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●アクセル・ムンテ著『記憶と頓狂』第10章「カプリでの政治的扇動」その1
報するな―彼らはヨーロッパの平和を乱すつもりはない。
 ああ! 太陽にも黒点はあり、片や「ナポリの王冠の最も愛すべき真珠」で、みんな申し分ない。
 ガアガアと鳴く烏が数千年の記憶がまどろみ横たわる廃墟の周りに群れを成し、汚れた小人の手が落ちた巨人の消滅した壮麗さの残余の中で手探りし、無教養な者が皇帝の足が踏んだモザイクの床から破片を引き抜く。就寝用の帽子を被った女流文学的な「散文」は半ば目を閉じて夢みて横たわる「田園詩」に驚き、にっこり笑う牧神たちは伝説の美女が優雅な手足を洗うとされる涼しい洞窟の眺めを隠している葡萄の木を伐るためにうつむく。
 カプリは病気で、老いた獅子であるのに寄生虫がはびこっている。カプリは肯定に満ちているが政治には注意しなければならない。わたしは何も言わない。文章を最後まで読めばカプリに何が溢れているかがわかるだろう。
 あなたはティベリウスの別荘の廃墟のただ中、その高いところから海を見つめる。ぼんやりと遠くの白い帆を追う。それは家に静かに戻るいささか平和な漁船だ。そして思考はどんどん遠くなる。ここ、大理石の輝く宮殿に、かつて世界の支配者が立った。彼も海を眺めたが、その目はあなたのようには怖れを知らないものではなかった。彼は舟が近づくごとに彼の犠牲者の復讐を怖れた。そして湾が暗くなるとそこに居たくはなくなり、震えながら、空の丸天井に穿たれた星々の中に自分の運命を読み取ろうとした。彼の罪行は忘れやすさを助けず、悪徳は彼の魂の苦悩を無感覚にはしなかった。岩で造られた城塞で物憂げな皇帝は犠牲者たちに与えたよりもはるかに大きな苦悩に苦しんだ。彼の心臓は紫色の上着の下でずっと以前に血を抜き取られていたが、魂は途轍もない悲しみの上に住んでいた。あなたが寝転がる場所は「ティベリウスの跳躍」と呼ばれる。そこから彼は犠牲者を海に放り投げ、下の海ではまだ波間にもがいている犠牲者を櫂で打ち殺すために男たちが舟の中で居並んでいた。断崖に屈んで泡立つ大波を見ろ―老いた漁師がわたしに時々そう言ったのは、月が雲に隠れ、真っ暗になり、波は血に染まって岩に砕け散っているように見える時だ。
 しかし太陽は赦しを照射し、多大な罪の目撃を打ち砕き、そして、やがて陰鬱な皇帝の幻影はあなたの思考から次第に消え去った。今は静かでティベリウスの別荘の上方は平和だ。仰向けに横たわって湾を眺めると、あなたは世界がその愛らしい岸辺の彼方に終わったかのように思える。一日の絶え間ない闘争はここには届かず、すべての不協和音は沈黙している。思考は目的もなく飛び回り、ソレントの岩場近くの波間にしばし遊び、イスキア島の木立に心からの挨拶を送り、そしてポジリポの青々とした海岸から芳しい薔薇を摘み取る。そのようにして知覚は次第に消え去り、あなたはもはや工場の回転する車輪の騒音を耳にしようとは考えない―本日は休息日で、夢想してよい。何を夢みる? あなたは知らない! あなたはどこにいる? あなたは知らない! あなたはカモメの白い羽となって、広大な水辺の上をはるか遠くへと飛び、雲頭上の高い輝かしい雲とともに航行し、どのような思考にも届かない。
 しかし結局のところあなたは囚われ人に過ぎない―自由を夢想する囚人で、監獄の鍵が鳴る音で夢のただ中で目覚める。声の響きが耳を襲い、羽を撃たれた小鳥のように地上に落ちる。あなたのそばにほっそりした人間が立っていて、そのような「驚くべき」場所で眠りに落ちるほどに退屈し切られることが信じられないと言う。ああ、あなたは眠っている、そうだね?
