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●『10ミニッツ・オールダー GREEN』の「水の寓話」続き
紙は 今はネットで 告知して 技術進んで 世界は変わる」、「形なき ものは在るかと 自問する その古義問う 吾在るを知る」、「動かない 山はだかりて 人動き 山の意識に 感化されつつ」、「山思う ゆえに山在り そう思う 吾は形而の 上にか下か」、「神ですら 多様性あり さればとて 吾多様性 詰まるはひとつ」



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先日仏師のOさんが遊びに来た時、去年の夏に感想を投稿したヴァレリア・ブルーニ=テデスキが主演するベルナルド・ベルトルッチ監督の「水の寓話」を見せた。筆者ももう一度見たくなったからだ。その後ヴァレリア出演のDVDやヴィデオを10いくつ買ったが、初めて見た「水の寓話」があまりに印象的で、この短編以降と以前とで彼女の経歴が大きく変化したのではないかと想像している。それほどに本作「水の寓話」は重要な作品で、2時間程度の長編として撮ってもよかった内容に思えるほどだ。最近YouTubeで映画を10分程度に編集し直して投稿していた人物のひとりに多額の罰金刑が科せられた。映画がすべて「水の寓話」のような10数分の短編であれば、忙しい人には歓迎されるだろうが、去年感想を書いたのにまたこうして同じ作品についてその後思うことを書く気になるのは、短編であってもその読み解きはいくらでも深められることを意味する。またベルトリッチ監督の短編となれば平凡な監督の長編ほどに濃密と捉えるべきで、Oさんと一緒に見た後、去年は考えなかったいろいろなことに囚われている。とはいえ、去年書いたことを読み返さずにこれを書いているので、同じことをまた書くかもしれない。さて、本作は本当は「水の歴史」と訳すべきで、「水」は「血」と言い替えてもよい。筆者はベルトルッチの映画は『ラスト・エンペラー』しか見ていないが、その一作で充分かもしれない。東洋ないし中国の壮大な歴史に関心があることがわかり、イタリア人としては珍しい気もしながら、シルクロードによって中国とイタリアは古代から結ばれていて、文化や人の交流があったことを思えば、ベルトルッチの関心は不思議ではなく、シルクロードで結ばれていた関係は当然今に続いている。その一例が『ラスト・エンペラー』、そして本作を撮ったことでもある。もっとも、本作は中国はひとまず関係がなく、もうひとつの巨大な東洋の国インドが関わる。中国やインドは宗教ではヨーロッパないしイタリアとは全然異なるが、キリスト教にしても元は東洋の発祥で、ヨーロッパはギリシア時代以降、政治を大きく左右する宗教に関しては自前で生まなかった。ローマ時代にキリスト教を国教に定めてからはカトリック教会が絶大な力を持ち、文化芸術から人の生活の細部に至るまで影響を及ぼし、それが今に続いている。それを前提にベルトルッチがなぜ『ラスト・エンペラー』や本作を撮ったのかを考えるべきだろうが、ベルトルッチの思想に関する資料や著作が簡単に見つかるのかどうか。
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 8月の終わり頃に感想を書いた『明日へのチケット』の最初のパートでは、ヴァレリアが演じる秘書にオーストリアのインスブルック駅で見送られる老教授は、列車で夜を明かしたか、深夜に北イタリアに着いて家に帰ったことが想像される。その鉄道をグーグル・マップで確認すると、当然ながらアルプスを越えて峡谷を南下する。イタリアは北が山で囲われ、その谷に点在する町ないし村を通って西から順に時計回りにフランス、スイス、オーストリア、スロベニアの4つの国に向かう。スロベニアは本作が撮られた2002年はまだユーゴスラビアの最北西に位置していたが、チェコスロヴァキアがチェコとスロヴァキアに分裂した90年代初頭からユーゴスラビアも国家を構成する6つの共和国が独立を主張し始め、民族紛争が起こり始めた。2003年にユーゴスラビアという国はなくなって6つの国に分かれたが、コソボ問題がどう決着したのか、筆者はよく知らない。そう言えば3年ほど前、「風風の湯」に髭面の30歳ほどの男性がひとりで客としてサウナに入っていて、彼はマケドニアから観光に来たと言い、ギリシアの北に接してアレクサンドロス大王を生んだ国と自慢した。とても陽気でまたお愛想も上手で、好印象を持ったので、メール・アドレスくらい訊いておけばよかった。彼の生まれた頃、国はまだユーゴスラビアで、そのひとくくりにした国の名前では、外国人にあまり自慢出来るものがないと感じていたかもしれない。