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●『肖像と回想 自伝的交友録』さらに続きアゲイン
しい評判は生きている間だけのことがほとんどだ。若い頃に有名になり、その後は目立った活躍がなければ、死亡時に訃報が流されるだけだ。長生きすると、時代が、つまり流行がすっかり変わり、名声を誇った人が古臭く見えてしまうものだ。



●『肖像と回想 自伝的交友録』さらに続きアゲイン_d0053294_02112838.jpgアラゴンはエルザ・トリオレと鴛鴦夫婦で、ガスカールはそのふたりと何度も話をしてふたりの雰囲気を読者にわかりやすく伝える。ただし当然のことだが、アラゴンやエルザの本を読む人はまた別の思いを抱くだろう。ガスカールはエルザから贈られた小説が感傷的で、評価しなかったことを書く。その本はたぶん1957年の『記念像』だが、邦訳が出ているのかどうか知らない。その後のエルザの本をガスカールが読んだかどうかとなると、ガスカールはアラゴンとエルザにうんざりして遠ざかったので、1958年、還暦過ぎのアラゴンにはもう関心を抱かなかった。その後エルザは12年、アラゴンは24年生き、ふたりとも多くの本を書くので、本書からふたりの評価を下すのは早計だが、結局のところ、ガスカールはアラゴンから粗末に扱われ、それを恨んでいるように感じられる。もっと理由をつければ共産主義者であったふたりが時代遅れになって行ったので、多くの知り合いから見棄てられたことを言いたいのだろう。とはいえ、長く生きて時代がすっかり変わってしまったのに、主義を変えない人物の滑稽さをあげつらっているのでなく、主義を変えなかった点はそれはそれで認めている。こんな下りがある。「プロレタリア階級のためのこの種の自己犠牲は、アラゴンにとって真実のものだったのか? この作家の過去と現在の作品においては……、自己犠牲を可能にするような、精神の服従、想像と感性の不在はみじんもなかった。しかしおそらく、知性の役割は夢想の自由を侵さない程度の、信仰の様相はあるのではないか? 血気に逸る小説家、叙情詩人であるアラゴンは、おそらく密かにそういう苦行衣を身につけていたのである……。」 これはアラゴンにまとわりつく苛立ちのようなものをうまく説明するが、この後に続く文章は、「それはともあれ、わたしは、自分にとって生きた謎である彼に、うんざりし始めていた。」だ。この1行が本章を要約しているが、本章を終えるに際してガスカールは、アラゴンが最後にガスカール夫妻に贈った本に献辞代わりに「ある変わらぬ気持ちをもって……」と書いていたことに対し、「ある後悔の念を保っている」と漏らす。もっと仲よく交際すべきであったという思いだが、人間関係において一旦うんざりした思いを覆すことは難しい。ともかく、ガスカールの後悔の念は苦みと言い替えてよく、それはアラゴン夫妻が抱えていたものだ。少なくても本書から伝わるアラゴン像はそうだ。
 その苦み走ったアラゴンの容貌や精神を、ガスカールはその出自が理由であるとするのは、本書の他の章で取り上げられる人物と同じで、それはまたガスカール自身にも言える。本書にアラゴンの父のことが紹介される。「父親はパリ警視総監で、その後スペイン大使になり、十九世紀末には、立法府の幾度かの任期の間に、注目すべき代議士になった。さらに予審弁護士、闘争的な新聞の編集長になり、1914年の戦争に先立つ時期には、また政治活動に戻った。」 これはガスカールが直接アラゴンから聞いて知ったことではない。アラゴンは下宿屋の若い女将との間に生まれた認知されない私生児で、誕生時、父は57歳であった。父から同じルイという名前をもらったが、アラゴンの天才性や政治好みは父の血を引いたのだろう。ガスカールはアラゴンと食事をともにし、ウォッカも手伝って60歳のアラゴンが、「しばしば傲慢で無遠慮な外観からは隠されていた人柄を、幾分かはさらけ出すことになった」が、相変わらず「自己弁護、自己正当化の試みが際立ち」、彼の幼少期に関係がある部分にしか説得力を感じない。そしてこう続ける。「彼は、社会の偏見と、それをみずからの規範にしてきた人たちのエゴイズムとの、自分は生まれながらの犠牲者だ、という態度を示していた。」 この後にガスカールが綴る文章はアラゴンの著作を読むことから得られない内容で、アラゴンは会ったことのない父を恋しがりながら、同じ政治への道を歩んで、「私生児の復讐は、物質的な幸福と民衆の尊厳のために実現されるだろう」として、アラゴンの青年期以降の姿を描く。