質問した。また米谷さんがマスク姿で現われ、去年のコンサートの感想をブログに投稿したことに対してお礼を言われたが、筆者は好き勝手に書いているだけで礼を言われたことは初めてのことと言ってよく、返す言葉に戸惑った。米谷さんは小野寺さんの演奏を紹介するに当たって、奏者によってかくも味わいが違うことを強調し、小野寺さんの当日の演奏曲は悲しみを帯びているといったようなことを言った。曲はモーツァルトの「グラスハーモニカのためのアダージョ」とアスティエの「古いスタイルの曲」で、米谷さんの言葉は後者の曲に対して特に言える。さっそく調べるとアンドレ・アスティエは1994年に71歳で没したアコーディオン奏者、作曲家で、技巧的な曲が多いという。ラヴェルの「古風なメヌエット」とは全然違う曲だが、指向性は似ているだろう。「グラスハーモニカのためのアダージョ」はモーツァルト晩年の当時流行した珍しい楽器のための曲で、グラスハーモニカは水の量を変えて音階を奏でられるように並べたワイングラスの淵を濡れた指でなぞることで音を生じさせる。
●『京阪アコーディオンクラブ・コンサート』続き_d0053294_12523957.jpg 小野寺さんは無表情で演奏し、笑顔を全く見せない。そのことを去年のブログに書いた。今回彼女がステージに姿を見せた時、筆者は真正面にいた。彼女は筆者の姿を認めたのかどうか、一瞬笑みを見せ、それからはそれをたびたび見せた。そのことに驚いた。彼女の笑顔が想像出来なかったからだが、無表情とは打って変わってそのあまりの落差に暖かい何かをいただいた気がした。もちろん演奏を始めると真剣な顔になるが、それ以外では今回は気分的に余裕があったのか、近寄り難さはなかった。丸尾さんと話す前だったか、彼女がステージの裏手から出て来たので声をかけた。モーツァルトのグラスハーモニカのための曲について、どういう理由でそれを選んだのか聞きたかったのだが、とんちんかんなことを口走った。筆者はモーツァルトのLPを20代初めに買い始め、CDもかなり持っているが、本格的に聴いたのは吉田秀和がNHK-FMで二度目のモーツァルト全曲放送を始めた時からだ。彼の会話を除いてすべて録音し、それは2時間テープ80本になった。ブルーノ・ホフマンがグラスハーモニカを奏でるLPはその第1集しか見つからず、モーツァルトの曲を含む第2集がない。そこで前述のカセットで聴いたが、小野寺さんに訊ねたかったことは、グラスハーモニカというきわめて特殊な音色をアコーディオンで再現することは無理として、それをどこまで模倣出来るかの可能性を彼女がどう思っているかだ。というのはアメリカのアコーディオン奏者兼作曲家のガイ・クルーセヴェックのアルバムに、グラスハーモニカをそっくりの音色があるからで、それはグラスハーモニカを奏でるには神経を擦り減らし、時にその障害を起こすことを納得させる繊細を表わしている。丸尾さんもクラシック曲を演奏するが、その傾向は小野寺さんにより強いように見える。米谷さんは司会する中で小野寺さんの露出が限られていることを言った。それは小野寺さんの人前での演奏に対する意欲の問題でもある。クラシック曲をアコーディオンで演奏する催しはもっとあってよいし、彼女が笑みを忘れずに客に接すればファンは増えるだろう。ファンと書いたが、当日の米谷さんは筆者を丸尾さんのファンと呼んだ。確かにそうだが、70代が自分の娘世代の女性を追っかけるというイメージは嫌であるし、ファンであるとしても陰ながら応援する意味合いであり、また本コンサートは丸尾さんの演奏だけが目当てに訪れたのではない。誰でもいろんな事情を抱えながら好きなことをやろうとする。それは筆者も同じだが、若い世代が経済的な労苦を抱えつつ芸術行為に励む様子を見ていると、自分の若い頃を思い出して切なくなる。まあそれでも笑みは忘れないことだ。小野寺さんが最初に書いたパンとケーキを売る天使の羽根の店に行ったことがなければ、お勧めする。それも小さな縁ということになる。

by uuuzen | 2024-10-30 23:59 | ●その他の映画など
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