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●『TRILBY』その1
章をもらったビートルズは外貨獲得が途方もなく多かったことが理由であったと思うが、だとすればその音楽性はイギリス政府にとってはどうでもいいものであったのだろう。世界的に有名であるから、多くの人がアルバムを買い、コンサートに行く。



●『TRILBY』その1_d0053294_11475849.jpgつまりミュージシャンが金を多く稼ぐことは多くの人に歓迎されているからで、それが世界的となれば、勲章を与えても反対する人より好意を抱く人が多いだろう。さて、今日はジョルジュ・デュ・モーリア著の『トリルビー』について書くが、読んだのは全8章のうち、1章の大部分と、7,8章のみの150ページほどで、これは映画『悪魔スヴェンガリ』で描かれない部分や、その映画との差を知ることが目的であったからだ。残りの部分を読破したいのは山々だが、ほかに読みたい本が山のように積み上がっているうえ、毎日根を詰めた仕事を続け、またこのブログの執筆もあって、視力の酷使が限界に達している。デュ・モーリアの小説は他に2冊あって、『ピーター・イベットソン』が本書より先に書かれ、『火星人』が死後に出版された。どちらも本書と同じ出版社から初版が出て、紺色の表紙にデュ・モーリアの挿絵が1点金押しで表現されていて、3冊並べると全集のようにデザインが揃って美しいことを想像する。本書の体裁についてはエルザ・トリオレが『ルナ=パーク』に詳しく書いていて、それで筆者は同じ本がほしくなったが、小説家として有名でなかったデュ・モーリアが、最初の『ピーター・イベットソン』をハード・カヴァーで天金という贅沢な造本として出せたのは、内容を読んだ出版社がこれは売れると踏んだだけではなく、デュ・モーリアの美意識が強かったからであろう。エルザが本書の体裁に言及したのは、内容もさることながら、手に持って表紙を眺めた時の愉悦からであったと思うが、こういう楽しみは本好きでなければわからない。ともかく、筆者は本書から予想外にさまざまなことを知り、また考えている最中で、本書を知るきっかけとなった『ルナ=パーク』を読んだことを今年最大の幸運であったと思っている。本書の表紙は主人公トリルビーの上半身が金押しで表現されているが、『ピーター・イベットソン』は手車を押す小さな子どもで、『火星人』は空を見上げる年配の男性で、筆者はいずれこの2冊も原書で入手して内容を知りたいが、前者は子ども時代にある女性と親しくなったピーターが長じてその女性と恋愛するに至るが、不可抗力で殺人を犯し、思いの中でお互い愛し合うといった内容らしい。『トリルビー』ほどの人気を得なかったが、デュ・モーリアの没後に映画化された。『火星人』は天体観察をする男が主人公のようだが、19世紀末の社会を表わしていることは他の2冊と同じはずで、またそれは現在に直接つながっていることもあって理解は及びやすいと想像する。ただし、エルザが書くように本書は現在からは遠い。
●『TRILBY』その1_d0053294_11482627.jpg
 『ルナ=パーク』で頻繁に本書を取り上げながら、エルザは次第に本書を否定的に捉えて行く。「愛に死す」という主題が戦後のナイロン時代にはもう古いと感じたことと、エルザ自身の高齢化が原因であったと思う。トリルビーは18歳でスヴェンガリに見出され、5年歌手として活躍した後に23で死ぬが、実際はその年齢で死ぬ女性はきわめて少なく、多くは高齢まで生きなければならない。そうなると若い頃の美貌は消え、ちやほやしてくれた人たちもたいていいなくなる。そうなった時に若い頃と同じかそれ以上に自信を持って生きて行くにはどういう方法があるか。エルザは文筆家であったのでひたすら書けばよかったが、そういう才能がなく、しかも自己主張したい女性はどうするか。そのひとつの答えが『ルナ=パーク』だが、『ナイロンの時代』の第3作『魂』ではまた違うタイプの女性が登場するだろう。筆者がエルザの本を最近集中して読んでいるのは、20代前半に彼女のことを知りながら、また本を買いながら、情報の乏しさもあって読むことがなかったが、近年たとえばヴァージニア・ウルフのように女性の創造者に関心が湧き、女性が才能を充分に開花させるにはどういうことが条件になっているかを知りたいからだ。そのひとつの答えがトリルビーにあると言ってよいが、彼女は23で若死にし、エルザはその点に納得が行かなかったであろう。