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●『MEAT LIGHT』その3
喚が世界中から聞こえて来るかと言えば、日本では花見シーズンで、「疫病流行年はどこ吹く風だ。犬の息も少々酒臭いかもしれない。昨日まで元気だった人がコロリとあの世へ行くことは珍しくなく、危機が間近に迫っていても喜々とするのは、それはそれで人間らしい。



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何度も書くように、死ぬのはいつも他人だ。誰しも死ぬ間際にあっても生きているのであって、死は自覚出来ない。新コロで死ぬ人は病院で密かに処理されるから、新コロが恐ろしいと喧伝されてもそう思えないのはあたりまえだ。それに新コロで死ぬ人がTVに映っても、それは映像であるから、別世界のことに思える。そこで想像力がある人は自衛を早々と決め、危険なところには近寄らないが、ビヴァリー・ヒルズ近くの山手に住んだザッパは、新コロ騒動があればきっと自宅にこもり切って録音やその編集作業に没頭したであろう。もっとも、疫病流行の心配がなくても市中をほっつき歩くよりかはスタジオに中にいることを好んだはずだ。とはいえ、どれほど注意しても感染しない可能性はない。世間に影響を与えるインフルエンサーが病名に由来する言葉であることは、その人物が愚かであることを前提にしていて、またそのことに真実があると筆者が思うのは、たぶんにザッパの影響を受けているからかもしれない。あるいはもともとザッパに似た気質であったので、ザッパの音楽に出会って今なお聴き続けているのだろう。そして聴き続けるのは未発表の音源が発売され続けているからで、またそれを聴くたびにザッパ像がより鮮明になる楽しみがある。さて、4年前に発売されながらブログに感想を書かなかった『ミート・ライト』だが、新コロという疫病真っ盛りの中、改めて聴いて感想を書く気になった。ザッパが本作を録音した1968年、どこかで疫病が流行していたのかと気になって調べると、「香港風邪」が流行り、カリフォルニア州ではヴェトナム戦争帰還兵に感染が認められたとあるから、ザッパはそれを知って警戒したかもしれない。『アンクル・ミート』の最初の編集ではアルバムの最初に「疫病流行年の犬の息」が収録されたが、新曲の「犬の息」(DOG BREATH)が最初ではアルバムの題名『アンクル…』にそぐわないと思ったのか、同名の曲が最初に置かれた。これら2曲は『アンクル…』を代表する新曲で、雰囲気が似ていることもあってその後「ドッグ/ミート」と題されてメドレーで演奏されることが多かった。それをもじったかのような本作の『ミート・ライト』という題名だが、「ライト」が何に由来するかはわからない。かなり後年の「ブルー・ライト」とは関係がないはずで、またザッパが語った言葉なのかどうか不明だが、ビーフハートという名前を案出したザッパなら、「肉光」をイメージしておかしくない。その一方でビーフハートの『シャイニー・ビースト』を連想させもする。
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 最初のアルバム編集で「疫病流行年の犬の息」を冒頭に置いたのは、自信作であったからだ。この曲にザッパは40トラックを要した。これは一方で大管弦楽団用に作曲していたことの反映だ。では40人の演奏者を起用して一斉演奏させる経済的負担を軽減するための代用録音であったかと言えば、その面もあろうが、録音をいかようにも加工出来る「作為」に面白さを求めたからでもある。それは67年のアルバム『金目当て』で大いに採用した手法で、『アンクル…』では別の印象を付与する必要があった。それが「犬の息」に副題としての形容詞「疫病流行年の」で、その言葉につながる「weired」(変な)味わいを音で演出しようとした。そのことも実際は人の声の録音速度を上げてコミカルさを表現した『金目当て』にあったことだが、『アンクル…』はジャケットのイラストも相まって「weired」をより意識したものとなった。本作のディスク3後半部の「From The Vault」つまりザッパのテープ収蔵庫からの発掘曲の最初に、2分弱の「A Bunch of Stuff」(素材の山)という曲がある。ザッパはこれを『アンクル…』の最初に置くことを考えたであろう。それは「疫病流行年の犬の息」の序としてきわめてふさわしい。この曲はザッパの語りをテープ速度を落として低音にしたもので、フランケンシュタインなどのモンスターを彷彿とさせ、同じ手法は73年の「ダーティ・ラヴ」にも使われる。