アラゴンはエルザと暮らしてヒトラー政権下では貧困な暮らしをしたが、本書では2ヘクタールはある土地に建つアラゴンとエルザが住む住居が、『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』の挿絵のようだとして、優雅な暮らしぶりが伝えられる。だが、そこは小説家のガスカールで、その住居にあった水車を改造した円窓と、その向こうに流れる落水を本章の最後に登場させ、アラゴンとエルザが「無数の友だちがいるにもかかわらず、彼ら自身の秘密の苦悩のイメージを、倦まずに送ってよこす、落水の円窓を前にして、孤独な彼らの姿を」ガスカールは想像する。アラゴンは美術ではブルトンの盟友で、シュルレアリスムに関係して知られるが、早々と美術の運動から遠ざかり、詩人として頭角を現わす。美術に詳しいのはエルザも同じで、エルザは最晩年に、邦訳は出ていないが、ガリマールから多くの美術作品や報道写真を挿絵にした新機軸の小説を書いた。アラゴンも同じで、最晩年まで精力的に仕事はしたが、ガスカールから見れば過去の人だったのだろう。だが、そういうガスカールも死んで新しい表現者が出て来る。とはいえ、本は面白い。それを繙くと著者が蘇り、芳しい思考が次々と読み手に染み込んで来る。
 表現者には出自が大きな意味を持っているとして、大金持ちや極貧といった経済状態は才能には関係がない。恵まれない出自のガスカールは若い頃は多くの職業を転々としたが、本書の第1章「家の守護神 フィリップ・エリヤ」のフィリップは小説家で、ガスカールに小説を書くことを勧めた師だ。筆者はフィリップについて本書で知ったが、名家の出で、彼の家にはバルザックとヴィクトル・ユーゴーにまつわる文書や品物がたくさんあった。購入したものではなく、遺産で、フィリップはフランスを代表する二大小説家の末裔ではないにしても、同じ時代をごく身近で過ごした人物を先祖に持つ。そしてフィリップが死んだ後、ガスカールはその遺産目録を作ってしかるべき施設に寄贈するなどの後始末をし、その際に見つけたフランス革命時の、マルク=アントワーヌ・ジュリアンという人物が頻繁に出て来るとある文書の束を、フィリップの相続人からお礼として譲り受ける。後年ガスカールはその資料にしたがって長編小説を書くが、本章からその内容の概略がわかる。ガスカールはジュリアンのことを調べ、やがて彼が「歴史の血で汚れた青年」であったことを知る。その末裔のフィリップはガスカールのような有名な小説家にはならず、バルザックを現代調にしたような凡庸な小説を書いた。いくら名家の出で人柄が温厚でも、時代を画する作品をものにするとは限らない。それはさておき、筆者はロジェ・カイヨワとルイ・アラゴンが生前交友したかと思ってネットで調べて本書を知ったが、本書からはふたりの交友はわからない。カイヨワは小説家、詩人ではないので、おそらく会ったことはないだろう。ふたりの交友に関心を持ったのは、ふたりともシュルレアリスムから出発したからだ。その意味でアラゴンとカイヨワの仕事は20世紀フランスの芸術運動から出た変わり種で、いかにシュルレアリスムが広範囲に影響を与えたかがわかり、ガスカールもその例に洩れないだろう。それは彼の初期の小説を読む必要があるが、フランス文学はシュルレアリスム以前に幻想的な小説があり、その影響を直接間接に受けていることは、フィリップの小説が凡庸であるならば、充分に考えられる。とはいえ、アラゴンが好んだレイモン・ルーセルやロートレアモンのような幻想には同意せず、もっと実生活に密着したことを書いたと思う。本書の随所にある暮らしぶりの違いに対する意識は、裸一貫で育った者には切実であったからだ。だがアラゴンがガスカールに立身出世の方法を知らないとほのめかした時、ガスカールはこう書く。「自尊心の喜びにたいする、社会的成功の悦びとその成功がもたらす物質的贅沢にたいする軽蔑は、本能になって、わたしには力の代りをなし、別の野心のようになっていたのだ。」 こういうガスカールの思いが本物の芳しさと思うが、彼の最初の奥さんはそのことを理解しなかったのかもしれない。
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by uuuzen | 2020-08-18 23:59 | ●本当の当たり本
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