「
枡席は 塩汗砂の 浜辺かな 時に力士の 落雷ありや」、「コンソメの 指染めし粉 舐めながら おっとっと噛み バリバリ鳴らす」、「新型が 出ればほしがる 車好き 生きることとは くるくる回り」、「自転する 地球を走る 自転車も 相対性の 理論に沿うか」
前回『おっとっと』について投稿したのが8月26日だ。その1週間ほど後、つまり予想より2か月ほど早く、新しいパッケージを嵯峨のスーパーで見かけた。以前と違って店を入って真正面の棚に山と積まれ、大半は先月紹介した赤い箱で、全体の10分の2ほどは今日紹介する緑色の箱に入ったコンソメ味であった。今日見ると、緑は売り切れ、赤が数十箱残っていた。買ってすぐに中身を調べる気になれないのはいつものことで、先ほど4袋の中身を全部確認し、だぶりのある型や欠けた型は除外して、先月の投稿同様、四角い皿と丸い皿とに分けて並べて写真を撮った。2枚目が四角い皿で、箱に印刷される新型であるポケモンのキャラクターを選んだ。それは3段のうち、最上段と2段目の左端のふたつのみで、2段目の残りはポケモンらしいものを選んだ。3段目は以前のシリーズの野菜を中心に並べた。4袋の半分ほどはこの3段目の型が占めていた。丸い皿は恐竜シリーズが中心になっていると思う。どれも何を象ったものかよくわからず、上下逆様や横向きに並べているものがあるだろう。前回書いたように、複雑な形が目立つ。これは単純な形では新鮮味が出ない、つまり基本的な形は出尽くしているので、そうならざるを得ない実情を表わしている。欠けやすいお菓子となればなおさら形は制限を受ける。アニメのポケモンをよく知っている人でもどの型がどのキャラクターに該当するかは即座にわからないだろう。それがまたいいのかもしれない。箱の側面に印刷される型と名称を頼りに、ポケモンのキャラクターがこのようなシルエットで表現されているのかと新鮮な気持ちになれるからだ。それはともかく、こうした何かを象った菓子で遊ぶことを筆者は小学生になる以前からやっていた。今もあると思うが、動物を象ったビスケットの上にピンクやクリーム色などパステル・カラーの溶かした砂糖がまぶしてあるものや、アルファベットを象ったものだ。動物ビスケットは裏面に英語でその動物の名前を記してある商品があって、ちょっとした教育的価値がある。『おっとっと』はそういう古い菓子をヒントに作られ、1個の大きさや軽さは極限まで小さくされている。それで1袋の中に数個は欠けたものが混じるが、スーパーの籠に投げ入れる筆者なので、買った後にそうなった可能性が大きいかもしれない。そんな欠けは動物ビスケットにもあった。幼ない筆者は買って来たものからまずそうしたものを選り分けて口に運び、次に同じ型が複数あるものを食べた。最後に一種類ずつ残してきれいに並べ、全体を俯瞰して楽しんだ。65年ほど前のことで、今も同じことをしている。
以上のことは以前に書いた気がするが、今日は写真が3枚なので2段落書く必要がある。さて、型を並べ揃える行動は男の本性のひとつである収集の趣味と思うが、成人してロジェ・カイヨワを知った時、彼の著作に筆者は自分に似た性質を思った。カイヨワは世の中を動かしている基本原理はごくわずかであると思う一方、そういう規則をある何かに適用して分析し、欠けている存在に突き当たった時、メンデレーエフの元素周期表をヒントにした。幼ない筆者が動物ビスケットを買ってもらい、それらの型を全部選んできれに並べたことは、元素の周期表とは何の関係もないが、異なる型を抽出して整理する行為はカイヨワの研究方法の根幹だ。動物ビスケットや『おっとっと』が採用する型はすべての動物や野菜、恐竜を選んだものではなく、いわばいくらでも増やせる。ところが、菓子として割れが生じやすいデザインは許されず、またたとえば魚であれば、日本のように魚を多く食べ、鯛と鯖の外形がほとんど誰にでも即座にわかるという意匠の文化力が背景にあらねばならない。これは逆に言えば、『おっとっと』の菓子のように小さく単純な形にしてなお実物の魚がわかるというほどに、伝統的に意匠性が確立されている必要があって、魚の種類は無数に近くても、菓子の型はごく限られる。このことを敷衍すると、人間が造る絵画は限界があり、それでカイヨワは絵画にやがて飽きたのではないか。それは動物ビスケットや『おっとっと』に飽きることでもある。後者はポケモンの次に何と手を組むのか。複雑な形が頂点に達すれば先には進めない。そこで筆者が考えるアイデアはジグソーパズルだ。『おっとっと』は厚さ1ミリほどに延ばした菓子の生地を型で抜いて焼くはずだが、抜いた後の残りはまた捏ねられて延ばされ、再利用されるはずだ。そういう手間をかけない方法としてジグソーパズルがある。通常のそのパズルは数種の型を用いて絵柄を合わせるが、無地の『おっとっと』は外形しか使えないので、30か40個ほどの全部形の違う、そして何も象っていない抽象形を用いて菓子の生地を型抜きする。1袋ごとに何かを大きく象るものが完成出来ればいいが、絵柄がなければパズルの完成にはかなり時間を要する。それに1ピースずつの焼き具合が違って、嵌るべき箇所に伸縮が生じるだろう。つまり、焼き菓子では無理な話だ。またそういう難しいパズルを完成させても美しくはなく、誰も喜ばない。遊びを4つに分類したカイヨワだが、彼の収集癖は遊びと捉え得る。研究はすべて収集の側面を持つが、収集は規則を求め、「偶然」に支配されがちで、「競争」も入り込む。そして「眩暈」と「模倣」とはほとんど関係がない。だが、カイヨワは賭博やスポーツに興じずに、人生そのものを賭け、前人未踏の業績に向かって自己と競争した。
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