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●アクセル・ムンテ著『記憶と頓狂』第11章「カプリの犬 内面」その2
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鞍の下は火のように焼ける。そして口は手綱で絶え間なく引っ張られて痛む。しかし頑張れ、小さな驢馬! アンセルモ神父がもっと高いところにある隠者の礼拝堂に住み、乾いた喉のための葡萄酒を持っている! ほかの犬たちは広場の手すり壁に考え深く寄りかかっている驢馬から遠くないところにいて、そこでは船乗りに憧れている何匹かが湾を眺めている。目はナポリの光る輪郭やヴェスヴィオス山の力強い影に不思議そうに向け、あるいはカプリへの蒸気船が見られるソレント岬に向かって指し伸ばされた手にぼんやりとしたがう。そしてここにふたりの盲目の男フェノッチオとジョヴァンニが登場し、不器用に広場を横切り、小道の端にある彼らの普段の角地に向かう。そこでは数千の陽気な旅行者の音ががやがやと彼らのそばを通り過ぎた。そこで彼らは長年両手を広げ、漁師帽を被って座って来た。そしてその空っぽの目は光る陽光の永久の夜を見つめている。「貧しい盲人にお金を与えてください! 聖母があなたに同行します!」 広場で彼らは目覚め始める。分かれた集団は洞窟に向かって青い水を通り越す蒸気船を見つめようと手すり壁へと歩き回る。新しい到着にあいさつするために停泊地へと下りる時間だ。クィシサーナやパガーノの、そして「ホテル・フランス」の犬たちはブルボンの王位の紋章がまだある広場の弓形の入口へ粛々と個々の運搬人を護衛する。小さな鞍が用意された驢馬たちもガチャガチャと音を立てて停泊地への古い階段を根気よく下りる。そしてフェリチェッロの御者の鋭い鞭音が新しい運搬道路をガタガタと下っていく。広場の上方から、彼らは蒸気船が港の外側に錨を下ろし、小さな舟が乗客を上陸させているのを見る。最初の見知らぬ人たちが広場に着く時、おとなしい見物人の顔にかすかな関心が光る。だが、残念! いつも同じく変わらない種類、いつも同じ痩せた小さな驢馬の上の巨大な御婦人、いつも四輪馬車の中に当を得た「未婚女性」。いつも燃えるように赤くてうるさいドイツ人は、町の高みへと彼らの箱を引き上げる少女と値段を言い争う。めったに到着者の中に犬はいない。行く手にどのような支障が起ころうとも、めったに好機は起こらない―為すがまま、それ以外にはない! ホテルでは今、昼食の鈴が鳴る。そして誰もがどのような頭脳作業からも乱されない正しい生理学的法律にしたがって消化過程が成し遂げられる。そして午後は開廊での昼寝で過ぎ、太陽の光はゆっくりアナカプリの断崖を昇り、長い影が町へと向かうモンテ・ソラーロの斜面に滑り落ち始める。空気は涼しく、爽やかで、彼らは広場での公的生活を取り戻す準備をする。その日の第二の出来事が間近にある。郵便が到着する。ドン・ペッピーノ・パガーノ(郵便局長)はいかめしく郵便局の扉を閉じる。そしてやることのない犬たちは郵便鞄が開けられる間、興味深く待つ。いつも同じ失望―彼らのための手紙はない。すべての手紙と新聞はホテルにいる外国人へのものだ! 時々彼らは「ナポリ新聞」や「風刺誌」を得て、人々に読めると信じさせるためにある角に消える。その後彼らは新聞を丸ごとむさぼり食うが、依然として理解出来ない。それで彼らはふたたびうとうととし、窓に色褪せた写真や干乾びたビスケットのある、そして中では二、三の意識不明の哲学者が黙想しているドン・アントニオの軽食店を過ぎ、蠅がドン・ニコリーノの夢を見守る理容店を過ぎ、無為のモルヒネがドン・ペトルッチオの考えを過去へと慰撫する薬局を過ぎ、見知らぬ人たちが遠征から戻った後、驢馬が暗い穴に押し込まれている厩舎を過ぎて、広場を何度かうろつき回る。彼らはヴェスヴィオスの周りに濃紺のたそがれが落ちる間、イスキア島が色褪せる日差しの中で輝く湾をはるかに見渡す。一日の集まりは終わりに近づき、広場は人気がなくなる。鐘楼の上では歯車とその歯の間で恐ろしい騒音が突然鳴り、最後に古い機械は一斉に腹立ちを失い、そして錆びた金槌を支配して気乗りしない鐘にそのありったけの力で打ち始める。「24時」にドン・ニコリーノは理容店を閉めながらあくびする。「24時」に蠅が刷毛や櫛に眠りに行く。「24時」に犬は12から14時間、夢を見ずに眠ることで次の日の労苦への力を蓄えるために、義務を果たした思いで家に帰る。 それから教会の鐘はアヴェ・マリアを鳴らし、一日は海に沈む。 そのように毎日が過ぎる。教会の中の「マリアの娘たち」の指の間で滑る数珠の玉のように毎日は似ている。毎朝は広場の社交の務めのために犬市民を引き合わせる―毎夕、鐘楼は彼らに休むことを強く勧める。 家々の壁の下で影は短くなり、広場の敷石は太陽の風呂の中でどんどん熱くなる。今や不安な夢が昼寝の平和を乱し、カプリは自身を傷つける抵抗出来ない欲望に捕らえられる。ドン・アントニオは葡萄酒店の前に日よけを広げ、昼間の議題はより頻繁にその保護する影の下で取り扱われる。犬たちは大きな煙雲が本土の上にゆっくり広がるヴェスヴィオスの方角に湾を見渡しながら、暖かい夕暮れに広場に留まって偉そうに手すり壁に長時間座る―風は南で、すべてはそうあるべきだ! そして疲れから心配な思いが訪れ、彼らは多く必要とされる休息のために群れとなって家路に着く。 広場はすっかり空虚になり、時々短い吠え声がある酒店から、あるいはヒッジガイガイのビール居酒屋から「ひどい天気だ!」のわめき声が聞こえる。それからすべては静かで、鐘楼の老いた見張り人のみが目を覚ましておくための響きわたる怒り声で夜の時間を大声で数える。まだしばらくの間、白い町は崖の間で輝き、それから全く暗くなり、カプリの島は夜の闇に沈む。 しかし見よ! 月がすでにソレントの山に登っている。そして夕闇の覆いがモンテ・ソラーロの高さに滑り落ち、かすかに光るオリーヴの森、オレンジやギンバイカの木立に被さり、湾の波の真ん中に消える。夜の夢は美しい夢だ。妖婦の月に神秘的に照らされた島は暗い海から立ち上がる。優しい南風は海の上に呼吸し、半ばまどろむ波間につぶやき、花咲くオレンジの木に芳しく飛び、そしてか弱い葡萄の木をじゃれ合うように揺らす。歓喜の声が海から呼びかけ、夜の静けさの中でだんだん大きくなり、モンテ・ソラーロをさまよう人はその上の月明りの空間に羽のはばたきを聞く。 カプリが翌朝目覚めると、誰もが野生の鴨が飛び去ったことを知る。春が来て、狩猟の季節が始まった! 早朝から広場は犬でいっぱいだ。毎日の「甘美な無為」は終わった。確かな気力が犬たちのぼんやりした未来に生気を与え、発想の熟考が目の静観的な意気に光を与える。●スマホやタブレットでは見えない各年度や各カテゴリーの投稿目次画面を表示→→
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