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●『肖像と回想 自伝的交友録』
福を感じる対象は人さまざまだが、昨日書いたように緑色の顔をしたエイリアンは読書好きなようだ。ただし、そこには多分に理想が入っている。読書が好きでも仕事せずに毎日というわけには行かない。



●『肖像と回想 自伝的交友録』_d0053294_02112838.jpgところが最近筆者は読書欲が高まって濫読気味になっている。一昨日急に気になってルイ・アラゴンとロジェ・カイヨワは面識があったかとネットで調べると、1冊の本に行き当たった。それが今日取り上げるピエール・ガスカールの著作で、ガリマールから1991年に出版され、日本語訳は2001年に出た。注文して今日の昼頃に届き、全7章のうち、第2章「石たちの倖せ ロジェ・カイヨワ」と第5章「鏡 ルイ・アラゴン」のふたつを続けて読んだ。全部読み終えて感想を書くべきだが、この2章で満腹になった思いがする。ガスカールの名前は昔から知っていて、著作を読む機会はなかったが、突如筆者に霊感が舞い降りたのか、彼の著作を読む機会を得た。本を知って2日目にもう読んだから、ネットは便利だ。また読書嫌いやずぼらな人はネットの情報をかいつまんで読んだ気になるが、それでは駄目だ。それで、アラゴンのことは後日書くとして、今日はカイヨワについてだ。20代からカイヨワの著作の大半を読んだ筆者だが、カイヨワの晩年の像に何となく納得の行かない悲しみを感じ続けている。その思いにガスカールはかなり応えてくれる。ガスカールはカイヨワ賞を受賞していて、その対象になった著作は知らないが、本書に書かれるカイヨワ像はカイヨワが書かなかったタイプの文章で、カイヨワ賞がどういう著作に与えられるのか、別の関心が湧いた。本書の副題にあるように、ガスカールは交友のあった有名な哲学者や芸術家について自伝的要素を交えて書いている。これがとても豪華だ。有名人は有名人と交友があるのはあたりまえだが、有名人の質というものがある。本書に選ばれている7人全員を筆者は知らないが、ガスカールは彼らとの交友で得た感情について冷静に書きながら、賛辞だけに終わらず、相手の人間臭さを剥き出しにしながら、ガスカール自身の信念を記している。取り上げられた7人が死んだ後の執筆で、そこに一種のずるさも感じさせないでもないが、生前ならば喧嘩になる可能性があって、遠慮から思う存分書けなかった。筆者は今日カイヨワとアラゴンについての文章を読んで、新たなふたりの人物像がわかったというよりも、予想していたとおりであることに驚きつつ、物頼りなさを覚えている。虚しさと言い替えてもよいほどで、カイヨワもアラゴンも大きな葛藤を抱えたまま死んだことを思った。だが、人生はそういうものだろう。若い頃に目指した方向を晩年になって外れて別の大きな目的を持つことは難しい。というより不可能だ。それほど人生は短く、30歳までにひとつの大きな仕事を成し遂げていなければ、その後の大成はまず無理だ。
 とはいえ、ガスカールは幼ない頃から青年期はとても苦労し、30代半ばでゴンクール賞を獲得する。もっとも、それまでに文章はたくさん書いていて、また幼少期の悲惨な体験が却って書くことの原動力になった。巻末の解説にインタヴューに応じたガスカールの言葉が若干書かれている。「わたしはテーマが多岐にわたること(polygraphie)を心から称賛しています。文筆で身を立てているからです。いくつかのテーマについて書くことに、それぞれの幸福感を味わいます。でも、掘り下げて検討するならば、三つのテーマが優位を占めていることが分かるでしょう。幼少期はもちろんですが、さらに動物と精神病です。……このことはちぐはぐに見えるかもしれませんが、実際には狂人と動物と子供は何か共通のものを持っているのです。彼らは同じ領域で生きています。下層で、無意識において生きている者の領域。」ガスカールの母は、ガスカールが6歳の時に麻薬と酒の中毒で精神病院に監禁され、その後水死した。このことが彼の生涯にわたるトラウマになったと考えてよい。一方、彼は小学校時代に「才能のある子」との評判を得ていたが、感受性がとても優れていたうえに知的でもあったということだ。「才能のある子」は同じ世代から、つまり子ども時代に周囲の子からもわかるものだが、大多数のそういう目立った子は平凡な大人になる。その意味でガスカールは抜群に目立った子であったに違いなく、またその才能が発揮された文章の味わい深さは、今日読んだばかりのカイヨワとアラゴンの2章からもひしひしと伝わった。