話を戻す。本作を撮影するに当たってベルトルッチはユーゴスラビア問題が念頭にあったはずだが、一方で当時から盛んに移民が増加している現実に目を向け、それが本作の主題になった。ドイツへの移民が急増して最も多かったのが2002年で、本作で描かれるように移民はみなドイツを目指した。侵入ルートは移民者の国によってもちろん違うだろうが、移民の半分はトルコやポーランド、ロシア、ルーマニアなどの東側諸国で、もう半分はもっと東の東洋やアフリカだろう。本作ではインド人の移民たちがドイツの移民ブローカーから貨車から慌ただしく降ろされる場面から始まる。アルプスのかなり高度のある場所で、見渡す限り山また山の眺めが映る。列車はおそらくオーストリアから北に向かうはずが、検閲を察知して移民を途中下車させた。そして移民は山道を下りて反対方向のイタリアに向かう。そうするしかなかった事情があるのかもしれないが、そこまでは描かれない。オーストリアからドイツやイタリアに向かう拠点となるのはたぶんインスブルックが最も有名と思うが、当時のスロベニアを経由して北イタリアからオーストリア、ドイツへと向かう貨車の線路があったかもしれない。つまり、オーストリアに入る前に北イタリアの北限辺りで移民たちが降ろされたかだが、非合法の移民は一般にはよく知られない方法を使うので、本作でもそこは明らかにされない。
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 今日の最初の写真は貨車から降ろされた移民たちが山道を下って行く様子で、もっと高い山道から見下ろして撮ったのだろう。それほど急な坂だ。同じような坂道は北イタリアには無数にあり、どこの撮影かをグーグル・マップで調べる気になれない。物語としておかしいと思うのは、顔も風采も異なる男たちが集団で山道を下ると、イタリア人の目に留まって警察に通報されるのではないかという懸念だ。彼らはその後イタリアのどこに散ったのかと思うが、手引きする人があったとも考えられる。ドイツに入国出来ない場合、どうすればいいかくらいは予め計画を立てたであろう。それはさておき、ベルトルッチは巧みな、現実には大いにあり得る物語にした。それは男女の出会いだ。インド人の青年はドイツに来たと思っているが、ヴァレリア演じるガソリンスタンド兼バーの店主とたまたま出会うことでその店で暮らし、経営を手伝い、店主と結婚して子どもをもうける。そういうことが北イタリアで実際に可能かどうかとなれば、それは他人の目の問題に収斂し、他人の生活を何とも思わない人はどの国にもいる。また結婚すれば外国人は配偶者の国籍を取得出来て、移民が合法的に多国の人と暮らすには結婚が最も手っ取り早いだろう。そのことを本作は描く。ところで、ヴァレリアはトリノ、監督はパルマの生まれで、この二都市はミラノを挟んで西と東に位置し、ともにミラノから100キロ少々だ。つまり監督とヴァレリアは北イタリアの生まれで、本作を撮るに際して監督は土地柄をよく知っているヴァレリアを起用することで迫真性がより出ると思ったのだろう。さて、筆者が本作を見ていつも気になるのは今日の2枚目の写真だ。ヴァレリアがインド人青年を拾ってバイクで自分の店に着く直前の場面で、3つの場面を1枚の横長写真に合成した。背景の山の形をはっきりとさせるためだ。後の場面でも背後の山容が映るが、今日はほとんど終日グーグル・マップで北イタリアを調べたのに、場所が特定出来ない。道路は20年ほど経っているので高速道路に変わっている可能性が大きいが、山の形は変わらない。移民たちが平地に降り立ったとして、その場所がわかればどの村か町かわかりそうだが、オーストリアに近い最北端の山とは思えない。バイクが走る道路から奥の山まで平地が広がっていて、撮影カメラを通せば画面は遠近感が狂って感じられるであろうから、手前の道路から山裾までの実際の距離はよくわからず、山の高さもそうだ。場面がどこかを特定したいのは、移民が降り立った町がどこか知りたいからだが、監督はイタリア北部はどこも山が迫った似た土地で、ヴァレリアをわざわざ物語に忠実に最北端の町や村に連れて行って撮影せず、トリノやパルマの郊外の北部で撮った可能性が大きいだろう。そのことも含めてどこかを知りたいのは、監督がどこまでリアルさを求めていたかを確認したいためだ。
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by uuuzen | 2021-10-06 23:59 | ●その他の映画など
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