僅差が絶対的に存在する署名だが、どう書いても本人の癖が出る。筆跡鑑定はその癖の有無で偽造かそうでないかを判断するが、印鑑なら印影の比較は子どもでも出来る。ところが三文判が氾濫し、おそらく同じ印影の印鑑が大量に出回った。そうなれば署名のほうに重要性の軍配が上がる。

手先が器用な筆者は子どもの頃から割合印鑑に関心があって、蔵書印を中学生の時に作った。そう言えば、図画工作の教材を業者が中学校に売り込みに来た時、美術の先生はその見本を筆者だけに与えることが何度かあった。そして自宅で作ったものを見て先生は一括購入を決めたが、そのようにして筆者が作ったひとつに粘土の小さな置物風の仮面がある。それは数年に一度、忘れた場所から出て来る。その仮面は半ば抽象で泣き笑いの表情をし、プラモデル用の銀色の塗料を全面に塗ってある。その泣き笑いの仮面がギリシア・ローマ時代の舞台劇の象徴であることを知ったのは成人してからで、10代前半の筆者は無意識に人生が悲劇と喜劇の連続であることを知っていたのだろう。実際そのとおりだ。こうして毎日平穏に投稿しているように見える筆者でも、深刻な事態に遭遇することがままあり、動揺を抱えたまま、あるいはそれを抑えるためにあえて平常心を保って文章を書く。以上は全くの即興で、書きながら思い浮かんだことだが、以下は書こうと思っていたこと。先日家内は父の月命日に高槻に行き、そこで菓子をもらって帰った。その中に最中があり、その模様に感心した。四文字の印章を模したもので、最初の二文字が「大山」ではないか。自分の作品用の印章をこのように最中にしてくれるサービスがあれば利用したいが、型を作るのがまず高額だ。2枚目の写真は先日家の中で見つけたルービックキューブで、息子が子どもの頃に入手した。方向音痴の筆者はこれが苦手で、6面全部を揃えられない。ここ数日、1日20分程度ガチャガチャ動かし、1段目だけは揃えられるようになったが、それ以上は無理だ。そこで別のことを考えた。このキューブの各面、計54か所に異なる文字をひとつずつ彫り、立体組み合わせ印鑑にするのだ。何通りの印鑑が出来るのか知らないが、偶然に面白い漢詩が出来る可能性は大きい。ところが、ある字面の印鑑を欲した時、がちゃがちゃ回転させてその字面を出そうとしても、数日あるいは何年経っても出せない場合がある。偽造防止にはきわめて有効でも、本人が使うには高齢になるほどに不便だ。あるいは認知症を防ぎ、頭を柔軟にするためには却っていいか。ぴんぽーん!「宅配便でーす」「印鑑はいりますか?」「はい」「ちょっと待ってねー、がちゃがちゃ……」「奥さん、何を遊んでるんですか、早くしてくださいよ」「あのー、立体組み合わせ印鑑で、なかなか名字と住所が出せないのですよ」「拇印でいいですよ」「ボイン?」「ぐーと突き出してください」

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