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●アクセル・ムンテ著『記憶と頓狂』第10章「カプリでの政治的扇動」その4
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突然タッピオは唸った。我々は見上げた。すると驚いたことに我々の前にふたりの女性が立ち、その背後に空間をじっと見つめる黒い衣服の紳士がいた。我々は彼らの近づく音を聞かなかった。彼らはDとわたしが商用旅行者の詩を忙しく終えるまでそこに立っていたに違いない。我々は狼狽して見つめ合ったが、明らかに恐れることは何もなかった。彼らがイギリス人であるとわかることはたやすく、おそらく我々が話したことについて一言も理解しなかった。女性のひとりは中年で、かなりどっしりとしていた。灰色の旅行用の衣裳を着用し、もうひとりはとてもこざっぱりして若く、我々は本当に美人と思った。彼らは停泊地を見渡して立っていた。そして同じ眼差しの方向に我々は皇太子妃の蒸気船が島を巡る「ギロ」から戻り、ナポリの船のそばで錨を下ろすのが見えた。我々の困惑は若い女性がこちらを向いて完全なフランス語で村までどれくらいかと尋ねた時に最大となった。彼らに最も近く横になっていたDがほとんど10分は要さないと答えた。 「浜辺に着くには村を通る必要がありますか?」彼女は停泊地を指しながら言った。 Dは答えた。「はい。そうする必要があります」 そこでタッピオは伸びをしてあくびしながら彼らのほうを見つめた。 「何て美しい犬!」年配の女性が英語で彼女の仲間に言うのが聞こえた。わたしは即座に彼女が偉大な特徴と別格の雰囲気があることがわかった。そしてすぐに礼儀正しさを示したく感じた。島は一日中無教養な者たちの犠牲に陥っていて、わたしは彼女がカプリに来るには不幸な日を選んだこと以外に言うことが思い浮かべられなかった。そして彼女に現に島にいるドイツの皇太子妃は代表者と商用旅行者から追われていて、「小停泊地」で捕まえられ、広場に連れて行かれることを話した。わたしは我々の同情は皇太子妃を見守ることだとつけ加えた。わたしは若い女性の顔のかなり独特な表情を認めたが、年配者は目にかろうじてわかる笑みを浮かべてわたしの言ったことを聞いた。 彼女は言った。「わたしたちは出来るだけ早く港に着くことを気にしています。思っていたより長く留守にしていました」 わたしは答えた。「近道があります」ていねいにつけ加えた。「わたしたちはその道を上って来ました。ですがマダム、あなたにとっては道がかなりでこぼこしていることを心配します」 「そこをまっすぐ下れば着きますか?」彼女は両方の蒸気船が錨を下ろしている港を示しながら言った。 「ああ、はい!」 「それで余儀なく村に入らずに?」 わたしは答えた。「余儀なく村に入らずに」 彼女は若い女性と少し言葉を取り交わした。それから幾分突然、明瞭に言った。「道を教えてください」 そう、それはとても簡単なことだった。わたしは彼らを停泊地に導いた。途上の会話は随分元気がなくなった。わたしはふたりの非常に寡黙な女性に出くわし、たび重ねる努力がなければ全く駄目になった。時々若い女性は笑みを浮かべた。それはわたしが何か愚かなことを言ったかと怖れさせた。わたしは決して社交性を多く持ち合わせて来ず、ふたりの全く不思議な女性を楽しませることは簡単ではない。 道のもっと広い部分に着いた時、わたしは彼らの足元に停泊地の方向を指し示した。そしてもう間違う可能性がないことを伝えた。ふたりの役員が桟橋を上り下りしていた。その上でわたしはふたりの女性に皇太子妃を見ることを望んでいるかと話すと、彼女たちはわずかにそこで待っただけであった。彼女の踵には間もなく迫害者が到着する運命にあった。しかし、彼女たちは気にしていないと言い、そしてわたしに親切にさよならと言った。 ふたりの召使いが走って道を下って来た時、わたしはほとんど後戻りし始めていなかった。わたしは彼らがわたしを越えた場所に立つ前にかろうじて別の側に移動した。彼らはすぐに長身で痩せた、足がとても細い、大きな口髭の人間に付き添われた―わたしは信じる! ともかくそのように目立つ人物がドイツの役人とは限らないとしても。彼は太ってうるさい小柄な人物からうまく振り向かされた。その人物は文字どおりわたしの腕に身を投げ、片手に金で縁取られた帽子を持ち、もう片方の手が額の汗を拭う間、どもって詫びた。そして丘を下る球のようにふたたび転がった。最高に途方もない、わたしはそう思った。今日この遊歩道にいる人々の多くが、ここでは規則の人が感情と決して会わないと考慮している! Dはまだわたしを待ってアナカプリの道に寝転んでいた。我々のどちらもその時はカプリに戻ることを気にかけていなかった。そしてついにアナカプリに上って行き、「美しきマルゲリータ」に挨拶することに決めた。そして島が静けさを取り戻す頃までそこで待った。我々はしばらく蔓棚の下に座り、白葡萄酒を飲み、それから祝いの木マートルに覆われた山の斜面全体が我々の足元にある美しい道をたどり、ゆっくりとカプリへとぶらつきながら下った。バルバロッサの廃墟の城の間を抜ける時、我々は停泊地の方角を一瞥し、二隻の蒸気船が出航したことに安堵した。本物のカプリ人は常にある満足をもって蒸気船の出発を見つめる。彼らは愛するカプリを保ちたい。そして騒がしい見知らぬ人の集まりのみが夢見る小島の調和を乱す。 村に着く頃、ほとんど暗くなった。広場は全くさびれていた。床屋で放血医のニコリーノの店の窓から悲しく風にたなびく三色旗が降ら下がっていた。凱旋門の上に留められた厚紙の鷲は「歓迎」をむっつりして齧りながら高いところに座っていた。 ホテルに着くとみんなは食卓にいたが、普段とは違う沈黙が広がっていた。我々は自分たちの小さな卓を引っ張り出し、出来る限り悪意なしに見ようとした。食後の甘味を食べる時、大きな食卓では日中の彼らにどうやら生じた確実な災害の過失は誰のせいであるかの不愉快な紛争が持ち上がった。わたしは愚か者についての呟きを聞いた気がした。停泊地への近道を下るふたりの女性に同行する彼を見たが、わたしは彼が誰であったのか知らない。ああ! Dもわたしもこの物語についてもう語るつもりはない。もし我々が悪い態度であったなら、わたしはすでに充分罰せられた。わたしは愛する霧と暗がりの島から遠くここに座り、一方よくは知らないが、商用旅行者はたぶん今もカプリで面白がり、そしてまだパガーノの雄鶏を次の言葉で楽しませている―「わたしはこの岩の岸辺に立っている!」●スマホやタブレットでは見えない各年度や各カテゴリーの投稿目次画面を表示→→
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