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●『10ミニッツ・オールダー RED』の「ライフライン」
装された道ばかりとなったので、雨天でもほとんど靴底に泥がつかないが、せっかくなので雨が降ると長靴を履いて出かける。そして、水溜まりを見つけるとそこにジャブジャブと踏み込む。



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去年の空梅雨と違って今年は例年の倍ほども降り、九州では道路だけでなく、家の中まで泥だらけになっている。また道路が崖崩れで利用出来なくなり、ライフラインが断たれている地域もある。今日はビクトル・エリセ監督の作品を取り上げる。彼はきわめて寡作らしいが、筆者は『マルメロの陽光』を封切り当時映画館で見た。画家を扱った記録映画で、92年当時大いに話題になった。10年ほど前にはTVでも同作を見たが、内容はよく覚えていない。監督の名前もそうで、今回ネットで監督の経歴や顔を知った。今日の作品はネットがなければ、図書館で調べる気にもならず、疑問点をそのままに素通りしてしまった。とはいえ、予備知識なしで本作を見ても意味はよくわかる。「ライフライン」は日本では前述のように生活に必要なガスや水道、道路などの意味によく使われるが、本作は原題も同じで、また全然別の意味を持たせている。それは「臍の緒」、つまり母体から胎児が生きるための栄養をもらう細い筋のことで、また命が世代に継がれて行くという意味でも使われている。それもあって、本作では生まれ立ての赤ん坊や子ども、青年、中年、老人と、各世代の村人の普段の生活が描かれる。どの国の村かと思って見始めると、やがてベレー帽を被った農夫が草を刈り取る作業をしている場面があって、バスク地方であることがわかった。エリセ監督はバスク人なのだ。バスクはスペインにあって、フランスと接している。音楽家ラヴェルは母方がバスク人で、それでラヴェルは「ボレロ」など、スペイン色豊かな曲を書いた。バスクに関する筆者の知識は他にピカソの『ゲルニカ』がある。ゲルニカバスク地方の街で、ピカソはそこがドイツ軍によって無差別に爆撃されたことに立腹して抗議のためにその大作を描いた。それは1937年のことで、本作で描かれるのはその3年後で、やはりヒトラーが影を落としている。とはいえ、そのことがわかるのはごくわずかな場面で、具体的に言えば新聞記事とそれに載せられた1枚の写真だ。それが最初のほうと最後に出て来るが、第2次世界大戦時のスペイン、バスク、フランス、ドイツの関係を知ればもっと理解が出来る。スペインは当時フランコによる独裁政権で、バスクがいわばどうなってもいいと思っていた。それでゲルニカが爆撃されたのだが、その延長にバスクがヒトラー政権下でどうであったかが本作から垣間見える。ここにはスペインにあってもスペインから見放されたバスクの立場がある。少数民族問題は今なお世界中にあって、その少数側からの映画や作品が作られ続ける。本作はそういう一篇で、また実際に戦時中に撮影されたかと思うほどに何もかもが古くて自然だ。
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 本作は前半はほとんど無音で、音楽がない。先日投稿した「老優の一瞬」は全編にピアノ曲が流れ、その作曲家はエンドロールにレオシュ・ヤナーチェクとあった。なるほど、チェコの映画であれば彼以外には考えられない。だが、ヤナーチェク級に有名なバスクの音楽家は知られない。本作を見る限り、バスクは田舎で、チェコのように独特の芸術文化を育む環境になかったのであろう。それはともかく、田舎の平和な日常生活が映し出される中、眠っている赤ん坊が映り、その腹部から血が滲み出す。それが今日の最初の画像だ。白黒映画でもそれは血としか考えられず、この突然の血の広がりは、平和な村を描いているように見せて、不穏なことが起こるのかと思わせ、衝撃的だ。またその後に今日の2枚目の画像が登場する。字幕に「国境検問所にナチスの旗が揚がる」という新聞記事で、ヒトラーがフランスのヴィシー政権と休戦協定を結び、フランスを搾取出来るようになった。それが40年6月のことで、同じ月にバスクもいわばヒトラーのものになった。新聞記事にはドイツの軍服姿の青年が3人写っていて、前髪を垂らしてヒトラーを真似ている。バスクの青少年かもしれないが、ならばヒトラーを歓迎したという意味だ。フランコに見放され、フランスと運命をともにしなければならなくなり、ヒトラーになびいた少年もいたのではないか。