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●『10ミニッツ・オールダー GREEN』の「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」
者として人生を歩むしかないと思い詰めるのは、自分に合っていない仕事に従事していることを強く意識する場合だろう。やりたいことがあればそれを仕事にするのが一番と筆者は思うが、そのやりたいことがわからない人のほうが多いはずだ。



あまりしんどくなくて収入が多いと思えるのであれば、どんな仕事でもいいと考えるのが普通の人で、世の中はそのような大勢の人で動いている。つまり、いくらでも代わりの人がいる仕事だ。それがますますロボット化する傾向にあって、将来は誰もが創造性を発揮する仕事に従事することになるかと言えば、何かを工夫して個性を表出する仕事をしたい人ばかりになるはずはなく、ロボットより能力が劣る人は何をして収入を得ることになるだろうか。そういう人は早々と人生を諦めて敗者を自認し、生活保護にかかって生きて行けばよいかとなれば、そのようなお金が国にあるはずがないから、ロボットが出来ない仕事を人間は残しておく必要がある。つまり、どんなことでもロボットにさせればよいと考えずに、ロボットが出来そうなことをあえて人間にさせる社会であるべきだ。現在の日本はそういう仕事をいわば外国人労働者に求めているが、新コロ禍によってその労働力が補給不能となり、大いに困っている業種がある。昨夜TVで可児市在住の日系ブラジル人のコミュニティのドキュメンタリーを見た。彼らは幼ない頃に来日したり、日本で生まれたりして、ブラジルの言葉が話せない。それで日本で生きて行くしかなく、偏見に晒されながら、日本人がやりたがらない仕事に従事している。それはかつての在日朝鮮、韓国人、また「ジャパユキさん」と呼ばれたフィリピンの若い女性や80年代にたくさんやって来た出稼ぎのイラン人、その後のネパール人などと同じで、日本は安価な労働力を求めて、危険で汚い、きつい仕事を外国の貧しい国の人々にやらせて来た。今後もそうだろうが、ロボット化が進むとまた事情は変わって来るだろう。貧しい国の人たちがより裕福な国に出稼ぎに行くことは世界中で見られ、在日朝鮮、韓国人の問題と同じように、植民地を持っていた国では肌の色の違う人々はあたりまえのようにどの街にもいる。アメリカは黒人奴隷が解放されて白人と同じ市民となったが、60年代初頭の差別のひどさはわずかに改善されたかに見えて、差別意識は在日朝鮮、韓国人に対する蔑視からもわかるように、親から子へといわば遺伝的に伝えられ、先だっても白人警官が黒人を不当に取り調べてして死なせてしまい、今もなお黒人差別反対のデモが収まらない。差別される側は、差別する者からすれば敗者に見えるのだろう。その思いの底には経済的貧困は醜いという観念がある。トランプ大統領のような成金は特にそう感じていると思うが、そういう観念を抱くことこそ醜いと、貧しい者が言い返したところで、敗者の弁としての言い訳にしか受け取られない。
●『10ミニッツ・オールダー GREEN』の「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」_d0053294_01225787.jpg
 今日取り上げる短編の原題は「Vers Nansy」(ナンシーに向かって)で、これがとても面白い。邦題では「ナンシー」は列車の中で若い女性が対峙する哲学者ナンシーとしているが、もうひとつの意味は、その列車がフランスのナンシー市に向けて走っていることで、もうすぐ到着というところで映画は終わる。「ナンシー」に二重の意味を持たせる言葉遊びによって、異邦者の侵入というシリアスな内容をわずかでも和らげ、また映画を側面から印象的なものにしている。哲学者を選び、わざわざ列車の中で撮影するこだわりは、台詞によって意味したいこととは別に、映像でしか表現出来ないことを噛み合わせるためだ。監督はクレール・ドニという筆者が初めて知る女性で、筆者より5歳年長だ。日本では1948年生まれとしているが、外国の資料では1946年生まれだ。近影と思うが、お婆さんと呼べる年齢にしてはかなりの美女で、透明感があり、しかもとても知的な顔をしていて、筆者は一瞬で魅せられ、女の魅力の広大さを再確認したと言いたい。このように美しく年齢を重ねた女性は初めて見るが、女優ではこうは行かず、一種独特の堂々としたいやらしい風格がある。それは好きな仕事をしていても、監督ほどには創造的でないからだろう。とはいえ、クレールもたまに他の監督の作品に俳優として出る。彼女はパリ生まれで、すぐに西アフリカのフランス領に移住し、14歳で家族はパリ郊外に戻って来る。その後彼女は経済学を学ぶが、これが意に染まず、夫の勧めもあって、幼ない頃から親しんでいた映画を学んだ。