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●『WAKA/WAZOO』その2
めても 死者は知らずと 知りつなお 想い寄せるや 律儀な契り」、「寂しさも 増すや落ち葉の 積りかな 裸の庭木に 雀丸見え」、「裸木に 蔦の巻きつく 防寒や ありがた味には 迷惑混じり」、「若さには わずかに負ける 元気さか 生きる限りは 衒気も秘めて」
●『WAKA/WAZOO』その2_d0053294_00212506.jpg
LP時代は凝ったジャケットが多かった。ザッパの場合はカル・シェンケルがそのイラストを70年代半ばまで主に担当したが、『ワカ/ジャワカ』の「HOT」と「RATS」の蛇口つきのシンクが真正面から描かれたジャケットはマーヴィン・マッテルソンの手による。ジャケット裏面にトランぺッターのサル・マーケスのアイデアを描いたものと記され、シンクについてのサルへのインタヴューあるかもしれない。カルが描かなかったのは同じ時期に『ザ・グランド・ワズー』のジャケットを描いて忙しかったからではないか。カルならこのシンクのイラストをフリーハンドで描いたはずで、それではこのアルバムの持ち味にふさわしくなかった。なぜなら『ワカ』は後でトランペットの音を多重録音するなど、加工による完璧性の味わいが強いからだ。シンク背後の緑の腰板壁の上部が白緑色で、小動物の足跡状の模様が全面に描き込まれる。この見逃しそうな、あるいは無視してもいいようなわずかな模様がこのジャケットの目立つ個性になっているのは、中央上部の「FRANK ZAPPA」の手書き文字の背景であるためで、今回の5枚組ボックス・セットの箱内部はこの白緑色の壁紙文様を転用している。5枚のディスクのジャケットは最下部に5色のボタン状の帯があって、順に左からON状態になっていることでジャケット裏面を確認せずとも何枚目であるかがわかる。そして5つのボタンの色は『ワカ』のイラストでの使用色から選ばれている。つまり本作は『ワカ』が『ワズー』より優先され、そのことは題名からも言える。そう考えると本作の最大の曲は『ワカ』の「ビッグ・スウィフティ」と「ワカ/ジャワカ」の2曲と考えてよい。そのことは後述するとして、『ワカ』の裏ジャケット写真を筆者はLPを買った1972年以来50年見続けて来た。写っているものからザッパの自宅のごく一部にしろ、その趣味がわかるからだ。ザッパは前年の暮れのロンドンでの公演中に見知らぬ男からオーケストラ・ピットに突き落とされ、背骨と右脚に大けがを負った。翌72年1月にロサンゼルスの自宅に戻り、3か月ほど静養し、車椅子で動けるようになってメンバーを集め、リハーサルを繰り返し、新作アルバムの録音を行なった。それが『ワカ』と『ワズー』で、72年夏からザッパを聴き始めた筆者はこの2枚を含む、そして当時入手不可能だった『ランピィ・グレイヴィ』を除くザッパの全アルバムを買い、オーケストラ曲からジャズ、ロックまである様相に大いに困惑し、また魅せられた。熱烈なファンかもしれないが、筆者は海賊盤や海賊テープまで集める趣味はない。
●『WAKA/WAZOO』その2_d0053294_00215426.jpg 『ワカ』の裏ジャケットのザッパの顔つきは不機嫌だ。それは足の自由が利かないためかと思ったものだ。背後の部屋の間仕切りの花模様の布に日が差し、春の温暖な空気が感じられることにこのアルバムの曲調が応じている。花柄布の向こうはどうなっているのか、またこの部屋にはザッパの横に小さな四角形とその下の円形の扉があって、下は猫が出入りするためのものとわかるが、上は紗を透かして裸婦の上半身と数人の男の絵が見え、何のための扉かと筆者は思い続けている。それはわからないままで受け入れるしかなく、またそれで満足なのだが、この些細なこととして、筆者はザッパの録音をどこまでファンは知りたいのかという思いがある。熱烈なファンほどザッパのあらゆる録音や写真その他の細部まで把握したいと考えるが、いくら頑張ってもわからないところはある。そのことをたとえば前述の四角の窓の向こうに透ける絵画の複製写真になぞらえたい。この写真を撮った人物はザッパの背後の部屋に入ったかもしれないので、彼の記憶をたどれば写真には写らない細々としたことがわかるが、それは言葉の説明で、見ることは出来ない。それにザッパの家はもう売却され、この部屋が敷地のどこにどのようにあったかもわからない。ザッパが見つめている、つまり写真を撮った人物の背後の眺めはどうかも気になるが、それがわかったところで次にはもっと知りたいことが出て来る。今日の最初の写真は中央上に『ワカ』の紙ジャケットCDの裏面と本作の5枚目とブックレット内部の写真を並べたが、カメラマンはほとんど同じ位置で3枚写真を撮ったことがわかる。花模様布に差す光から、おそらく1分以内に3枚は撮られたことは想像出来る。どれも不機嫌な表情で、夜型のザッパは日差しが眩しかったかもしれない。中央下のブックレットの最初のページの写真は芝生上にザッパが座っている。