「
2の次は 3と知るなら 兄さんよ 四の五の言うは ろくでもないぞ」、「丸々と 西瓜見つめる 老夫婦 割って出るは 金太郎君」、「夏の夜 水にザブンと 身を沈め 蛍ちらほら 舞いて光るや」、「蘇鉄鉢 買って水やり 真面目顔 スピリチュアルに 魅せられし女(ひと)」
筆者が所有するガレージ用の土地を借りていた50代のAさん夫婦が先月17日に引っ越しをした。関東出身の転勤族で、2019年5月からであったので4年少々の京都暮らしであった。市内での営業が一通り終わったのだろう。お子さんはおられず、奥さんは専業主婦で終日家におられた。ご主人はトランペットが趣味で、クラシック音楽の演奏会でよく吹くという話を引っ越し間近になって聞いた。音楽が趣味であるからCDは大量に所有し、もっと早くもっと親しくなっていれば音楽談義に華を咲かせられたが、多忙な人ではそれは無理であったかもしれない。最後の雑談で「同じCDを買うことがありませんか」と訊くと、「たまにありますね」との笑顔の返事であった。筆者は本もそういうことがたまにあり、最近だぶって買った本をひとまとめにし始めた。今のところ30冊ほどで、江戸時代の版本もある。そこにだぶって所有するCDを加え、全部ひとまとめにしてネット・オークションに出品すると、まあ誰も買わない。本やCDが価値のわかる人に巡り合うことは気の長い話だ。筆者はヤフ・オクである商品をウォッチ・リストに入れたまま5,6年経っている商品がいくつかある。値が下がれば買ってもいいかと思いながら出品者との根比べだ。相手は価格を下げず、筆者は絶対にほしいものではないのでそのまま放置している。たまにはそのように長年買い手が現われない商品が売れる時があって、「ああ、惜しかったな」と少しは悔いるが、ほしいものは次々に湧いて来て、すぐにその画面から消えた商品のことを忘れる。物はつまるところ、その程度の欲望の対象と思っておいてよい。しかしごく稀に一生に数度しか出会えない物が出現すると、何が何でも手に入れなければと思う。そこは価格との相談だが、不思議なことにそういう商品はたいてい筆者のもとにやって来る。それだけほとんど誰も注目していないからで、物との運命的な出会いは競争せずして実現することが多い。それはあまり一般的ではない物に関心があるからとも言える。「知る人ぞ知る」はどんなことでもそうで、意味のない言い回しだ。話を戻すと、A夫妻はつくば市に転居し、それが最後の赴任先になると聞いた。奥さんに「関東は地震が多いでしょう?」と言ったところ、「ええ、京都は地震が少なくてよかったのに、また多いところに戻らねばなりません。茨城なんか、毎日揺れていますよ。」しかし京都もいつ大きな地震があるかわからないし、たまに市バスの発着する音が風の流れでよく聞こえる時は、その振動音を地震と勘違いすることはよくある。
Aさんの奥さんは引っ越しする数日前に蘇鉄の小さな植木を持って来て、わが家の玄関脇の植え込みに半ば隠れるように置いた。「大山さん、これ育ててください。」わが家には大きな蘇鉄の鉢がふたつあって、広がった葉の直径は大人の身長ほどはあるので、もう育てる場所はないが、彼女の持参した蘇鉄は買って間もない小さなものだ。葉色は深緑ではなく、黄緑で、筆者のものとは別の品種かもしれない。小型のままさほど大きくならないのであればいいが、どう育つかはわからない。とりあえず邪魔にならないようにと隣家の裏庭に移した。マンション住まいの人が観葉植物をほしがり、また大きく成長しない品種を求めるのに応じて、園芸会社は矮小性の蘇鉄を生み出したかもしれない。奥さんは観葉植物に詳しく、片仮名のしかも長い名前の植物をいくつも口にし、つくば市に転居してからもそういった植物を育てたいと言っていた。そこに筆者がいただいた蘇鉄も加えればいいのに、他のもっと大きな観葉植物を育てる思いがあるのだろう。引っ越しの大型トラックが2台出発した後、ご主人が運転するベンツに残りの荷物を目いっぱい積み込み、筆者が見送る中、先月17日の夕方に出発され、それでもう二度と会うことはないかと思っていたところ、1週間後の24日、奥さんだけがまた来られた。借りていた家を家主が点検することに立ち会う必要があるとのことで、幸い1時間も要せずに立ち合いは終わった。彼女はわが家にまた挨拶に来られ、筆者は一緒にJRの嵯峨嵐山駅まで見送ることにした。炎天下で、15分の歩きでも汗まみれになり、入ったことのない駅前の喫茶店で少し涼むことにした。それはいいとして、中の島公園に入る太鼓橋をわたっていると、彼女はすぐ上流の川面を見て、「あれは梅花藻ですよね。」と言った。筆者は桂川支流に1週間ほど前に繁茂したその水生植物は駆除に厄介な単なる藻かと思っていたが、よく見ると白い小さな花がところどころに咲いている。「風風の湯」に行くのに必ずその水面を見るので、今年初めて咲いたことは確実だ。関西のTVニュースは滋賀の醒ヶ井などで毎年咲く梅花藻を必ず報じるが、記者が知っていればニュースにするはずで、
「カナダモ」の可能性もある。確認のために手を伸ばして一部を刈ればいいが、筆者なら川の中にドボンと落ちる。筆者は梅花藻を若冲の拓版画で知り、その実物を見たことがない。Aさんの奥さんに言われて気づき、その2日後の今日、満開を見計らって撮った写真を3枚掲げる。梅花藻が咲くのは水質がきわめてよい川の流れの中だ。渡月橋から100メートルほど下流の流れが静かな支流であるために、梅花藻である可能性はあるか。同じ支流ではオオサンショウウオがたまに見られるし、蛍もよく飛ぶ。大勢押し寄せる外国人観光客は、嵯峨の竹林には訪れても、そういう日本でも珍しい自然にはほとんど関心はないだろう。
●スマホやタブレットでは見えない各年度や各カテゴリーの投稿目次画面を表示→→