「
助けてと 言えぬ怖さが 癒えぬ間に オニヤンマ来て 蜂捕らえ飛ぶ」、「裏庭に オニヤンマ落ち 頭なし 名の知らぬ鳥 雄叫び上げる」、「羽ばたきの 音に驚く 雀たち餌米取られ うらめし鳩よ」
一昨日、家内が裏庭にトンボの死骸があると言った。頭がなく、翅が胴体から外れた状態で、その胴体は大きく、黒に黄色の縞模様とのことだ。筆者はそれを見ずにオニヤンマだと言った。子どもの頃、街中にトンボをよく見かけた。灰色の胴体のものが最も多く、オニヤンマはとても珍しかった。近所の数歳年長のお兄さんに、夏休みには近鉄電車に乗って生駒山まで虫取りに連れて行ってもらったことがあるが、その時カブトムシは捕まえられてもオニヤンマはそうではなく、ごくたまにオニヤンマの実物を見ると、さすがに「鬼」だけあってその特大さに感心したものだ。わが家の裏庭には今時分はハグロトンボがひらひらなよなよとよく飛んでいるが、家内はトンボは蜻蛉すなわち精霊で、死者の使者かと思ってオニヤンマの頭のない死骸の発見を、縁起の悪い演技の思ったようだが、昨日の夕暮れ、また見つけたと言う。物干し棹からぶら下げているS字型フックの下端にしがみつき、深夜になっても同じ状態で、今度は筆者に見ろと言う。死んだトンボの連れ合いかどうか、どちらもわが家の近くで羽化したのだろう。トンボは体の割りに大きな目だが、フクロウと違って夜は苦手で、また眠る必要がある。今日の最初の写真は23日に日付が変わってすぐに撮った。ピントが合っていないが、黄色の縞模様はわかる。翌朝つまり今朝は珍しくも筆者は7時に目覚め、気になっていたオニヤンマを見るとまだ同じ状態でいた。その様子を撮ったのが2枚目の写真で、撮影後にまた眠って2時間後に起きるともういなかった。先日の頭部のないオニヤンマは鳥に食べられたのだろうか。そうだとすれば頭だけではなく、全体を食べるだろう。オニヤンマも死ぬが、頭がもげた状態の死に方はトンボの「鬼」らしくはない。それにS字型フックにぶら下がる様子を見て、「こんなに小さかったか」と思った。子どもの頃に大きく見えたものが、大人になってそうは見えないことはよくある。オニヤンマの場合、単に筆者の身体が大きくなったためだろう。それでもトンボの仲間では特に大きい。大きい昆虫は印象深く、カブトムシでもヘラクレスが人気者で今は日本でも入手しやすい。蛾もクスサンのような大型のものは手元に置いて眺めたくなるが、そう言えばゴッホはアルルで「髑髏蛾」を見つけてスケッチした。胴体に髑髏模様がないのでそう呼ぶのは間違いだが、クスサンのように翅に大きな目玉模様があって、髑髏を見る気にさせる。ゴッホは「メメント・モリ」の思いでその蛾に注目したのかもしれない。その蛾を殺して部屋に持ち帰らなかったのは、死を受け入れる覚悟があったためではないか。ゴッホの自殺はその1年半後だ。
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