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●『プレイヤー~華麗なる天才詐欺師』
しみが 怒りに変わる 理不尽に 金持ち妃 喜び楽し」、「問題の なき家はなき 悲しきや 虚しき胸に 深き息入れ」、「気がかりの 人を想うは ともに無事 忘れればなお ともに幸あり」、「正義とは 権力と知る 幼子も 腐る力の あること気づく」



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先月「風風の湯」に久しぶりに金閣寺界隈に住むKさんがやって来た。コロナ禍でもあるのか、Kさんは韓国ドラマをよく見ると言う。それで筆者は今日取り上げるソン・スンホン主役のドラマを勧めた。どこで見られるのかと訊かれたので、ヤフーのGYAOと答えたが、『愛の不時着』と違って独占的に放映されていないと思う。一昨日感想を書いた『トキメキ注意報』とは全く共通点のないドラマで、改めて韓国ドラマの多様性と視聴者の心をつかむ能力の高さに驚いた。とはいえ当分見たいとは思わない。本作は邦題からギャンブラーの物語かと思うと、そうではない。そのため邦題のセンスは最悪だが、原題のハングルは『プレイヤー』と読むのかどうか、また原題のみではどういうドラマかはわからないだろう。筆者なら『プレイヤー~贋検事の痛快復讐』を考える。実際その言葉でこの全14話をまとめられる。これまで見た韓国ドラマでは最高の作と思うが、もう一度見たくはない。また最初の数話で一時見るのをやめた。あまりに毒々しい人物や事件を次々に取り扱うからで、女性は見ないほうがよい。韓国でも日本と同じような社会問題があって当然で、その意味から本作のような勧善懲悪のドラマが日本で製作されていいはずだが、それはたぶんあり得ない。またなぜそうなのかを考えると、韓国と日本のどちらが幸福な国であるのかという問題に突き当たる。それはともかく、ドラマの背景のことよりもドラマの完成度の高さにまず舌を巻き、そういうドラマを制作出来る韓国の国力に瞠目する。本作は毎回多人数が殴り合う場面があって、ドラマの分類で言えばヴァイオレンスに相当する。カー・チェイスもあるが、あまり多くはない。また主役4人のうち女性がひとりいるものの、彼女が絡む愛の場面はない。4人を統率するのがソン・スンホン演じるハリで、彼の素性と行動の目的は回を重ねるごとに明らかになる。他の3人も暗い過去を抱え、いわば悪さから足を洗った形でハリと一緒に仕事をする。その仕事とは悪い奴らを懲らしめて刑務所送りにすると同時に彼らが所有する莫大な金を奪うことだ。日本の鼠小僧に似るが、ハリらは奪った金を貧しい者に分配しない。またその金で豪遊することもなく、結局は国庫に戻す。主役の4人は最少の精鋭だが、彼らだけでは無数にいる悪い奴らに対して歯が立たず、とある検事が後方から助ける。ところがその検事の上役が腐敗していて、「あの人」と呼ばれる謎の人物が陰で政治家たちと手を結び、多くの手下を使って邪魔者に汚名を着せて次々に消している。つまり裏社会の人間が為政者とつながっていることを前提にしたドラマだ。
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 ハリは「あの人」の存在を知っているが、それが誰であるかはわからず、ハリの根城に貼られた悪い奴らの顔写真の中では最上位に収まって真っ黒な上半身として表示されている。「あの人」は大統領よりも力がある人物で、最終回ではハリと彼との闘いになる。「あの人」が政治家たちと円卓を囲んで悪だくみをしているところにハリが侵入した時、「あの人」は居並ぶ政治家たちを醜い人間の代表のように罵り、そういう人物がいるお陰で自分が暗躍出来るといったことを口走る。そこは本作の監督が最も言いたい本質であろう。「あの人」はある政党のコンサルタントで、昔で言えばやくざだが、ネットを操る頭脳集団の親玉で、暴力は配下に任せる。政治家になればよさそうなものだが、その道が閉ざされていたか、あるいは政治家を憎んでいるのだろう。その点ではハリとそっくりだ。ハリの父は名検事で、ハリは子どもの頃から成績優秀、将来は父と同じく検事になることが夢であった。ところが父は言われのない罪を着せられ、自殺を装わされて殺された。そのことでハリは復讐を誓い、15年ぶりかアメリカ住まいから韓国に戻って計画実行のために3人を選ぶ。もっとも、ハリが検事志望であったことをその3人は知らず、悪い奴らの金を奪う詐欺師と思っている。3人はハリと同じように暗い過去を持ち、オタクでハッカーのビョンミンは貸金業の社長のもとで働いていた経験を持つ。ハリはその才能を買ってビョンミンを引き抜いたのだが、彼は腕力はない。それを補完するのが同じく闇の仕事をしていた力自慢のジヌンで、相撲取りのような体つきをしている。残るは女性のアリョンで、彼女は施設育ちで、スリの名人だ。鍵についても詳しく、また車の運転では誰にも負けない。この4人は最初から最後まで相互に助け合い、裏切る思いを毛頭持たない。