それが何歳のことかわからないが、たぶん30代頃か。このやりたいことの方向転換が大いに吉と出た。夫がどういう人物かわからないが、私的なことはウィキペディアにもほとんど書かれない。ヴェンダースやジャームッシュに学び、現在はスイスで映像の学校の教授になりながら映画を撮っている。ヴェンダースの『パリ、テキサス』では手助けをしたというが、気になるのはヴェンダースが彼女の1994年の『パリ、18区、夜。』を大絶賛していることだ。また『パリ、テキサス』の「パリ」はクレールから着想を得たのではないかとも思わせる。彼女の日本で入手出来る作品は少なく、『パリ、18区、夜。』は日本盤DVDがない。またどの作もさほど人気がよくないようだ。ハリウッド向きでないことは彼女も充分承知していて、批評家からの賛辞があれば満足なのだろう。ヴェンダースの惚れ込みぶりは、彼女の知性と美貌に魅せられたことが半ば以上混じってのこととではないか。初監督作品は42歳で撮った『ショコラ』で、同じ題名のハリウッド映画があるが、クレールの作は半ば自伝的な内容で、アフリカの黒人との関わりを描く。彼女の作はスリラーやロマンス、SFとジャンルはさまざまだが、どれも人種問題を扱っているようで、その点は本作にも言える。
●『10ミニッツ・オールダー GREEN』の「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」_d0053294_01231491.jpg
 本作に登場する女性は東欧出身だろう。列車は東欧からフランス北東のナンシーに向けて走っていて、彼女に向い合って座る哲学者ナンシーはフランスでは有名な人物だ。そういう学者を起用するところにクレールのこだわりがあり、フランスの知性の代表にフランスに移住する外国人についての考えを語らせる。それは大方の日本人が思っていることと同じで、ほとんど珍しい話題はないが、ひとつとても興味深かったことは、移民は侵入者であって、「侵入」のフランス語は「脅威」のそれと同じ言葉が元になっているという発言だ。前述した可児市の日系ブラジル人は、男女とも大きな体躯に派手な刺青をし、車に積んだウーファーを鳴らしながら日本語で自分たちのアイデンティティを主張するラップを歌っていた。その示威的な行為はごく普通の人たちには脅威に見えるが、彼らは偏見や差別に打ち勝つためにあえてそういう態度を取る。彼らが歌うように、法律を犯すことをしない限りはどのように稼いでもよく、また彼ら向きの仕事が日本にはある。フランスにやって来る東欧の若い女性、あるいはアフリカの黒人も可児市の日系ブラジル人と同じような存在だ。ナンシーはそういった移住者について、フランス人は100年前よりかは尊大ではなくなったが、それでもフランスや自分は尊大であると認め、外国人移住者に対してどのように接すべきかを語る。彼によれば、生粋のフランス人と見分けがつかなくなってしまうことはお互いにとってよくないことで、フランスに埋没し切らずに独自性を発揮すべきと言うが、「脅威」と見られている者がそれを撥ね返して独自の文化を持ち、そのことで移住先に多様性をもたらすことは短期間では無理だ。日本ではフランスに劣らず多くの国から労働者が来ているが、彼らが日本に根付いて全員が幸福感を味わうようになって初めて、共生という言葉があたりまえに使える。本作では列車のコンパートメントの外にひとりの黒人が立っていて、窓の外を見ながら彼女とナンシーの話を聞いている。映画の最後にその男はふたりの前に姿を見せ、自分の座席に着いてナンシーと言葉を交わす。その直前にナンシーは、自分が哲学者になったのは、たまたまのきっかけがあってのことで、人生で一番重要なことは、そのように予想しない出来事が契機であると女性に話す。その言葉どおりに黒人がふたりの間に「侵入」するのだが、ナンシーに着くまでの間に、本作では描かれないが、話が弾み、黒人にもナンシーにもその出会いは新たな人生を切り開く可能性があるかもしれない。外国人は「脅威」かもしれないが、彼らとの出会いが人生最大の幸運となる可能性はある。クレールが映画監督になったのは、アフリカで暮らしたからだ。彼女の他の映画をいずれ見るつもりでいる。彼女の面影が忘れられなくなりそうな気がしているが、人生の敗者であってもきれいに老けたいとつくづく思う。
●『10ミニッツ・オールダー GREEN』の「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」_d0053294_01233786.jpg

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by uuuzen | 2020-06-29 23:59 | ●その他の映画など
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