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●『ZAPPA ‘80:Mudd Club/Munich』その3
固き 茹でて柔らか キャベツ見て 頑固者にも 弱点ありと」、「満開の 椿に来たる 歌う鳥 初めて聞きし 姿見えぬや」、「春が来て 雀生き延び 餌豊富 ああよかったね ほんとよかった」、「杉植えて いずれ利益を 願いしも 花粉で困り 不利益が大」●『ZAPPA ‘80:Mudd Club/Munich』その3_d0053294_00531132.jpg 本作は冒頭の「チャンガの復讐」という古い曲から前年発売されたばかりのアルバム『ジョーのガレージ』の収録曲、そしてアルバム未収録の新曲の3つを楽しむが、ザッパはアルバムで発表する以前に新曲をライヴで披露することを絶えず行なって来たから、80年のステージが特に変わったことがあったとは言えない。ザッパは古い曲を新しいアレンジで演奏することは普通だが、本作でも目立つ古いヴォーカル曲は新たな歌手が歌うので、新ヴァージョンと呼ぶにふさわしくなった。同じ曲でも演奏ごとに違うのはどのバンドでも言えそうだが、ザッパはアルバムでの発表をいちおうの完成作とみなしつつ、その再現をステージで繰り返すことに関心はなかった。その意味ではジャズに近く、そのジャズの命である即興演奏についてはザッパのギターに存分に発揮された。本作はジャケット見開き内部の写真のように、ステージ前面中央にザッパが陣取り、両脇を同じギタリストでヴォーカル担当の黒人で固めた。これはバンドの音を端的に表わしている。つまりヴォーカル曲をレパートリーの中心にし、同じ程度にザッパのギターを強く押し出すことだ。本作はディスク3枚ともヴォーカルがない部分はザッパのギターが猛烈に鳴り響き、ヴォーカルとザッパのギターは位が等しい。もちろんザッパ・ファンはザッパのギターをより聴きたいし、ザッパはそのことを知りながら80年代に入ってヴォーカル曲の量産に務めた。それがレコードの売り上げにつながったからだが、40数年経った今、本作を聴くとヴォーカル曲はアルバム・ヴァージョンとは差はあってもわずかであって、正直なところ聴き慣れた歌をまた聴かされる思いが拭えない。そのことをザッパはよく知っていたであろう。それで生前本作の録音を1曲を除いて発表しなかった。ヴォーカル曲はもっと仕上がりのいいものを後にアルバムに収め、ギター・ソロも後に発売するギター・アルバムに収めるほどの出来栄えのよさを持たないと考えたに違いない。結果的に本作の音源をほとんどアルバム化しなかったことはそう思われても仕方がない。それで本作が80年夏に急遽アルバムになっていたのであれば、ファンの捉え方は違った。最初に書いたように未発表曲をいくつも含むからだが、その未発表性が40数年後の現在意味をなさない。しかしザッパの音楽をあまり知らない若者であれば話は別だ。また本作の価値のひとつとして1955年の他人の曲「ナイト・オウル」が初めてアルバムに収められた。この曲は2分少々という長さに置いても「ジョーのガレージ」を作曲するヒントになった。
●『ZAPPA ‘80:Mudd Club/Munich』その3_d0053294_00533896.jpg ところで80年代はニューウェイヴの音楽が世界で持てはやされ、ザッパはその動きを横目で見ながらレゲエのリズムに執心し、自作曲だけではなく古い曲もそのリズムを使うことになった。前述の「ナイト・オウル」のザッパによる演奏は海賊盤で昔から知られていて、そのヴァージョンはザッパのリード・ヴォーカルにボブ・ハリスのファルセット・ヴォイスが終始被さり、80年秋のツアーでのライヴだが、それより少し早い春の演奏が本作に収められた。そしてこの曲の伴奏はスカ風で、ボブ・マーリーとザ・ウェイラーズにそっくりな曲があって、ザッパにすれば四半世紀前の曲を最新の流行のリズムでカヴァーした「新曲」のつもりであったのだろう。ザッパはニューウェイヴのミュージシャンに対してはバーキング・パンプキン初の81年春のアルバム『ティンセルタウンの空騒ぎ』に収めた同アルバムの代表作「ブルー・ライト」の歌詞で茶化したが、ボブ・マーリーのような土着的なリズムを引っ提げて登場したバンドに対しては大いに認めていた、あるいは大いに羨ましがったと言うべきだろう。話をザッパのギターに戻すと、80年春のザッパはステージのメンバー配置からして、歌とギターの演奏をひとまず等価とみなした。よく言われるようにヴォーカルを担当しないギタリストはギターの演奏で歌う。このことはギターの演奏に独創性の妙味がある場合は真実だろう。