「
浅はかでうっかりしていました」「どうしたのじゃ」「へぇっ、ハドリアヌス皇帝様、バッサリちょん切ったはずの
ヘクソカズラがいつの間にか別のところで小さな白い花を咲かせてしまいました」

「何! それはどこじゃ」「へぇっ、あっしに世話が任されています
白薔薇VIRGOの近くです」「はっきりと言え」「へぇっ、実は以前から気づいていたのですが、葉の形があまりによく似ていまして、切ってはまずい山芋の蔓を少々切ってしまい、そのままにしておいたのです」「詳しく話さんかい」「へぇっ、沈丁花に毎年山芋の葉が覆って秋にはムカゴがたくさん出来ます」「わしの好物じゃな」「へぇっ、山芋の葉は今年もたくさん生え出て、ムカゴもかなり出来始めていたのですが、どうも様子がおかしいとは感じていました」「どういうことじゃ」「ムカゴの数が少ないような……」「長梅雨であったしな」「あっしもそう思いましてそのままにしておいたのです。ところが今日山芋の葉に混じってヘクソカズラの花が黙ってたくさん咲いていることに気づきました」「アホっ、黙って咲くのはあたりまえじゃが、薔薇と違ってヘクソはお前と同じく、とても臭いぞ。何で早く気づかんのじゃ」「うっかりしていました」「クソアベ! 浅薄で迂闊なお前をそう呼ぶのは正しかったな」「へぇっ、ごもっともでやんす。ヘクソアラビアよりはまだましな名前です」「またヘクソアラビアと呼び直そうか?」「あっしの故郷のアラビアを侮辱されるのは……」「侮辱されるようなアホをしたからじゃ」「芋の葉とヘクソカズラの葉があまりに似ているうえ、蔓が巻き合っている状態で、見分けがつかなかったのです。それにまだ小さなムカゴのことを考えると、手荒なことは出来なかったのです」「芋とヘクソの葛がこんがらがって『芋葛(ウカツ)』であったと言うのだな」「?」「アホなお前にはわからぬ洒落じゃ。葛と藤の蔓が絡まって『葛藤』じゃが、お前のヘマから思わぬ洒落を思いついたわい」「?」「で、ヘクソカズラはどう始末したのじゃ」「へぇっ、全部引き抜きましたが、山芋の蔓もかなりちょん切ってしまいやした」「アホっ! ムカゴはどうなったんじゃ」「かなりたくさん地面に落ちましたが、今拾っているところです」「ヘクソの根元は確認したか?」「それがどうも不思議でして、山芋の根元から生え出ているような……」「山芋が突然変異してヘクソが生え出たと?」「……」「そんなはずはあるまい。ヘクソは山芋に擬態しているのじゃな。葉がそっくりならば蔓も根元も見分けがつかんじゃろ」「知らない間にちゃっかり侵入されました」「ははは、ローマ帝国と同じじゃな」「始末が悪い点も?」「このドアホっ! ローマは1日してならずで、ならずものではないぞ。侮辱するんでない!」「へぇっ」「ともかく、お前は奴隷らしくヘクソカズラの臭いがこびついてあまりにひどい! 近寄るんでない!」
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