「
奉仕とは 損して得を 取れの謂い」、「奉仕して 迷惑がられ 謝りて」、「奉仕には 無縁の法師の 読経聞き」、「度胸なき 小物の自信 見ぬ振りを」、「確固たる 自信も揺らぐ 大地震」

最後の句は昨日今日とYouTubeで3.11の震災映像を片っ端から見ていることによる。それはいつどこで地震に遭遇するかわからないので何の役にも立たないが、生死を分ける運命があると思えば、享楽的に生きるかその反対に高潔さを理想として生きるかといったことを改めて考えるきっかけにはなる。さて、今日は1か月前から決めていたが、先月取り上げたアイルランドの路上ミュージシャンの
アリー・シャーロックのYouTubeつながりで知ったヴァイオリニスト、カロリナ・プロツェンコ(Karolina Protsenko)がカヴァー演奏する韓国の男性グループBTSの大ヒット曲を紹介する。とはいえ、ほとんどカロリナに関して書く。彼女は2008年10月にウクライナで生まれ、6歳の時にギターを弾く父、鍵盤楽器を弾く母とともにアメリカ西海岸に移住し、最初はアパート住まい、その後庭つきの大きな一戸建てに転居している。父の職業は知らないが、カロリナにバレエも学ばせていて、また去年12月には二番目の男児が生まれ、経済的にあまり困っているようには見えない。アメリカ移住後にカロリナは両親からフルートかヴァイオリンを学ばせてもらえることになり、カロリナは後者を好んだ。そして9歳になる前にサンタモニカのプロムナードという商業施設が両側に張りつく歩行者専用の幅広の道で演奏を始めるようになった。その後、2年足らずでYouTubeの登録者数が500万を超え、現在アリーより50万人ほど多い517万と表示され、50か国以上の人々が登録し、有名度で言えばアリーを凌ぐと言ってよい。そのアリーは、理由は知らないが、2年前の10月に渡米し、カロリナと路上で共演した。渡米の主な理由はレコード会社との接触であったかもしれない。一方、YouTubeのアリーの歌唱力に注目する視聴者の書き込みに、アリーと契約するアメリカの大手のレコード会社がないものかというものがあり、それに対する別のコメントに、これはザッパも80年代に歌で指摘したことだが、ハリウッドのレコード会社の金儲け主義はあまりに酷く、アリーは路上で演奏を続けたほうがいいというものがある。YouTubeで充分生活出来るというのがその理由だが、筆者はステレオの大音量かつ良質の音で音楽を楽しみたいので、スタジオで録音されたCDを聴きたいし、アリーも当然大手のレコード会社と契約してアルバムを発売したい思いはあるだろう。それは一流ミュージシャンになることの必要条件で、路上演奏者で生涯を終えるアリーの姿は想像したくない。ところがYouTubeでは映像つきで音楽が楽しめ、今やCDはさほど売れない。それにCDは自主制作出来る。
YouTubeでは顔や姿の見栄えのよさが求められ、アリーやカロリナはその条件を充分に満たしている。それはさておき、アリーは以前からカロリナのことを知っていたと想像するが、ふたりの共通点は若さと路上演奏以外には乏しく、カロリナは3歳半年長のアリーにかなり遠慮しているように見える。それはアリーがヴォーカル、カロリナがヴァイオリンの伴奏であるので当然とも言えるが、両者とも有名なポップスの、しかもしばしば同じレパートリーをカヴァーしながら、資質に大いに差があり、カロリナは女性を感じさせない瘦せ型で素朴であるのに対し、アリーは最近ますます女らしく豊満になった。アリーの演奏に対する書き込みの中に、その才能をべた褒めしつつも、エイミー・ワインハウスのようにはなってほしくない、つまり薬物やアルコールの中毒で破滅してほしくないというものがある。この懸念は何となくわかる。アリーは母がおらず、父は腕に小さな刺青を入れていて、カロリナの両親のほうが温和に見える。どちらの親もわが子の才能を信じ、それを伸ばそうとしていて、またYouTubeを最大限に利用している点でも共通しているが、YouTubeから得られる収益が登録者数に概ね比例するとして、登録者数の増加を才能の上達と勘違いする危うさがある。カロリナ一家がそれなりに立派な一戸建てに転居出来たことは、コロナ禍の今、路上で多くの人に囲まれて演奏出来ないために普段の生活の様子を見せていることと併せて、人生の幸福の代表のように感じられる一方、その幸福な生活が娘の動画の収益に頼っているのであれば何となく危うい。いつの時代も才能に見合う収入を得ることは当然として、YouTubeの収益はYouTubeの運営側の思惑でどうにでもなるからだ。最近日本のユーチューバーで中学校に行かないと宣言した子どもが話題になった。彼の登録者数は500万に及ばないと思うが、それでもその親も強気で、YouTubeで食べて行けると思っているのだろう。そのうち別の幼ない子が登場して人気を奪うに決まっているが、そうなった時、貯めたお金で別の商売でも始めるという人生の切り替えが出来るかどうかだ。子どもの頃からみんなにちやほやされると、だいたい大人になってからの人生はうまく行かない。もっとも、それが芸能の世界だ。川端康成の『伊豆の踊子』はそのことをほのめかしている。10代半ばまでが花と見られれば、大人になればファンは激減する。アリーにワインハウスのようになってほしくないという思いは、世界共通のそういう芸能の世界の普遍的事情を物語っている。それでも大多数の普通の人からすれば、10歳前後の子どもが図抜けた才能を示し、絶頂の気分で日々を送っている姿は眩しいもので、年齢を重ねて別の存在になることを想像せず、勝手に夢を見る。