後日載せるが、最後のページでは同じ姿で白壁の前の椅子に座る写真があって、右下に飲料水入りの大きな瓶が3つ並ぶ。ブックレットには同じ場所での上半身の写真もあって、そのザッパの表情は温和だ。それを『ワカ』の裏ジャケットに使ってもよかったのに、ザッパは眉間に皺を寄せた顔を選んだ。それはさておき、ディスク5の写真はカメラマンの立ち位置がわずかに違い、背後の部屋の花柄布と直角の位置にある壁の上部に小さな窓が開いていて、そこから差し込む光が花柄布の一部に落ちていることがわかる。全くの些事だが、この新たに公表された写真によって筆者は50年後に背後の部屋に明かり取りの小窓があることを知った。そのことは本作に収録される曲目にも言える。つまり些事が満載される。言い換えれば『ワカ』と『ワズー』の計10曲のこれまで知ることのなかった面がわかるようになった。それらを些事と呼べば本作の価値は低いように聞こえるが、これはファンによって考えが異なる。
●『WAKA/WAZOO』その2_d0053294_00224129.jpg LPの『ワカ』と『ワズー』の2枚をザッパは72年に召集した新メンバーを加えたビッグ・バンド編成による成果として発表した。残りの録音はいずれ使うつもりのものもあったろうが、言うなれば食べ残しで、捨てられる運命、捨ててもかまわないと考えられたものだ。ザッパ自身、録音時の全テイクをテープ保存しなかった。本作は運よく残されたテープから現在の別人が作り上げたもので、音の分厚さは驚嘆すべきでも、『ワカ』と『ワズー』の完成ヴァージョンと比較すると、先の小窓の存在が明らかになったことに似て、「ああこうだったのか」と半世紀ぶりに納得するだけのことと言えるところがある。それでもファンはさらに些事を知りたがる。永遠にきりがない、あるいは不可能とわかっていても、わずかでも他の崇拝の対象のかけらに近づきたく、それで海賊テープを徹底的に収集する。そういうファン心理を引き受けるために本作が作られた。何が言いたいかと言えば、ディスク1と2の合計2時間半の演奏で『ワカ』と『ワズー』が完成に至るまでの一時期の様子は把握出来るが、ザッパが録音したのはこの2枚に収まり切らず、ザッパが消してしまった録音をとなれば、とうてい2枚では収まらず、つまり本作は物足りない。だが仮にファンが当時のザッパの全活動につきしたがえたところで、そして演奏の全部を記憶出来てもそれで満足しない。ザッパは72年以降も作曲、演奏し続けたからだ。ザッパ没後に発売され続けるアルバムはどれもザッパが完成作に至るまでにどう試行錯誤したかの痕跡を知るために役立つ。精緻に描かれた油彩画的な曲とは別の粗削りの習作ないし素描で、それなりの面白さは当然あるが、観賞時間は完成作に比べてかなり短い。筆者は『ワカ』を50年聴いて来たが、120歳まで生きられるとしても本作を今後50年聴く気はない。それは『ワカ』と『ワズー』に至るまでの一過程はわかるものの、そのことに本作に意義が大きく、わかってしまうともういいと思うからだ。さて本作の最初の細やかな予告編的アルバムとして2004年に『JOE‘S DOMAGE』が発売された。これはザッパが72年春に新曲の練習の様子をカセットに収めたものをCD化したもので、当時ジョー・トラヴァースやゲイルは本作をいずれ世に出す心つもりがあったはずだ。本作のブックレットにあるように1995年にヴォールトマイスターとなってザッパが遺したテープ収蔵庫に立ち入ることが出来たジョー・トラヴァースが最初に知りたかったのは1972年の10人編成のプチ・ワズーによるツアー・テープであった。それらは断片的にこれまでの数枚のアルバムで発表され、それ以前の本来の大編成のいわばグランド・ワズーのツアーの模様は『ZAPPA /WAZOO』と題して2枚組CDが2007年に発売されたので、残るはスタジオ録音の別ヴァージョンという思いであった。 ただし、そのうちの『ワカ』の目玉曲「ワカ/ジャワカ」の長尺ヴァージョンは2004年に4チャンネルのDVDオーディオ盤『クァドロフォニック』に収録済みであったから、筆者は正直なところ、本作にかける期待はあまり大きくなかった。結果的に本作の発売でようやく72年のザッパの主だった録音が揃ったが、生前のザッパが72年に発売したのは『ワカ』と『ワズー』のみで、それらの貫禄は没後に発売されたツアー録音などに比べてはるかに高くそびえている。『ジョーのドマージュ』の特筆すべき点は、後年の「グレッガリー・ペッカリー」の一部として収録される「ブラウン・クラウズ」が早くも練習され、その主題の直後に「ビッグ・スウィフティ」の主題の一部が続けて演奏されていることだ。これはザッパの曲作りの大きな特徴を示す。思い浮かんだ断片のメロディをある曲の主題に作り上げるまでに、いくつもの道があって、言葉と違って旋律で作る「詩」は自由に入れ替えが出来た。そこに一定の意味ある言葉の歌詞を載せるのはある曲の主題が完成した後のことで、したがってザッパの曲は器楽演奏が基本にあり、そこに歌詞が持ち出される。