交友のあった人物の本質を、交友のあった者にしかわからないエピソード満載で赤裸々に綴り、しかも自分の姿もそこに落とし込むことは、批評のあるべき姿とは言えないかもしれないが、文章を読む者にとっては、取り上げられた人物と著者のふたりについてよくわかり、めったにない読書の楽しさが味わえる。ただし、それには取り上げられている人物についてのある程度の知識は欠かせない。そのため、カイヨワやアラゴンの名前を知らない人は論外として、名前を知っていても著作を読んだことのない人もほとんど楽しめないだろう。筆者は自分が読む本を誰かに勧められたことはなく、音楽でも絵画でもそうで、自分で必要なものに巡り合って来たが、たとえば本書で取り上げられる7人のうち、筆者の知らない人物については本書がきっかけになって今後著作を読むかもしれない。そういう芋蔓式の関心をもたらしてくれる点で本書はありがたい。そして7名はガスカールの前述の「多岐にわたること」を反映しているはずで、「文筆で身を立てている」という自負が感じられるところが楽しい。実際、本書を読みながら随所で唸ったが、それは知らなかったことがわかったことよりも、カイヨワやアラゴンとガスカールの間で交わされた火花だ。
 カイヨワが晩年に石に関心を示したことはよく知られる。だが本書を読んでカイヨワが石についての文章を何度も繰り返し発表していることを知った。筆者が所有するのは『石が書く』のみで、同書以外にカイヨワが石についてどのような文章を書いたのか知らないが、ともかくガスカールは不満であった。本書にはこうある。「石のテーマは、そのくり返しによって豊かになったので、同じテーマの他の本がつぎつぎ出版され、最後の日付のものがそれに終止符を打つようには決して見えなかった。しかし、ロジェ・カイヨワは、石との絶えざる付き合いによって置かれた、少なくともうわべは生命のない空間において、おそらく自分が孤立し、人間的に剥奪されているように感じるまでになったのだろう。」 またこうも書いている。「彼は、読者たちを、著作から著作へと続けられる一つのテーマ―ここでは石たち―の展開に与らせるのは、きわめて困難だということを見失っていた。多くの読者たちは、彼の反復、異文に当惑し、途中で著者を見捨てる。フーガの技法は作家には禁じられているのだ。」 この後者はカイヨワの晩年の仕事にかなり手厳しい。「多岐にわたること」がカイヨワの仕事であったものが、石に凝り固まって行った。そこにカイヨワの孤独をガスカールは思うが、これはカイヨワの著作を知る者は誰しもだろう。ガスカールはカイヨワと親しかったが、興味の対象としてガスカールが「地衣」を持っていたことをカイヨワが一種羨ましく思っていたことが書かれる。それは石のような鉱物と違って生命体であるからだが、芸術作品や夢など、人間的なものを排除して、幻想の結晶としての石の美しさに行き着いたカイヨワは、今さら「地衣」に興味を持つことは出来なかったのだろう。そこにカイヨワとガスカールの理解し合えない断絶があるが、ガスカールは「かつてひとりの作家の内に、精神のそれほどの大きな洞察力、厳密な論理が、ロジェ・カイヨワのように、非合理性、想像力とのそれほどの親密さを伴っていたことはなかった。」と的確にカイヨワのことを書いている。本書でカイヨワがどういう理由で死んだかを知った。カイヨワは街中で倒れることがあり、それは数年来の飲酒が原因であった。「彼の創造力はアルコールからいかなる追加分も引き出していたわけではない。…そのうえ、飲んだあとでも、いかなる興奮も、さらなる陽気さも、特別な陶酔も示さなかった。いったい彼は酒のなかに何を求めていたのだろう? おそらく明晰な絶望への治療薬だったろうが、それはきまって幻想に終ったのである。」 この後に「わたしは彼を理解し始めた。鉱物界が彼の上にもたらした魅惑は、死への試問に等しかったのだ。」と続けるが、残り4ページはカイヨワの最晩年の境地を見事に表現していてきわめて感動的で、筆者は涙を流した。素晴らしい知性と知性の出会いという極上の時間を本書は与えてくれる。
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by uuuzen | 2020-08-06 23:59 | ●本当の当たり本
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