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●温泉の満印スタンプ・カード、その62
角を つなぐ視線の 萌え心 どこ見てんのよ 前向いててよ」、「老いるほど 雰囲気似るや カップルの 苦楽滲みて 人形じみて」、「ペアルック 恥ずかしがりて 胸隠す Tシャツ柄の 大きなハート」、「若くして 気づくも知らぬ 老体の 錆の不便と 詫びの不断と」
●温泉の満印スタンプ・カード、その62_b0419387_23223731.jpg
今年のの締めくくりとして書いておきたいことがある。だが伏せるべき箇所をどのように曖昧に書くかは難しい。こうして書き始めながらも何度も話題を別のものにしようかと迷う。「風風の湯」は筆者だけではなく、常連客のひとつの社交の場になっている。挨拶程度で済ます間柄もあれば、Fさんとのようにサウナと水風呂で30分近くは話す場合や、また双方の夫婦で親しい85Mさんもいるし、常連客のほぼすべては顔を見れば挨拶し、時には湯舟で雑談を交わす。それだけのことでも、週に一度そういう関係があれば1年ではそうとう話題が積り、趣味その他、互いの生活がわかって来る。Fさんは以前は別のスーパー銭湯に長年通っていて、そこで40人ほどの常連と顔馴染みであったのが、次々に死没して半数ほどに減った頃、「風風の湯」を利用するようになった。自転車で距離は倍ほども遠くなったのに、たいていいつも空いていることが気に入ったのだ。Fさんは親しくなった常連であってもやがて話題が尽き、挨拶で頷く程度の関係になると言ったことがある。ところが筆者とはサウナに一緒にいる間、文字どおり「裸のつきあい」と言っていいか、話題は尽きない。互いの関心事はそれこそ180度違い、本来は会話が全く成り立たないにもかかわらずだ。Fさんの利用時間は以前は1時間ほど早かったのに、今は少しずつ遅く訪れるようになって来た筆者に合わせているようで、必ずサウナで一緒に座る時間を持つようにしていることがわかる。他愛ない話題に終始するが、それでも奥さんを亡くして10数年経つFさんにすれば、会話相手として筆者は筆頭格で、「風風の湯」の利用を人生の楽しみのひとつにしていることがわかる。さて、Fさんは従業員らとは気楽な会話をほとんどしたことがない。時給1000円ほどで働く連中で、極端に言えば人間の質が低いと思っている。その考えにはそれなりに理由がないこともないが、人は見かけによらない。個人の想像が及ばない場合は往々にしてある。簡単に言えば、侮ってはならないということだ。さて、去年「風風の湯」で働き始めた70代のXさんがいる。詳しい家族構成は知らないが、息子さんとの同居と聞いた。ある日Xさんは筆者が湯から上がってフロントで家内を待っている時、スマホ画面を見せながら経歴を説明してくれた。Fさんの言うように、ほかに働き場所がなく、どこも雇ってくれないので仕方なしに遠方からやって来ているのでは全くなく、20数人雇う会社を持っていて今は従業員にそれを任せているという。つまり経済的には全く困っていない。
 その話をXさんから断片的に聞いて来たが、人生は結局真面目であることが一番の財産であることを再確認する。Xさんは会社を作って一儲けしようと考えて人生を歩んで来たのではない。黙々と働いていたところを、別世界と言ってよい人の目に留まり、助言を受けて会社を設立し、順調にそれが成長した。仕事場は高速を使って3,40分のところにあり、少しずつ社員を増やして来たのはいいが、全員がほぼ終日誰とも話さず、また話していると仕事にならない。Xさんはそれが嫌でならなかった。それで年齢もたぶん70になったので経営を後継者に譲った。社長としての給料を今も受け取っているのかどうかは聞いていないが、そんなことはどうでもよい。Xさんは高級車に乗り、金には不自由していない。会社に顔を出さなくてよくなり、しばらくは家で過ごしていたが、やはり誰とも話さないのは退屈でさびしい。それで求人広告を見て「風風の湯」にやって来た。Xさんが働き始めて間もない頃の様子を筆者はよく覚えている。それが今ではベテランで、話の合う常連とはよく話し、また筆者夫婦にはとても親切だ。いつもフロントにいるのではなく、筆者らの利用の3回に一度程度しか会えないが、会えば必ず家内の体の具合を心配してくれる。働く必要のない多額の預金があっても人はさびしさを抱える。金のない人はさらに孤独ということになるが、他人のそれはわかりようがなく、また知りたい思いもないし、そこにまた孤独が厳然とある。さて、XさんのことはFさんには全く話していないし、今後も言うつもりはない。Xさんの反応がわかるからだ。「嘘に決まってる!」の一言で終わりだろう。Xさんが大金持ちに全く見えないのは、金を第一に考えた人生を歩んで来なかったからだ。ただ働くことが大好きで、人と楽しく話すことはもっと好きだ。そういう人には心が響き合う人が多い。Xさんは学歴はなく、教養と呼べるものもないはずだが、人を見る目が優しい。FさんもXさんも筆者も70代で、いつまで元気で「風風の湯」で話を出来るかとなれば、5年も残っていないだろう。そんなことはほとんど考えず、夕方になればFさんは自転車で渡月橋を越えてやって来るし、筆者と家内はいつも連れだって風呂桶に着替え、そして回数券と2枚のポイントカードを持って出かける。そして玄関の自動扉が開いて正面のフロントにXさんの姿があれば遠目に笑顔を交わす。それだけの関係だが、そうした些細なことが常連客同士ではたくさんあって、人生模様の一端を垣間見るようでまた楽しくもある。SNSでは無数の人との言葉の交わし合いが可能だが、実際に対面しての会話は全身を互いに晒し、人柄は隠しようがない。そしてそういう関係において多くの人に暗黙のうちに人格者として認められることが、70過ぎの大人のあるべき姿ではないか。ところが残念なことに人は収入の多寡や過去の経歴に囚われやすい。
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by uuuzen | 2023-12-29 23:59 | ●新・嵐山だより(シリーズ編)
●『藤田嗣治 心の旅路をたどり... >> << ●阪急嵐山駅前の林のフェンス一...

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