ギターの即興演奏の味わいはさまざまで、人の声による歌を意識しないものもあるが、初期のザッパがジャズ的なメロディの曲を書いた時、それらはみな歌詞も書いて、歌って楽しく、聴いて楽しいことを心がけた。たとえば「アラベスク」という曲をザッパは主にギター曲として書き、録音したが、筆者は同曲に歌詞をつけて歌えると考えている。これはザッパの曲は歌を元にしていることを意味し、本作は全編がヴォーカルとザッパのギターによる歌から成るとみなしてよいが、ヴォーカル・パートが完成したメロディであるのに対し、ザッパのギターはステージごとに実験を試みた即興で、そこから完成したメロディに昇格する部分が常に多いとは限らない。むしろ少ない。ザッパはそうした完成度の高い旋律を多く含むギター・ソロの披露に努力し続けたが、めったに神がかり的な名演が得られないことを自覚していたろう。ところが稀に得られるそうした演奏のみを集めてアルバムにしたい考えが70年代半ば頃から芽生え始め、バーキング・パンプキンを設立した頃にはLP3枚分の録音は優にたまっていた。その成果が『黙ってギターを弾け』となったが、80年春の演奏は省かれた。それででもないが、本作のギター・ソロは半ば手馴らし、半ば既視感に終始する。つまり平たく言えば型にはまったヴォーカル曲とそう大差がない。もちろんザッパならでは音色やフレーズに満ちるが、飛び抜けて目立つ演奏箇所に乏しい。
●『ZAPPA ‘80:Mudd Club/Munich』その3_d0053294_00541354.jpg ザッパがギターを歌うように奏でるとして、その歌の原点は幼ない頃に教会で聴いたカトリックの聖歌だ。ザッパのギター・ソロにおけるいつ終わるともわからない念仏めいた、またそうであるゆえに陶酔的なアラベスク風の旋律は、60年代半ばに成果を見た後は死ぬまで変わることがなかったと見てよい。最近筆者は「バーント・ウィーニィ・サンドウィッチのテーマ」をまた聴いているが、頭の中で同曲は「ヨー・ママ」のギター・ソロにかぶる。67年のソロが78年のソロと基本的に変わらないのは当然であろう。筆者はそのどちらにも、延々と続く教会旋法の、ある意味では終始単調な、ある意味ではその単調さの中で最大限の変化を求めた「変奏」を聴き、いつ始まっていつ終わってもいいような捉えどころのなさに捕らえどころがあるというような魅力に浸り続ける。ただしザッパのソロがみなそうとは限らない。歌を強く意識した、またスタジオで神が降臨したとしか言いようのないギター・ソロの代表曲が「グリーン・ジーンズさんの息子」だが、同曲では16小節の主題の変奏が16小節ごとに10いくつも接続され、全体として大きな山場を築き上げつつ、最後はまた主題で終わる。ブルースに片足を置いたギター変奏曲だが、同曲のような凝ったギター・ソロ曲をその後は作らず、スタジオよりもステージを選び、やり直しの利かない一発勝負にかけた。そしてライヴ音源のソロをスタジオで聴き直し、饒舌な部分かカットして出来のよい部分をつなぎ合わせることをしたが、それは「グリーン・ジーンズさんの息子」でも行なわれたことで、ザッパは自分のソロを厳しく剪定(選定)した。これは長く歌われ続ける名旋律はそう簡単には生まれないという正直な思いの反映だろう。名旋律を生むことは流行音楽界では最も重視される才能だが、ジャズでも同じではないだろうか。それを衆人が見守る中の即興演奏でいかに紡ぎ出すか。その基礎にまず楽譜に書く行為がある。先の「アラベスク」も楽譜に書いた曲であり、即興演奏中に得たものではない。ではザッパは楽譜に作曲する手間が疎ましく、手っ取り早く衆人の前で演奏することを目指したかと言えば、ごまかしの利かない一発勝負に自らを追い込んだと言えるし、ジャズの即興演奏の伝統を継ぐ思いもあったろう。それに、楽譜に作曲する行為は音符をいかに組み立てるかを呻吟する行為だが、そういう試行錯誤的行為のみが名旋律を生むとは限らず、結局いかに旋律を多く歌うかの練習量がものを言う。筆者はこのブログを毎回即興で書くが、書きつつ思いも寄らないことが湧いて来る場合がある。机の前で考えているだけでは自分が楽しめる内容は生まれず、とにかく多大に書くことだ。その態度に自惚れては駄目で、とにかく書くことが大好きでなければならない。ザッパはステージの本番直前まで練習した。練習を厭う、あるいは少ない者は凡作しか生み得ない。
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by uuuzen | 2023-03-08 23:59 | ●ザッパ新譜紹介など
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