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●アレックスからのザッパ・グッズ到着、その10
微鏡で子細に凝視せずともぱっと見でおおよそ本質がわかる。ただし、その本質を確信するには子細に調べる必要がある。何のことかと言えば、人間や人間が作る作品だ。



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そして本質がわかったとして、その人や作品を愛し続けるかと言えば、そうである場合もあるし、興味をなくすこともある。筆者がザッパの音楽に関心を持って現在まで聴き続けているのは、相変らず知らない音源が発売されるからだ。その発売を待つ楽しみを筆者はビートルズで最初に味わった。中学生の頃だ。その次にどんな音楽を聴かせてくれるかという楽しみは21歳の頃にザッパに移ったが、ビートルズと違って同じ曲でも多くのヴァージョンがあり、またあらゆる音楽との関連性を持つので、顕微鏡で調べる楽しみで言えばとてもビートルズは比ではない。逆に言えば、ビートルズのアルバム数の10倍以上というそのあまりに途方もない量の作品によって、簡単に近づけないものを感じる人は多いだろう。音楽評論家にしてもそうで、ごく限られたファンに支えられるザッパを無視しても収入に響くことはない。むしろ無視すべきで、よく言えば敬して遠ざけておけばよい。作家の評価は死後に始まるとよく言われるが、ザッパが遺した録音が全部公になり、さらに少なくても10年や20年経たねば、ザッパの全貌は定め難い。もちろん筆者のような古くからのファンはぱっと見で真価を感じたが、前述のようにそれが世間の、つまり歴史的評価として定まるには、顕微鏡を通した子細な分析が欠かせない。ただし、今後出て来るはずのそういう評論家ないし研究家は、末端を重視するあまり、全体が見えにくくなる懸念がある。筆者の『大ザッパ論』はザッパの全体像を俯瞰しようとしたもので、それはザッパ没後に新譜が発売され続けるからには子細な研究というものが途上にならざるを得ないからだ。さて、その俯瞰的観察と細部の凝視は時代によって変化するところを含むから、いつまで経ってもザッパの真価は定まりがないようなものだが、それを当然としながら、ザッパの時代性とそれが人間の本質とどう関係し、また後世にどう影響を及ぼし得るかをあれこれと考えることは楽しい。その楽しさが研究ないし評論行為の原点にあるべきで、ザッパも音楽行為をそのように楽しんだ。さて、昨日は写真集『ZAPPA』から3点の写真を引用した。その説明をしておくと、最初は1952年頃の家族揃ってのもので、中学生のザッパはもう父と同じほどの身長だ。この当時母親は30代半ばだろう。それにしては老けていて、その様子からさほど豊かではない生活ぶりが垣間見えるとしても、子どもを4人産めば老けて見えて当然だ。その当時、夫婦共働きは珍しかったはずだが、ザッパは結婚後、自分の両親と同じように、夫は外に働きに出て、妻は家に子どもを産み育てるという生活を送った。つまり、その点では両親を見習った。
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 ザッパは土地を所有し、それを耕して生活するという暮らしがあたりまえの家系に生まれなかった。父はシチリアからの移民で、それは生活苦から少しでも逃れるためであった。その思考はザッパにそのまま伝わった。ただし、好きなことをしていればいくらでも頑張れることを知っていたので、絵も上手であったが、10代半ばで音楽を目指した。それで食って行くにはどうするか。ラジオから毎日盛んに鳴り響くポップスはレコードという商品だ。それをたくさん売るほどに収入は増す。そう考えたザッパは録音に興味を示し、スタジオを持ちたがった。それは20歳で結婚した最初の妻ケイ・シャーマンと別れた数年後の20代前半にかなうが、今日の2枚目の写真はそのスタジオZの録音機器だ。また最初の写真は20歳頃の絵で、「低予算の宇宙船」とキャプションにある。その機器に囲まれた薄暗い内部を居心地がよいと思ったことは2枚目のスタジオ内部に実現した。絵でも音楽でも作品を作るにはある場所に籠って時間を費やす必要がある。それは一般的には内向的とされるが、刺激を外部から受けなければ作品は生まれないから、部屋から出ることも重要だ。ともかく、このスタジオを持つことはザッパの音楽の大きな原点となった。今なお発売される音源はみな録音機器あってこそで、またスタジオで加工したものだ。話を戻して、ラジオから流れるポップスは多くの人を楽しませるという観念によって、耳障りのよい甘い菓子のようだ。