だが、『幻の薔薇』ではトリルビーの生まれ変わりのような美女を主人公にし、しかもトリルビー以上に酷い死に方をする。それは「ナイロンの時代」ではそうあるべきとエルザが思ったからか、あるいはトリルビーがあまりに聖像化されていることに不満であったためであろう。トリルビーはデュ・モーリアという男性がヴィクトリア時代に創造した女性で、そこには男が女に対してそうあってほしいという理想が色濃く反映している。女性のエルザは女の実体をよく知り、トリルビー像はあまりにロマンティックで、戦後は誰もそういう存在を信じないと思っていたのではないか。これは恋愛で命を縮めることが時代遅れというのではない。恋愛は永遠のものだ。とはいえ、トリルビーのようにセックス抜きの生き方があり得るか。そこでエルザは『幻の薔薇』に女性の奔放な性行為のことを書いたが、主人公のマルティーヌは不思議なことに母と違って夫に一途で、他の男の色目に乗らない。そこにエルザの理想の女性像があって、それはトリルビーに重なる。これは重要な点で、誰とでも寝るような女を主人公に小説を書いても、それはグロテスクなだけで、ロマンはない。「ロマン」とは小説の意味で、聖なるものが表現されなければならない。トリルビーもマルティーヌもそれは多情では全くなく、ひとりの男に人生を捧げたということだ。それが非現実であると笑う女性が多いのはいつの時代でも同じだが、そういう女性は小説の脇役になっても主人公になることはない。
 一方、エルザがモンパルナスに住んでいた若い頃に知り合った「素敵な」女性の男はアル中、麻薬中で、エルザとも寝ようと迫り、それを拒否したエルザはその女性から軽蔑された。自分の好きな男が他の女に手を出そうとしてもそれを許せるほどに、その「素敵な」女性は男に対する愛情が深いとエルザに言いたかったのだろう。愛は交換するものではなく、一方的に与えるだけのものと定義すれば、その「素敵な」女性の態度は正しい。つまり、彼女の愛する男が他の女に手を出し、自分の前でゲロを吐くといった態度を取られても、見捨てることはない。そういう女性はいつの時代にもいるし、彼女こそ聖なる存在とみなすことも出来るが、そんなふたりの愛から何か生まれるだろうか。ふたりの間で消耗するだけではないか。「素敵な」女性は、惚れた男に一角の人物になってほしいと内心思っているからこそ、ひどい仕打ちにも耐えられるはずで、ただの飲んだくれで女にもだらしないとすれば、世間はその女もそれに似合うと考える。愛が精神の狂いとすれば、その「素敵な」女のそれも完全に狂っていて、彼女こそエルザと違って真の愛を体現していたということになりそうだが、エルザが本書のトリルビーやまた彼女を愛しながら指一本触れなかったリトル・ビリーが、愛のために若死にしたことをある意味では時代にそぐわないと感じたことからすれば、筆者は今の時代における男女の愛の物語の普遍性がどうあるべきかを考える。そしてトリルビーからマルティーヌに引き継がれた、ひとりの男に一生忠実であったことの可能性の程度を思うが、60年代のヒッピー文化のフリー・セックスを経た現在、若い女性が数人、数十人の男とセックスすることはあたりまえに言われ、愛があまりにも軽くなってしまったことから、古典的なロマンの成立の困難さを感じる。とはいえ、19世紀末もエルザの時代も売春婦はいたから、それゆえに純粋、純潔なトリルビーが人気を博したと言ってよく、またそういうトリルビーが想像の産物ではなく、実際にいた多くの女性から抽出したひとつの典型であったはずで、小説は現実にはあり得ないことを書いたものではなく、むしろ現実をわかりやすく煮詰めたものと思ったほうがよい。そして、本書はそういう真実味に溢れ、挿絵画家デュ・モーリアの考えがいろいろとわかって興味が尽きないが、それは簡単に言えば芸術だ。絵画、音楽、文学の三位一体が本書にあって、しかもトリルビーという若い美女を通じて人間の、また人間が作り得る芸術の素晴らしさを説く。ただし、それはアポロ的な美とデモーニッシュなそれとの拮抗で、スヴェンガリという魔術を弄する奇怪な男が音楽において勝利しているところ、デュ・モーリアの考える芸術における音楽の位置が見えそうだ。以上、序か結論かわからないが、長くなりそうなので続きはいずれ書く。
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by uuuzen | 2020-09-13 23:59 | ●本当の当たり本
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