 まじないは解かれ、調和は壊れ、あなたは立ち去ろうと起き上がる。彼はその時、湾が青いと思わないのかと脅しつつ問い、あなたが10メートル歩かない間に空も青いぞという言葉を背後から浴びせる。それであなたは彼を残酷な思いで凝視する―そのことを何度もして来たが、彼に伝わったことはない。あなたは自分の耳が不自由であると彼に信じ込ませたい―そのことも役に立たない。彼はそれを賛辞と捉える。会話はすべて彼が受け持つことを好むからだ。
 太陽は天高く、夏の日はとても暖かい―さあ行こう、「青の洞窟」の冷たい水を浴びに。いや、友よ、そこではない! そこでさえ、鮫のように、カプリの「青の洞窟」は事実上ドイツであること、すなわち「ひとりのドイツ人」が1826年に洞窟を発見したことに気づいているかどうかを訊ねるために我々の後を泳いで来る。「ティベリウスの風呂部屋」―皇帝の風呂の廃墟―から離れよう。崩れた石積みの巨大な塊の間に残っている涼しい小部屋のひとつの中で衣服を脱ぎ、サファイア色の水中に飛び込む。だがあなたはきれいな砂の中にそれらの大きな穴を見るか? ああ、友よ、離れよう! たどった跡は知っている。それにそこでは彼女、金髪の少女は、シュピールハーゲンの小説のひとつを読みながら座っている―彼女の読んでいるのがハイネならば彼女を許したいのだが。
 我々は停泊地の浜辺に戻り、村に通じる葡萄畑の間の古い小径を上り進む。残念なことに新しい運搬道路がほとんど整っているが、我々はもちろん古い道を好む。はるかにふたりは絵のように美しくなるからだ。浜で我々は夢想者への罠として置かれた近くの画架と絵具箱につまづく。それぞれの罠のそばの大きな傘の下で素人が待ち構えて座っている。わたしが思うに、彼は「ドイツの悪魔」の助けを祈っている。
 あなたはアルベルゴ・パガーノに上がって行くことを提案する―そう、それは全く正しい。島で最高のホテルであることは間違いない。老パガーノは非常によき人物で、何年も前に死んだ。そして我ら古きカプリ人のみが彼のことを覚えている。わたしの親友である彼の息子マンフレドが今はホテルを経営している。しかし彼の家がまるで「偉大な父の国」の心の中にあるかのようにドイツ風になったことは彼の失策ではない。彼らの少なくともよき50人が大きな居間のテーブルに丸く集まっている。壁には新鮮な月桂樹の葉で飾られた石膏製の「カイゼル」の円形浮彫が掛けられているが、それはあなたにフランス人の男への間違った讃美をさせないために注意を払うべきと彼らが考えるためだ。彼らが1870年の記憶―それはわたし自身かつて経験した―に対する衝突を飲み込むことは可能だ。沈黙と平和の代わりに、あなたはディナーの間中、長く望んでいるブレーメンの「居酒屋」に値する最も素晴らしい騒ぎに晒される。絶望してあなたは庭に通じる扉に突進する―いや、あなたは結局イタリアにいる! 外では蔓棚の下に月の光が葡萄の木の間で戯れている。空気は柔らかく愛撫し、夏の夕べはその中にある散文への償いとして魅惑的な詩を語りかける。あなたは孤独にそちこちさまようが、かろうじて幸福であると自分に言い聞かせる時を持っていた。「クランツの勝利を祝おう!」が平和な夜に戦争の叫びのように響きわたり、カプリ人の小さな浮浪児たちが通りで「あー! 親愛なるアウグスティヌス! アウグスティヌス、アウグスティヌス!」というドイツ語の恐ろしい合唱を繰り返す前までは。
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by uuuzen | 2022-11-13 21:19 | ●本当の当たり本
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