ところが少年ザッパはその甘さの原理とそれを享受する人びとの実態を知り、そういう音楽はすぐに飽きられ、自分も飽きることを知った。そこでたまたまレコード店でヴァレーズのアルバムを見かけ、その音楽を知るが、一方、映画にはポップスにはない視覚性豊かなさまざまな音楽がある。そこでザッパは映画に興味を抱き、やがて学校の先生が書いた映画の脚本に音楽をつける。また自分の作曲を他人に演奏してもらうことはハードルが高く、自分で演奏するしかない。そこでギターを覚え、バンド活動をし、作曲に勤しんだ。そうしたギター曲としてこの写真集では初めて19歳での「DANCE」の楽譜が紹介された。昨日の2枚目の写真がそれで、その手書きの楽譜の左はヴァレーズのアルバムだ。そのジャケットの三方が白い紙で補修されているのが生々しいが、筆者は所有する同じアルバム2枚も三方が割れていて、当時の紙は質がよくなかった。話を戻して、音楽で生きて行くとして、その場合、結婚は障害になるか。昨日の3枚目の写真は60年頃の8ミリ映像から選ばれたもので、最上段の3枚はビーフハートで、女性はケイ・シャーマンだ。ゲイルは彼女の写真を載せることにあまりいい気はしなかっただろうが、ケイとザッパの生活は短期間で、また子どもが生まれなかったので、ゲイルは妻たるものは自分だけという誇りがあったに違いない。
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 ケイとの離婚原因は想像するしかないが、ザッパの発言によればケイはザッパでは性生活が満足出来ず、またザッパが音楽にのめり込むことを嫌ったようだ。それでザッパは百科事典のセールスマンなどをしたが、その時の思い出は後の作曲に活かされる。どんな経験でも作曲に使うのがザッパで、無駄な経験はないという考えがあった。ケイと別れて音楽に浸り切ったザッパはやがて気の合う者を見つけてマザーズを結成する。その正式の旗揚げは64年の母の日であるから、ケイと別れて以降の2,3年にその後の音楽の方向性が明確に定まっていた。アレックスのドキュメンタリー映画『ZAPPA』は初期が重視されているが、その初期におけるマザーズの旗揚げやライヴ活動、アルバムの実現といったいわゆる商売面については、マネージャーの存在が欠かせない。名声を得るには多くの人に知られることだ。そのためには多くの場に露出すべきだが、ひとりで経済面に気を遣いながら満足に作曲、演奏活動を行なうことは無理だ。ザッパの最初のマネージャー、ハーブ・コーエンはその意味でザッパにとっては恩人であった。ところがハーブは金儲けに貪欲であったのか、あるいはザッパが経済面に疎いと思ったのか、ビートルズがレコード会社からそうされたように、ザッパにすれば搾取と思えることをし始めた。それに激怒したザッパは、すでに世界的に有名になっていたこともあったので、ハーブがいなくてもやって行く自信があったのだろう。そこにはゲイルの存在も大きい。言い忘れたが、ゲイルはマザーズの演奏を見てザッパのファンになった。ゆえにケイと違ってザッパの音楽に理解があった。ザッパを畏怖していたゲイルはザッパの考えに忠実にしたがい、どうすれれば騙されずに済むかを徹底的に学んだであろう。ザッパ没後の頑なな態度がそれを物語っている。日本の芸能界を見てもわかるが、簡単に騙されて財産をごっそり奪われる芸能人は少なくない。そうなっても本人はまだ目が覚めない。この写真集には64年の結成時のマザーズの写真があって、それは支援者向けのEPとCDのジャケットにも使われたが、そのよく知られる写真とは別に、その陰にいたマネージャーのハーブの写真を本来は小さくとも1枚は添えるべきなのに、生前のザッパは彼の写真を黒塗りし、存在を消去した。それでこの写真集でもハーブの存在は見えない。これは年月が経ってもザッパの真の姿が見えず、むしろ歪んで行くことの一例と言ってよく、この写真集が若きザッパのあらゆる面を示しているかと言えば、決してそうではないことを知っておかねばならない。またそうなればアレックスの映画も微妙に偏りないし無視があるはずだが、作家の没後に聖像化が行なわれるのは仕方がない。それにザッパはハーブとの訴訟に勝利し、邪悪に立ち向かった正義として今後も記憶されるべきと言える。続きは明日。
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by uuuzen | 2020-12-09 15:27 | ●ザッパ新譜紹介など
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