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●『The Mothers 1970』その3
行はあたりまえで、真っすぐに進むほうが不自然だ。自然の河川はみな蛇行している。わが家の裏庭の向こうの田畑の用水路も昔はそうであったが、昔一部が直線的に改修された。地図で見るとその箇所はよくわかる。



●『The Mothers 1970』その3_d0053294_02040485.jpg
直線化するには田畑を分断する必要があって、京都市の改修計画に賛同した地主は、直線化された用水路上に架けられた小橋をわたって向こう側の農地に行く必要が生じた。反対した地主は土地が分断されず、畑地全体を宅地として売るようになったが、賛成した地主は今頃になって小川向こうの土地の利用価値が減って困っている。親切な人が馬鹿を見る典型的な話だが、それはさておき、紆余曲折のあるのが味わい深い人生だ。ただし、その曲がりくねった一筋縄では行かないことを楽しむ余裕が必要だ。それには障害も糧にすべきだが、予期せぬ自然災害に見舞われ、人生の蛇行のほどがひど過ぎると、高齢であれば立ち直れないかもしれず、筆者のこれまでの人生は割合一直線に近かったのだろう。だが、自分のことはなかなか見えず、他人から聞くしかない。ザッパはさまざまな音楽を咀嚼して行く過程で作品が自ずと多彩になったが、多彩性は蛇行であって、その曲がり具合が大きいのでザッパは変わっていると思われる。ザッパの音楽が特に変わっているのは、ひとつにはオーケストラ向きに楽譜を書くことが出来た点にあると思うが、音楽の分野が違えばその才能はさほど驚くものではない。ただし、よく知られる曲を管弦楽用に編曲するのではなく、ザッパの管弦楽曲への思いはクラシック音楽の歴史上に連なる作品であった。70年代初頭はロックとオーケストラの共演が流行したが、ザッパはそれを冷めて見つめながら、ロックがクラシック音楽の管弦楽曲と肩を並べるなどおこがましいといった発言をした。その謙虚さからザッパの音楽を見つめると、ザッパが一種の悩みのようなものを抱えていたことが想像出来る。それは、レコードを売り、コンサートで多くの客を集めることで次の活動資金と生活費を得るという人気商売に殉じていることゆえの不可避性だが、より有名になって金を稼ぐには、わかりやすい音楽を提供すればいいという本音を抱きがちになるし、実際俗っぽさが多いほどに多くの人に喜ばれる。それはひとまず置いても、現代音楽から民族音楽、ジャズ、R&Bなど、それぞれの語法を習得してそれらをどのように混ぜれば、自分が納得し、また売れる音楽を作り得るかは、賭けの度合いが大きい。ザッパの音楽家としての人生の蛇行具合が最も見物になっているのは1970年としていいが、80年代に入ると蛇行は緩んで直線に近づき、耳新しい要素は70年までに芽生えていたと言ってよい。どのような芸術家も30歳頃には頂点を迎え、その後は技術も思想も熟すだけと言ってよい。これはもちろんどの時期にもそれなりの味わいがあって優劣云々の問題ではない。
●『The Mothers 1970』その3_d0053294_02043322.jpg 本作に直接関係のないことを蛇行的に書いた。それは1970年がザッパにとってどういう意味があったかを改めて考えたいからで、またそれを意図して本作の題名もつけられたと思う。フロ・アンド・エディがズビン・メータ指揮ロス・フィルとマザーズとの共演を客席から見たのは5月上旬で、本作はそれから1、2か月、そして3,4か月後の演奏を収め、いかに新生マザーズが短期間に多彩に成熟したかわかるが、ディスク1はフロ・アンド・エディの存在は希薄で、70年のザッパがこれまでのアルバムからわかる以上に蛇行していたことが明らかになった。これを取り留めない、途方もないと形容すればいいが、普通の人はごく簡単に「変わっている」で済ます。そうすればそれ以上考える必要がなくて楽だが、「普通」がつまらない人はいつの時代にも一定の割合はいる。そのことをザッパは知っていた。それは自信、確信があったからで、それゆえザッパの音楽は明るく、強いものになっている。その自信をどうして得たかだが、誰よりも貪欲にさまざま音楽を咀嚼し、つまり努力という蛇行をしたからだ。だが、こういう話はあまり歓迎されない。いつの時代でも、やる人は誰に言われずともする。そうでなければものにならない。そう考える筆者はザッパの音楽を多くの人に知ってもらいたいとは思わず、ザッパの音楽を気にいる人、必要な人は自然と出会うと思っている。今夜はなかなか本題に入れないが、以上書いたことは案外本題以上に重要で、ザッパを大局的に捉えている。