語りの内容は映画『アンクル…』についてのもので、その素材が山ほどあり、またマザーズ・オブ・インヴェンションの実像が不明などとも言い、ザッパ自身どのような映画を作るのかアイデアがまだ煮詰まっていなかったことを想像させる。テープの回転速度を変えることで奇妙さ、不気味さ、滑稽さを表現することは、他愛のない考えや行為と言えるが、「疫病流行年の犬の息」では40トラックのうちのいくつかのトラックをヴォーカルに充てつつ、それらの声を高く変調させて演奏にぴたりと合わせていることに、またアナログ時代であったことを思えば、その多大の手間と時間に感心するほかない。つまり、『アンクル…』にはザッパの多大な労力の誇示があるが、これは物作りをする人の良心でもあって、アイドル性とは真逆のヴェクトルを持つ。「疫病流行年の犬の息」は40人の一斉演奏では無理な演奏で、そこには経済性をかなえられないことを逆手に取る姿勢がある。この「操作」は完璧を意図するゆえで、その後もザッパの大きな特徴となるが、その完璧は音楽的な調和を目指すもので後年のシンクラヴィア曲への序とも言える。また音を重ね、一部を切り取るなどの作業は遺伝子操作にどこかつながる姿勢にも見え、子ども時代のザッパがマッド・サイエンティストに憧れたことを納得させる。
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 デジタル時代になってパソコンで40トラックの曲を録音することはたやすくなったが、ザッパの脳裏に鳴りわたっていたのは混沌ではなく、即興を含まない再現可能な楽曲だ。それは「ドッグ/ミート」を後年アンサンブル・モデルンが演奏したことからもわかる。混沌として「weired」なような『アンクル…』だが、そこには脳裏にある曲想を楽譜にするという整然へと向かう意識がある。ただし、曲想は主題がまず浮かび、次にそれをどう味つけするか、また変奏をどうするかというさらなる過程があるから、時として主題が接続され、また変奏がたとえばメンバーの能力に応じていくらでも変容したから、アルバムには完成度の高い曲とまだそうとは言えない曲が混じった。『アンクル…』にはそういう面が強いが、驚くべきことは「グリーン・ジーンズ氏」や「クルージング・フォー・バーガーズ」のようにさほど目立たない曲が後年別アレンジで見違える力を持つ場合が多々あった。とはいえ、特筆すべきは「ドッグ・ブレス」と「アンクル・ミート」だ。LPの第4面全体を占める「キング・コング」は大作だが、それは『ランピィ・グレイヴィ』で初めて録音された古い、つまり手慣れた曲で、またそれが『アンクル…』では全く見違えるアレンジとなったところにザッパの音楽の大きな魅力がある。これは他者に開かれているとの意味で、優れた演奏家が演奏すれば、それはザッパの演奏と同じ楽しみをもたらす。またその意味でザッパの曲はポピュラーよりもクラシック音楽寄りと言える。話を戻して、『アンクル…』は「アンクル」「ドッグ」「キング・コング」の三大曲のヴァリエーションに大きく彩られるが、次に目立つのはギター曲「工業汚染の9つの型」で、これは6分ほどの長さで、ブルースっぽいソロにさまざまな打楽器が絡む。打楽器はザッパが奏でたものと思うが、同工異曲の打楽器のみの短い曲はやがて『チャンガの復讐』に収録され、また『ホット・ラッツ・セッション』では「イット・マスト・ビ・ア・キャメル」に重ねられた打楽器ヴァージョンがあった。それに涌き上がるような多彩な打楽器音はアルバム『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』もあった。これらの打楽器はザッパにとって混沌を表現するためのものであったかどうかだが、主題となるメロディを彩るための効果音で、混沌をイメージしたにしてもそれは添えものだ。また話を戻して、「工業汚染…」は本作では『アンクル…』ヴァージョンより4分長く、打楽器のないギター・ソロだ。これは普通の速度で録音したもので、これを倍近く速めて『アンクル…』に使用したが、ザッパが素早く弾きこなせなかったと言うよりも、「疫病流行年…」における人間の声と同じように、速度を上げることで異様さが強調される効果を狙ったもので、それゆえに題名の「工業汚染」も導かれた。この「普通」ではない「weired」な題名と音楽は、ポピュラー音楽はこうであるといった固定観念を崩す考えによるもので、ラジオであたりまえに流れて来るような甘いラヴ・ソングの類しか聴かない人にはわからない。