「零落したような顔をして、爺らしくないわね」「アリアドネ様、まずこれを……」「？」「ハイ、手作りの糸電話です。赤い糸を使いました。長さは２メートルあります」



「これで話そうって言うのね」「ハイ、新型コロナウィルスが蔓延しております」「わたしたち神は関係ないのでは？」「いいえ、未知のウィルスだそうですからな。念のために」「ま、いいわ、面白そうだし」「用意出来ましたか？」「いいわよ」「もしもし」「よく聞こえるわね」「そうでしょう。まるで耳のそばで話しているようで何だか肉感的ですな。そのうえ、ウィルスに感染する心配はありませんしな」「なるほど。カップルもこれがあればデート出来るわね」「不要不急なことはやめろと言われても、どうしても会いたい場合はありますからな」「それはそうね。それでも爺、わたしたちはカップルではないわよ。それに今少し近寄ったでしょ。糸を緩めたら聞こえないじゃん！　感心しないわね！」「感染しないように感心しないことはやめておく意味で糸電話を作って来たんですが、アリアドネ様にお会いするとつい気が緩みますな」「ちょっとは気分が明るくなったようね」「ハイ、最近落ち込んでおりますからな」「どうして？」「ウィルスのせいです」「心配なの？」「ハイ、そうではありますが、〇〇様が感染してはいないかと……」「音沙汰がない？」「まあそうですが、便りのないことはよい便りと言いますからな。そのように思うことにしておりますが、それでもこの時期ですから、もしやと思いましてな」「テセウス爺は心配性ね」「それくらいのほうがいいのですよ」「それは当然よ、でもねえ、もしもし、聞いているの？」「あ、ハイ、アリアドネ様は声が大きいですな」「ぼんやりしないでよ、せっかく糸電話で話しているのに、物思いに沈めば楽しくないでしょう？」「毎朝、すべてが変わり、すべてが始まりますが、今の時期のように、世の中が瞬く間に暗いほうに激変することがありますな」「そうよね、いいことばかりではないけど、ひどい時期は明るい時期に備えて、嵐が過ぎ去るのをじっと待つしかないのよ。それに何かを工夫すればそれなりに楽しく過ごせるわ」「確かに、そう思っての糸電話の意図でんな」「はははは、さすが」「アリアドネ様、糸が弛みましたよ」「あ、ごめーん、ピーンと張らなければ聞こえないわね」「そう、精神も張り詰めていれば真実がよく聞こえます」「爺らしい教訓ね、でも精神的に緊張するばかりでは疲れて逆に真実が見えなくなるわ」「もちろん、それで糸電話で遊ぼうと思ったのですよ」「これで〇〇ちゃんとも話したいのでしょ？」「わかりますか？」「先にわたしで試したかったのね、ま、いいわ。爺のしょげた顔は見ていられないからね」「ハイ、確かに……」「また、緩んだ、聞こえないわよ、爺が元気であればわたしも楽しいし、こうして雑談も出来るからね。」

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