だが、筆者の筆の拙さから、なかなか思いをわかりやすく綴ることが出来ない。話題を変える。ザッパはまさか53で死ぬとは思っていなかったであろう。もう20年余命があれば、もっと豪華で奇抜な音楽を大成させたはずで、そう考えるとザッパは挫折したと言ってよい。ただし、誰しも病には勝てない。それでその時々で全力を投入するしかなく、ザッパはその言葉がふさわしい音楽家として1970年を過ごした。本作はそのひとつの断片で、他のアルバムとの比較でザッパの全体としての蛇行具合がより鮮明に見える。もうひとつ言いたいのは、ザッパは自分の内面に沈潜することのみで曲を作ったのではないことだ。対バンの演奏に関心を持ち、ラジオでヒットする曲を知り、またメンバーの個性を最大限に引き出すにはどういう曲がいいかなど、外的な要素に反応しての作曲であった。それは時流を読むことで、その意味で20世紀後半の音楽以外にあり得ないが、曲そのものの価値以外に、蛇行具合のその方法が普遍性を持つという見方が大事だ。その多様性の中には風刺好みもあって、音楽とはあまり関係のない雑多なことが混じる。そのことがザッパの音楽をより「変わった」ものにしているが、本質は昨日書いた「真面目」だ。不真面目な筆者は本作の説明をせずにもう2段落も費やし、蛇行どころか、停滞して先に進めない。
●『The Mothers 1970』その3_d0053294_02052184.jpg 本題に入るが、今夜もディスク1について書く。11曲目「ジラフ」は8分の長さの器楽曲で、テイク4と表記される。この曲は発表されたことがなく、蔵入り状態にあったが、2曲目「ローラ・ステポンスキー」と同じ曲で、そのベーシック・トラックと言ってよい。「ジラフ」の題名は素面(しらふ)でなければ演奏不可能であるからか、ともかくヴォーカルはなく、また倍以上の長さがあるせいか、2曲目とは違って他の曲に転用される特徴的なメロディがギターで繰り返し演奏される。そのひとつは『ワカ・ジャワカ』の「ワン・ショット・ディール」で、どのメロディかは聴き比べるとわかる。こうした断片的メロディの共有性がザッパの音楽の面白さでもある。それはかなり聴き込まねばわからないが、聴き込もうとさせる気になる魅力すなわち蛇行性がザッパの音楽にはある。そう言えばザッパは「ベイビー・スネイクス」を歌った。音楽は音の揺らぎ、つまり蛇行が本質で、ザッパが「音楽がベスト」と言ったことは「蛇行がなにより」と解してもよい。で、筆者の今日の蛇行具合は本題から途方もなく外れっ放しだが、ディスク1の残りの曲に1分ほどの会話曲「イノーマス・カデンツァ」(途方もないカデンツァ)がある。これは「エンヴェロウプス」の演奏前の会話とピアノのイントロの練習で、「途方もないカデンツァ」とは「エンヴェロウプス」の途方もないメロディを指す。ピアノはジョージ・デュークで、オルガンはイアンだろう。「ジラフ」とこの曲は似ていて、楽譜どおりの演奏は、どちらの曲にもある割合長いドラム・ソロもそうであるはずで、またザッパの指示どおりにドラムスを奏でるエインズリーの演奏は、後のテリー・ボジオの「ブラック・ページ#1」を思わせる。さて、ディスク1の最も聴きやすい曲は「シャリーナ」で、本作のヴァージョンは『チャンガの復讐』と同じ録音だが、ミキシングがかなり違って別の曲に聴こえる。『チャンガ』ヴァージョンがより秋風を感じさせ、歌詞に見合っている。73年にシュガーケイン・ハリスに歌わせた『ロスト・エピソード』ヴァージョンは黒人っぽさが強調され、それは後年アイク・ウリスが歌うヴァージョンに継がれる。そのからりとした明るさもこの曲の魅力で、ザッパは同じ曲をどのようにも料理出来た。それは演奏メンバーが違えば自ずとそうなるものでもあって、今日はレザニモヲのさあやさんとそんなことを話した。ある曲が演奏者によって雰囲気が変わることは当然とはいえ、それを許容する自在性が曲にあることであって、ザッパは自作の編曲を絶えず行なった。それでフロ・アンド・エディ在籍時のマザーズは旧曲新曲含めてレパートリーが途方もなく広く、みんな30ほどの年齢であったので無理が効いた。無理強いするザッパにメンバーはよく着いて行ったと思う。筆者のこのブログのように気楽気儘にやると面白いものにならないか。
●『The Mothers 1970』その3_d0053294_02055288.jpg

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by uuuzen | 2020-07-12 23:59 | ●ザッパ新譜紹介など
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