フランスでも当時若い女性がドイツ軍兵士と親しくし、ヒトラーが敗退した後、彼女たちはドイツ軍に抵抗した人々から頭を丸刈りにされるなどした。日本は戦後アメリカを積極的に受け入れ、「パンパン」と呼ばれる女性を捕まえて衆人の前で吊るし上げる人はいなかったであろう。それはともかく、新聞記事の少年3人は周囲の大人の思いに同調したのであって、バスク人にもヒトラーを歓迎した者がいたのではないか。あるいは表向きそうでもしなければ何をされるかわからない。話を戻すと、腹部から血が滲み出る赤ん坊のそばに母親や眠っているが、異変に気づかない。村人は農作業をし、姥たちは刺繍をしたり、小麦粉を練ったり、家事に勤しんでいる。子どもたちはブランコで遊び、乗用車に乗り込んで運転気分になったりしている。鳥は木の実をついばみ、地面に落ちたその実の間を蛇が縫って這う。休戦協定が結ばれたばかりで、ひとまずは平和なのだろう。だが、松葉杖を傍らに置く青年が映り、彼は従軍して負傷したのであろう。本作の冒頭近くに、扉を閉め切った納屋にひとりの少年がいて、彼が太い鉛筆を舐めながら腕に時計を描く場面がある。他の子どもと違って孤独を好むのか、松葉杖の青年とともに印象深い場面だ。また鉛筆による腕時計は本作が10分の長さであることを意識してのことでもあるだろう。それぞれの村人が仕事や遊びに従事している間、赤ん坊の腹からの血はますます広がって行く。そこに一匹の黒猫が登場するのは、血の臭いを嗅いだからだろう。
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 その猫は揺り籠の中を覗く。次の場面では母親の悲鳴が上がる。村人はその家に向かって走る。パン粉をこねていた太った姥が糸で赤ん坊の臍の緒を縛り、鋏で始末する。そして元気な男の子だと言い、小さな足指に口づけをするが、臍の緒を縛り直す場面は赤ん坊も姥の両手も血まみれで、作り物めいて見得ず、生まれて間もない、そして臍の緒の始末が疎かになっていた赤ちゃんを使ったのだろう。腹にかけられていた白い布は血ですっかり染まっていて、姥はそれを水を溜めた洗面台で洗う。あやうく事故で生まれ立ての赤ちゃんが死ぬところであったが、発見が早くて助かった。母親はそばにいる夫とその赤ん坊を抱き、そして子守り歌が流れる。バスクの民謡だろう。その歌詞に、「今は駄目」というのがある。まだ死んではならないという意味だが、すぐに死んでしまう赤ん坊が多かったのだろう。それでなければそんな歌詞を歌わない。またその「今は駄目」には、戦争で呆気なく死んではならないという母親の思いがある。そのことが本作をわざわざ40年6月28日という新聞記事の日づけを映し出すところに表現されている。先に書いたように、二度映る新聞記事がなければ、本作は戦争とは無関係の平和なバスクの村のちょっとした事件で終わるし、またそれはそれで作品として充分成り立つ。戦争があろうとなかろうと、バスクの村の生活はほとんど変わらなかったであろうことは、本作からよくわかる。だが、休戦協定を結んでもナチに支配されていた状態と言ってよく、生まれ立ての命の価値に対する思いはまた格別であった。長じて彼が兵士に徴られるかもしれないが、それはそれであって、とにかく幼ない命は保たれなければならない。それはどの国にしても基礎中の基礎だ。ところで、本作ではキューバのハバナで撮ったカフェの写真が映し出される。バスクとキューバにどういうつながりがあるのか知らないが、今調べるとキューバのチェ・ゲバラはバスク系アルゼンチン人の血が流れているので、バスク人はキューバやアルゼンチンに出稼ぎに行ったり、移民になったりしたのだろう。それは容易に想像出来る。それほどに貧しい地方ということだ。だが、金を儲けてバスクに戻った人もいたはずで、本作で写るハバナでの写真はそういう人のものだろう。それに、男女4人の子どもが乗って遊ぶ豪華な車のナンバー・プレートに、「HAVANA」の文字がある。このように、読み取りを強いる作品だが、歴史を詳しく知らなくてもおおよそはわかる。豊かな自然の中で子どもが生まれる様子は自然そのもので、バスクは危機があっても今後も細々と存在はつながって行く。エリセ監督はその思いを臍の緒に象徴的に込めたが、子どものいない夫婦には辛い映画かもしれない。子どもを育てる時間と金を全部自分の好きなことに使う人生を楽しいと思う自由は人間にあるが、そういう人ばかりではライフラインは途絶える。
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