ただし歌詞が先あるいはほぼ同時に旋律も思い浮かぶ場合もあったろう。それはともかく、このメロディの断片をザッパは常に思い浮かべ、演奏し、つなぎ合わせたり、別のものと入れ替えたりしながら曲を完成して行ったことが『ジョーのドマージュ』と『ワカ』を聴くことでわかる。完成と書いたが、それはアルバムで発表された時点でとの意味だ。またザッパはアルバムでの曲を後のライヴではいちおうはそのとおりに演奏したが、ライヴで頻繁に演奏する間に別のアイデアが湧き、自在に編曲しても行った。それは新しい主題的旋律が増えることでもあって、ザッパ曲はそのごく短い印象的なメロディが他のそれをくっつき、また離れたりしつつ、一方で歌詞の助けを借りて、曲がどんどん変化することにあった。これは曲の完成度が低いと見られがちだが、ザッパの自信はおそらく最初に創出したごく短い主題の豊富さにあった。それさえあればその主題の後に即興演奏を続けると、LPの半面程度はどうにでもなった。それでザッパは自分にしか出来ないその主題作りに日々勤しむ一方でメンバーを集めてその主題を即興を交えて10数分の曲に仕上げることに精出したが、「グレッガリー・ペッカリー」のようにテープ編集で生演奏不可能な曲を作り上げることも大いに好んだ。だが聴き手が印象深く感じるのはその独特の主題と、メンバー間の息の合った即興演奏で、後者はジャズの醍醐味として古くから求められて来たもので、ザッパは前者により思い入れがあったろう。主題さえあれば、後の即興は誰でもそれなりにやれる。したがってザッパの創作として重視すべきは主題となるが、それがしばしばごく短いフレーズであることに一種の欠点を見る人はあろう。
●『WAKA/WAZOO』その2_d0053294_00245436.jpg 本作は『ワカ』や『ワズー』をほとんど完成させる直前の別テイク、別ヴァージョンで、細部の磨き上げをザッパがどのようにしたかがわかる。それはそれでファンとしては楽しいが、これまで発売された没後のアルバムは曲の細部をザッパがどのように削った、あるいは音を加えたかを示すものであったので、本作が特別興味深いということはない。むしろ全くの予想の範囲と言ってよい。本作でザッパが雇った新たなミュージシャンはみなプロであり、託された主題の完璧な演奏と即興においてザッパとぴたり息の合うことが絶対条件とされた。特にキーボードのジョージ・デュークの表現力の高さは図抜けている。『ワカ』と『ワズー』の2割くらいはジョージがいてこそであったと言ってよい。それにサル・マーケスのトランペット、エインズリー・ダンバーのドラムスも他人には代えがたいだろう。今日はディスク2の説明を以下簡単にするが、ディスク2はディスク1の続きとジャケット裏面に謳われている。1「クレタス・オウリータス・オウライタス」はギターとキーボードが中心の素朴なヴァージョンで、『ワズー』のように歌声はない。2「イート・ザット・クエスチョン」はジョージがいてこその演奏で11分の長さがある。『ワズー』ヴァージョンと同じように始まるが、主題後はトランペットのソロに続いてジョージのキーボードが圧倒的で、これでもかというほどに弾き続け、ようやくザッパのギターが突如割り込んで主題を奏で始める。そしてザッパのソロとなって最後にドラム・ソロがある。3「ビッグ・スウィフティ」は『ワカ』より2分半短い。『ワカ』と違って最後の主題回帰の後、すぐに終わる。主題のトランペットの多重録音はない。4「フォー・カルヴィン」は『ワズー』ヴァージョンより20秒ほど長いが、ヴォーカル後の混沌とした演奏がそれに当たる。中間部に「グレッガリー…」で使われる短い主題が繰り返されることに気づけばザッパ・ファンの仲間入りだ。『ワズー』のジャケット中央、アルバムの題名の下に「MYSTERY HORN」と刻まれるザックスを吹く兵士が描かれるが、その刻印にふさわしいのがこの曲だ。5「一発勝負だな」は『ワカ』と同じ長さで、違いはほとんどわからない。6「ワカ/ジャワカ」は『ワカ』より5分ほども長い16分で、これはジョージと続くザッパのソロが長いためだ。またトランペットのギターとのユニゾン録音がなく、『ワカ』の印象的なエンディングの音もない。そして最後辺りで主題があってその後のジョージのソロが続くのは前述の『クァドロフォニック』で周知のことだ。7「クレタス…」も『ワズー』と同じ長さで、ザッパの歌声もあって差はわかりにくい。8「イート…」は『ワズー』より1分ほど短い。これは最後辺りで曲が一旦終わった後にまた始まる主題がないからだ。その部分がディスク1の「ミニマル・アート」と思えばよい。
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by uuuzen | 2022-12-20 23:59 | ●ザッパ新譜紹介など
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