誘惑されるのは誘惑する存在が殺気立つ魅力を発散しているからだが、その魅力は一時期のことか、長年保てるか。年中発情している人間だが、発情しなくなれば、殺気魅力は「さっき」のものとなる。
ただし、男に選ばれない女はあるし、女に選ばれない男もいて、そのことだけ見れば男女平等だが、決して誰もが平等ではない。竹久夢二の本に、「ある売られた女のはなし」があって、そこにこう書かれる。「金のために、あたしたちが身売をするんだとお考へになるのは、いかにも年老つたお嬢さんさんや、貴婦人方のお考へになりそうなことだわね。……あたしたち貧しい娘だつて、好い着物を着て、面白い芝居の一つも見たいわよ。たまにはおいしいものも食べたいわ。だけど、お金持ちにならうなんて思つたことは、一度だつてないわよ。」夢二はこのことを何度か本に書いていて、貧しい女が上昇志向のないことを不思議がっていたように感じ取れる。もっと言えば、夢二には有名になって金持ちになりたいという二つの夢があってそれを実現させた。以前書いたように、それを可能にしたのは絵のモデルであった女「お葉」を専属にしたからだが、お葉は今なら有名AV女優になっていたであろう。夢二と暮らしながら、家出して若い男といい仲になり、またふたりで夢二の屋敷に転がり込み、男との間柄を夢二に悟られないようにするという性に奔放なところがあったが、結局夢二は早死にし、お葉は金持ちの医者の妻に収まって80代まで生きた。生命力の点で男が女に比べてあまりに劣る例を筆者は夢二に見るが、お葉はとびきりの美女であったので、先に引いた夢二の本に出て来る売春婦にはならなかった。これは百年後の今も同じで、お葉並みの美女であれば、田舎の貧しい出であっても女優になれるが、美貌がなければ、そして時にはいい服を着ていいものを食べたいのであれば、売春婦になる。あるいは彼女らの中には、金持ちになってやろうと考える者もいるだろう。有名AV女優にでもなればそれは可能かもしれないが、そんな話があれば夢二の時代にもあったろう。女の美しい期間は短い。ただし、一気に美貌が劣化するのではなく、少しずつであるから本人はまだ大丈夫、まだ大丈夫と自分を騙しながら、まともな男には選ばれない年齢になってしまう。それでもかまわない。ひとりでも受け入れてくれる男がいればいいからだ。最近見たTVのドキュメンタリーでは、二部屋の家で60歳の女性が30歳の男性と同棲していた。女性は独身のまま60歳になり、若さを保つためにダンスを学び、そしてどこでどう出会ったのか、男と暮らすようになった。先のことをお互い考えず、今がよければいいのだろうが、そういう生き方もある。来年別れることがあっても、逞しい肉食系の彼女ならば今度は20代の男を見つけるだろう。ただし、食べさせてやる必要はあるかもしれない。
一昨日家内と嵯峨のスーパーを4軒回った時、60代半ばだろうか、とても目立つ女性と擦れ違った。家内もそう感じたらしく、女優でもしていたのかなと言い合った。顔はそれなりに美しいが、それよりもとても堂々としていて、普段着ながら水色のTシャツと白のスラックスは品がよかった。家内は高価な化粧品を使っているからと言ったが、なるほど見所が違う。大会社の社長夫人というよりも、高級クラブのママといった雰囲気で、まだ明るい時間帯に街中で見かけることが珍しいタイプだ。そう言えば、今日読み進んだハイネの『アッタ・トロル』に、「純な生娘が 下等な石鹸しか使えないのに 汚れた淫婦は、 薔薇油で体を洗っているものだ。」というのがあった。また「悪魔か天使か それは分からぬ。 女というものは、どこまでが天使で どこまでが悪魔なのか はっきり分からないものなのだ。」という下りは笑ってしまったが、二百年で女が変わるはずがない。あるいは今は「生娘」は10代でも少数派かもしれず、毎日性がらみの嫌な事件が絶えず、気味が悪い。話を戻す。前述の女性は人からどのように見られるかを強く意識して生きて来た感じがあった。それで女優か男性客相手の商売かと思ったが、人の目を意識する雰囲気作りは侮られないことを留意しているからだ。それには自信を持つ必要があり、それなりに金がかかる。石鹸ではなく薔薇油を使えば自信も出るが、それが許される大金持ちの生娘は百人にひとりもおらず、ほとんどの女性は若さと朗らかさで少しでもよい男を見つけようとする。花が最も美しい時に多くの虫が飛来するのと同じく、生娘に若い男たちが接近するのは美しい光景で、花が受粉して結実するように、若い男女が結婚して子どもが生まれるのはごくあたりまえのことだ。ところがその自然なことがそうではない場合があることを誰しも知っている。先に書いた60歳の女性と30歳の男性の同棲がそうだ。それは世間では不自然に見えるが、世の中にはままそういう珍しいことがある。だが、それが珍しいことでなくなれば本当の意味で男女平等になるのではないか。人生二度結婚説を唱えた人が日本にいた。その説は、若い女性は老いた男性と結婚し、夫の没後に今度は若い男と結婚するというもので、パパ活や売春をする若い女性はそのことを体現していると言えるかもしれない。となればハイネが女は天使か悪魔かわからないと言ったことも納得出来る。それでも二度結婚説では女はいつ子どもを産むかと言えば、当然若い頃で、子を産み育てた老いた女を若い男が欲するだろうか。よほどの妖艶な魅力があれば話は別で、それには薔薇油が欠かせない。その金を先の夫が遺せるかだ。今日の写真は5月21日の撮影。
瞬く間にサツキは散って殺気立つ魅力が失せた。それが自然で、花は草が化けたものだ。女が化けられるのは何歳までか。男もいろいろで、そう落胆することはない。
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