この点に視聴者は精神的に救われる。4人に間には確固たる信頼と忠義がある。それは悪い奴らにもありそうなものだが、彼らは自己保身のために平気で部下を、また上司を裏切る。つまり本作はいかにも儒教的な韓国が作りそうなドラマで、人間で最も大事なことを信義とする。義は正義と言い替えてもよい。検察内部にも腐った人物がいるが、そうではない者たちはハリに陰で協力する。ところがその特捜部の検事チャン・インギュは部下や上司を疑うことをしない人好しで、やがて九死に一生を得る危険な目に遭う。正義を司る機関の中に悪とつながる人物がいるという描写は日本の時代劇における悪代官と同じで珍しくはないが、歴代の大統領の不正が必ず報告される韓国では現実味がある。日本でも政治家のやりたい放題は同じと言っていいのに、ひとまず食うに困らない国民は羊のごとくおとなしく、本作のようなガス抜きのドラマでさえ必要としない。それが幸福かどうかは国民性の違いで一概に言い切れない。
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 最近NHKでパク・ウネ元大統領を陰で操った女性とその一味の行状がどのようにして社会に暴露されたかについてのドキュメンタリーがあった。その女性についてのニュースは盛んに日本でも報じられたので、顔に見覚えのある人が多いと思うが、そのドキュメンタリーで興味深かったのは、その女がある若い男と親しくなり、大金持ちであるのに借りた金を返さず、困った男がある新聞社にどうすれば金を返してもらえるかの相談を持ちかけたことだ。その時点で男は事が大きく発展し、大統領の失脚につながるとは予想もしていなかった。またその女が大統領が若い頃からのお気に入りの相談相手であることも知らなかったであろう。新聞社の記者は半ばどうでもいい案件と思っていたが、その男が金を貸した相手の女性の名前が大統領と親しい人物と同じであることに気づき、調査を始める。すると次々に大統領を陰で操っていることがわかって来た。その過程で他の記者も嗅ぎつけ、各方面から動かぬ証拠を得て行くのだが、下手に動けば証拠がもみ消しにされるので、駆け引きを練って情報を世間に小出しにして大統領とその女を追い詰めて行った。本作はその事件を参考にしたはずだ。日本に伝えられないだけで、韓国では正義の機関に腐敗が横行し、自殺あるいはそうと見せかけて殺される人物が少なくないだろう。日本でも同様のことは起こっていて、若手の役人が自殺に追い込まれながら上司が著しく出世している。韓国以上に司法は腐っていると言えばいいか、元来三権分立がなきに等しいほどに政治家がどこまでも好き勝手が出来る。ネット時代になってそれがさらにひどくなり、本作のようなドラマの政策案は俎上に上ることは夢にも考えられない。その点韓国はいいのかとなると、本作が作られることは、誰しも役人の不正にうんざりしつつそれが絶対に糺されないことを知っていて、政治家から下々の者までが適当な憂さ晴らしは必要と思っているからとも言える。つまり政治に絶望しつつ完全無視の日本と、適当に揶揄することは必要と考える韓国の差だ。そこには民主主義の問題が絡む。これをどう捉えるかは世代や経済状態によって大きく違いがある。また民意は絶えずおおまかに平均を採ったところに国情が落ち着こうとしていると言ってよく、不満から暴動が起こらない表向きの平和が保たれているのであれば、民主主義は成功していると判断される。それで中国でも国民に不満がなければそれでよいことになって、民主主義の制度を持たない国でも理想郷は作り得る。ただしそういう国が他国を侵略する懸念がない限りにおいてだ。その問題を捉えたドラマが韓国にあるかとなれば、たぶんない。本作にしても自国内のことのみを扱い、またそのことがどの国にもある程度通ずるがゆえに、本作は外貨獲得の役割も果たす。それは賢い方法で、国家間の問題を扱わない不文律があるのだろう。
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 本作は2,3話ずつハリの餌食になる者が逮捕されて行く。それらはみな世間で言われる大物の妻や子ども、お抱え弁護士、またつごうの悪いことを嗅ぎつける者を始末する者などで、彼らの地位を安定させているものは金だ。ハリも活動のためには資金が必要だが、大金で豪勢な暮らしをすることが夢ではない。ハリの目的は父への復讐で、それは正義の権化であった父が悪に滅ぼされたことに対して憤りがあるからだ。信と義は一見金でつながっているように見える4人以外に、ハリと亡き父との間にあるとの設定も、やはりいかにも韓国らしい。ハリの父が毒親であればハリは本作で描かれる悪い奴らのひとりになっていた。そこからわかることは、愛し愛される家族の重要さだ。ハリは雇った3人ともその関係を築くことに成功しているという前提でドラマは進む。ハッカーのビョンミンはいかにもやくざの顔つきをした元雇用主と何度か対決し、裏切ったことの負い目と暴力ではとてもかなわない相手にひるむが、ハリが命を賭けて急場を助けてくれる場面に何度か遭遇し、ハリを決して裏切らない。