10代半ばまでの子どもが聴くようなそうした曲は今なおポピュラー音楽を支配しているが、それこそごく狭い中に閉ざされて同じことを繰り返している「変な」ことなのだが、常に若者は涌き出て来るのでそういう音楽が必要とされることは理解出来る。ところが曲を作る者は年々齢を重ね、それに応じた成熟した思考による作品が生まれることが自然であり、それは「weired」とは正反対だ。つまり、ザッパがまもとであって、ザッパが揶揄した10代向けの甘い音楽が「weired」なのだが、そのことに気づかない人が多いほどに世の中はいつも「weired」ということだ。発情期を過ぎれば多少なりとも自分の周囲の世界により広く関心を抱くことは人間の本性のはずだ。歌詞はないが、工業汚染を音で表現しようとしたザッパの曲は、さほどに28歳のザッパが常識人でまともな生活を送っていたことを示す。これが40歳近くになってもまだアイドルのような恋愛曲ばかり歌っているというのがあまりに「weired」なのだが、日本ではそういう歌い手を歓迎する大人の男も多く、その「weired」な現実にザッパ・ファンなら辟易するだろう。民主主義社会では多数を占める存在が真とされるが、結局人間の本性はグロテスクで、ザッパはそのことを見通しながら「weired」を装ってまともな真を表現した。
●『MEAT LIGHT』その3_d0053294_00572948.jpg 『アンクル…』が『ザ・イエロー・シャーク』に結びつくのは、言葉として環境汚染に因む曲「工業汚染…」があることと、音楽としては現代音楽的な響きを持つ「Project X」があることだ。この曲名をNHKがTV番組名として引用したとは思わないが、その副題の「挑戦者たち」は『アンクル…』にふさわしく、その代表曲が「Project X」だ。これは『アンクル…』では5分近いが、本作では2分半のヴァージョンと、2分弱の「Project X Minus」という曲がある。ざっと言えばこれら2曲をつないで『アンクル…』で1曲としたことは、奇妙さを高めている。ザッパにとってもややこしい部類の曲をつなぐことでさらにややこしくなっているからだが、この曲は『アンクル…』の現代音楽性を代表する一方、後年の「ブラック・ページ」につながり、『ザ・イエロー・シャーク』のいくつかの曲も想起させる。ザッパのいわば難解なイメージを代表するこの曲がもっとわかりやすい形になったのが「アンクル」や「ドッグ」で、またその2曲の変奏である「ゾラー・チャクル」や本作で紹介されたディスク3の「エクササイズ4のヴァリアント」だが、ともかくザッパは楽譜どおりに演奏出来る才能を求めていて、その欲求をイアン・アンダーウッドが最もかなえた。逆に言えば、こうしたな複雑な曲はイアンが加入したのでザッパが挑んだとも言える。またディスク3に「Sakuji‘s March」という40秒ほどのマリンバ曲とそれに続く「No.4」という2分弱のピアノ曲があるが、後者の冒頭はマリンバとピアノのユニゾンがあり、最後はマリンバのみの演奏となる。これら2曲は1曲としてもよく、マリンバはドラムスを担当していたアート・トリップが担当する。ピアノはコンロン・ナンカロウの自動ピアノを思わせ、どこか狂ったように素早い演奏はシンクラヴィア曲を思わせるロボット的な印象が強く、テープの回転速度を上げたものではないか。他に『アンクル…』に収録されなかった曲としてメンバーの日常を描く対話がある。これらは後のフロ・アンド・エディ時代にはもっと盛んに行なわれたが、面白い出来事をメンバーがスタジオで再現したもので、まともな生活をしている者は顔をしかめる内容だ。たとえば深夜遅くにスタジオで演奏していると、見回りの警察官がやって来て質問する。合法的な行為をしているので適当に話を聞くが、最後にザッパは警官をねぎらう意味もあってパンを与える。こうした経験は『200モーテルズ』の「ストリクトリー・ジェンティール」の歌詞で生かされた。『ザ・ホット・ラッツ・ブック』には、著者の青年が朝10時に起きるザッパに驚いたことが書かれる。彼の住む町ではそのような大人は不審がられたが、筆者も夜型で、深夜1時にこれを書きながらステレオでザッパを聴いていて、きっと近所からは「weired」な奴と思われている。
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by uuuzen | 2020-03-25 23:59 | ●ザッパ新譜紹介など
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