「
翻訳ではなくて勝手訳ね」「そうですな、アリアドネ様。下界の人間はわれら神と同じ形に造られてはいますが、しょせん彼らとわれらは違います。彼らのグロテスクさと来たら……」

「爺、それは違うかもよ、同じ形に創造されたとすれば精神もきっとそうよ」「ということは、われわれもグロですか?」「そういう面もあるわよ。ただし人間はあまりに勝手よね」「それで勝手訳をしたわけです」「全盲明日のこと?」「そうです。われら神は明日のことはある程度わかりますが、下界の人間は全くの全盲ですからな」「それで不安に慄いてたとえば金をどこまでもほしがるとか?」「ま、それもありますな」「でも人間の中でも神に近い心を持った者がいるでしょう? なぜそういう人たちが世の中をもう少し気持ちよく住めるようにしないのかな」「全くそのとおりですが、人間は小さな存在で、寿命もあまりに短いですから、自分や周囲の人のことは愛せても、遠くにいる赤の他人にまで関心はないのですよ。そこが神とは全く違います。それでごくたまにそのことに覚醒して神に近づこうとする人が出て来ますが、必ず非業の死を遂げます。またそうして死なせておいて、後で祀り上げ、その陰で今までと同じように自分勝手に振る舞うのですから、人間はどうしようもなく醜いです」「明日のことに全盲であっても、予想を立てて予め対処出来るわね」「ところがそうでもない人間がいるのですよ。それどころか大災難に泥棒を働く者が必ずいます」「人としてアルマジキ?」「いや、勝手訳をしましてな。人としてアルマジロで、人としてあるべき者はカジキマグロと呼びます」「はははは、アルマジロ対カジキマクロね。でも陸と海とでは両者は出会わないわね」「そこなんですよ。アルマジロは好き勝手し放題で、海に棲むカジキマグロも困っているようです」「プスリと突いてやればいいのに」「アルマジロは鎧をまとっておりますからな。手ごわいですたい」「それに海からどうして陸に攻撃出来るか」「ま、そこは勢いをつけて飛び上がればいいですが、一発勝負ですからな。うまくアルマジロの背中にカジキマグロが自分の銛を突き刺せればいいですが、刺しても共倒れですな」「アルマジロが許せないカジキマグロがいるとは思わないけど、いてもそこまでするかな」「そうですな。神にはどうでもいいことです。人間は闇の中を手探りで進んで行く『全盲明日』の運命で、常に『THEM OR US』つまり、アルマジロとカジキマグロのように対立しているのです。それで今日もトラブルをあちこちで起こしていますが、われらとしては高みの見物しか仕方ありません」「テセウス爺の口癖で言えば、確かによね」「確かに」「で、〇〇ちゃんと赤い糸電話でもう話したの?」「いや、テレパシーがありましてな。無事なようですたい。マスクはしているようですが」「今はマスクをしていないことが人としてアルマジロのようね」
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