アリーやカロリナはすでに世界的有名人で、大人になってどう変わるかは本人たちにもわからず、YouTubeの視聴者が彼女らの将来を心配することは滑稽であろう。彼女らは並みの大人以上の収入はあるだろうし、視聴者は現在の彼女らが華麗に見えればそれでよい。日本で中学校に行かないことを宣言した子どもの将来を心配したような意見を発するのは、あまりに上から目線の態度で、本当にそのように心配するのであれば、将来その子が困窮した時に助ければよい。筆者はその気持ちも経済的な余裕もなく、彼の動画を見る気は全くないが、それはアリーやカロリナのような世界中の人が感嘆する芸の才能がなく、YouTubeに全てを負っているからだ。アリーやカロリナはそれがなくても路上で演奏し、チップをもらえる。ところが未成年であることに共通点がある。筆者はロリコンではないが、9、10歳のカロリナの演奏する姿に顔がほころぶ。ある糖尿病の高齢者のコメントに、血圧が薬で180から140に減り、カロリナの演奏を見るとさらに120に減るというのがあって、カロリナの演奏には癒し効果がある。それはカロリナの人柄と演奏が合わさってのものだ。筆者も思わず落涙しそうになる場面が多々あって、多くの書き込みにあるように、カロリナはこの世の天使と言ってよい。よくありがちな、こまっしゃくれた、ぶりっ子的なところはなく、純粋に演奏を楽しんでいて、家庭ではウィットも見せる。コロナ禍のためにカロリナはプロムナードではなく、今は海岸近くの公園で演奏しているが、背が高くなって9,10歳の面影が減退した。不思議なものでそうなると9,10歳頃の演奏がいいように思える。これは残酷な現実で、今後年々カロリナの賞味価値が減じることを暗示している。カロリナの両親はそのことを知っているだろう。それでカロリナはクラシック音楽を演奏し学び始めているが、20歳頃に有名オーケストラと共演するにはもう遅いか、今しか時機はない。クラシック界で親は3、4歳から学ばせるからだ。だが、カロリナは今後も路上で演奏するであろうし、場合によっては大手のレコード会社が目をつけてCDを作るが、大人になってポピュラー・ソングをヴァイオリンでカヴァーすることでどれほどの人気を保てるだろう。そういう女性がいないことはなく、日本でもクラシック音楽でもかなり軽い目の曲をレパートリーとしてコンサートを開き、一方でTVに頻繁に出演するタレントがいる。カロリナはアメリカでそういう道があればそっちに進むか。ただし、それではYouTubeで500万人以上の登録者数をいつまでも保持出来ないだろう。結論を言えば、カロリナの愛らしさは年々減じて行くので、大人になるにしたがって別の魅力を持つべきだが、カヴァー演奏のみでは難しい。アリーはオリジナル曲を書いているが、カロリナはそうではないだろう。
路上で演奏する曲はなるべく多くの人が知っている有名な、そして新しい曲がいい。カロリナは両親の指導もあって選曲していると思うが、世界的大ヒット曲をカラオケを鳴らしながらヴァイオリン・ソロで演奏するところにカロリナの見栄えはさておき、彼女の原曲に対する解釈がものを言う。そしてそれは年齢相応に完璧で、それゆえ多くの人の心を捉える。彼女の動画で筆者が今も繰り返し見るのは数篇あって、そのうちBTSの
「フェイク・ラヴ」の2ヴァージョンは原曲のメロディがこれほど美しかったかと驚かせ、改めてBTSがアメリカで大人気を博した理由やK‐ポップスが日本の若者に人気があることもわかる。カロリナは
同曲を親から教えられたのかもしれないが、曲の解釈は素晴らしく、音楽家として最も重要なものを持っていることを示している。だがそれは多分に彼女の愛らしさが作用してのもので、50歳の彼女が演奏しても同じ感動を聴き手に与えないだろう。『伊豆の踊子』の踊子のその後が小説では描かれないように、カロリナの価値は9,10歳頃に頂点を迎えたと思える。それはYouTubeではよくあるように、愛らしい犬や猫を見ることと大差ない。それに実際に3歳くらいの自分の女児を見せる動画もあって、世界はかわいい存在を誇示し、それで一儲けしようと思っている人に溢れている。そうであるので現在、今後のカロリナを凝視するのは辛く、20歳前後には有名オーケストラをバックにヴァイオリン協奏曲を演奏してほしいと筆者は思う。20歳の時にカロリナがたとえばメンデルスゾーンやシベリウスヴのァイオリン協奏曲をどのように解釈して演奏するか。それを想像するとぜひ実現してほしいし、7,8年を楽しみに待ちたい。だが、現実は路上ミュージシャンでポップスをカヴァーする状態で、それがそのまま続けばやがて人は飽きる。そう思えるだけになおさら9,10歳頃のもう二度とない天使さながらの姿に何度も見入る。すべての幼ない女子にはそういう愛らしい時期があり、大人になれば別の魅力を持つ。大人になってどういう男性と出会うかで、たとえばワインハウスのように酷い状態で若死にするか、結婚して普通の平和な暮らしに入るかに別れる。6,70代になってもヴァイオリニストとして世界的に有名であるためには、クラシック音楽に進むしかない。そのためには才能以外に多額の資金も必要で、それを現在カロリナ一家はYouTubeで稼いでいるつもりなのだろうか。カロリナの使うヴァイオリンは9,10歳頃までは2万円しないもので、現在使っているものはその10倍ほどのものだが、由緒正しいストラディヴァリウスとなれば数千万円はする。才能のある彼女なので、両親はそれを消耗させずに大木を目指して育ててほしい。7,8年はあっと言う間だ。その期間にどれほど将来を見据えて大物になれるかどうか。
スマホやタブレットでは見えない各年度や各カテゴリーの投稿目次画面を表示する 