ビョンミンの活躍なくして本作はあり得ず、真の主役はビョンミンと言ってよい。それほどに韓国は、いや世界はネット社会になり、その仕組みに精通する者が活躍の場を得られる。その意味でも本作は日本以上にネット先進国の韓国の実情を反映し、また日本ではドラマ制作の企画に上り得ないことを思わせる。また本作ではスマホは電話と録音機として主に使われ、データ取得はパソコンで為される。ビョンミンはどこでもパソコンを持ち歩き、至るとこに設置される監視カメラのデータを盗むが、そこにも世界の実情の反映が見える。本作は60年代のアメリカのTVドラマ『スパイ大作戦』を思わせつつ、それをネット時代に移していて、たとえば『刑事コロンボ』シリーズも一挙に古臭いものにした。今後もネット時代が続くのが確実として、将来本作のどこが古臭く感じられるかと言えば、ハッカーの存在か。ハッカーの入り込む余地のないほどにデータの保管ややり取りが厳重化されるとして、やはりそこに侵入するハッカーはいるはずで、ネットがある限りハッカーは生まれるだろう。鍵があれば必ずそれを破ることと同じだ。ビョンミンがネットに介入すれば、悪い奴らは暴力でそれを妨げようとする。そこで喧嘩の強いジヌンの出番がある。彼が多人数相手に暴れるのはネットの格闘ゲームさながらだ。アリョンを演じる女性は筆者は初めて知ったが、とても好感の持てる美人で本作に打ってつけだ。また彼女が色気を振り撒いて男を惑わせる場面が皆無であるのもいい。暴力や逃走の場面は1秒単位のカットでつなげられ、漫画のカット割りの影響が大きいが、どのカットも厳選されて妙な間延びがない。編集作業の見事さもさることながら、やはり撮影がうまく、おそらく撮影した100分の1程度しか使っていないだろう。
 ソン・スンホンのドラマは他に『夏の香り』を見ただけだが、本作では別の魅力を披露し、韓国ドラマのひとりの至宝であることを納得させる。ハリの終始笑顔なところは仲間の3人も共有し、遊びのような気軽さで次の獲物を追い続けて行くので、悪役たちの目を背けたくなる残虐さを見ることが我慢出来るところがある。必ず4人は窮地を脱するという信頼があるので、悪役たちの滅び方に見所があって、その意味からは全14話がちょうどいい。ただし4人とチャン・インギュは健在の形で終わるので、別のシリーズが製作される可能性はある。とはいえそれは本作とあまり大差ない内容になれば本作の評判も落としかねない。上記5人以外は脇役で、次のシリーズがあれば全員出演しないだろう。そうなれば起用するにふさわしい俳優が枯渇しないかとの心配が生まれるが、俳優の多さは日本の比ではないような気がする。また本作で悪役のイメージがついた俳優は次の出演作に困るかと言えば、視聴者に憎たらしいと思わせるほどに優秀な悪役で、出演に困らないのではないか。ソン・スンホンは悪役は無理として、ハッカー役のイ・シオンや体力自慢のテ・ウォンソクは本作で描かれるように元はワルの仲間であるから、悪役を演じることも出来る。そこが本作のひとつの面白さで、一見悪役に見える人物が心を入れ替えて正義を信奉する。その逆があることはチャン・インギュの上司の検事で、人は見かけによらないという怖さをうまく描く。「その人」の顔を期待しつつ、最終回のひとつ前で正体がわかるが、筆者は何を考えているかわからないその不気味な表情に納得しながら、彼がなぜそういう人間になったかの出自を描いてほしかった。その余裕は最終回の前半にあったが、そこは回想場面で占められた。「あの人」を演じるのはキム・ジョンテで彼は別のドラマではおそらく悪役を演じておらず、紹介される写真も知的で優しそうに見える。視聴者に徹底的に憎まれるような役をうまく演じることは男女ともに俳優としてあまり気が進まないと思うが、正義役とともにドラマの完成度を高めるのが最大の目的で、韓国ドラマを見ていつも感心するのは俳優の演技力だ。本作をソン・スンホン目当てで見る人は多いと思うが、どの韓国ドラマでも回を重ねるごとに脇役に情が移り、ドラマを見ながら幸福感が得られる。悪役俳優でも撮影の合間は正義役と親しく話をしているはずで、そういう仲間意識がなければ完成度の高い作品は生まれないだろう。本作の最終回の最後ではごくわずかに俳優と撮影班全員が収まった記念写真が紹介された。それで後味のよさを味わってほしいとの思いで、また本作が作りものであることをより明らかにするが、社会の根深い問題を描いて人々が政治家を信頼し切っていないことがよくうかがえる。そう言えば次の大統領選でもふたりの候補は醜聞合戦を繰り広げている。
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by uuuzen | 2022-02-08 23:59 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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