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●『THE HOT RATS SESSIONS』その8
離が一気に縮んでザッパを身近に感じることが出来る本作で、録音技術のある時代にザッパが活動出来たことはありがたい。筆者はここ2か月ほどはショパンを毎日のように聴いていた。



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それは演奏者を介してのショパン像であって、翻訳を通して読む本と同じようなところがある。ではその隔靴掻痒の思いが本作にないかと言えば、そうではない。69年7月のスタジオ・セッションのテープの箱がCD6枚を収納する見開きの厚紙の表紙に並べて印刷されるが、そのテープのすべての音が本作に収録されたのかどうかはわからない。なぜそう思うかと言えば、その見開き内部に当時録音された各曲の16トラックのデータ表が全体に散りばめられ、そのうちの見開き右側左端上は7月18日の「My Guitar Wants To Kill Your Mama」で、同曲は本作に含まれないからだ。当然16トラックすべてを使ったヴァージョンだけではなく、素朴な初期ヴァージョンがあって、それはシングル盤として当時発売された。またこの見開き内部にランダムに掲げられる録音データ表には、たとえば「Magic Madness」という未知の曲があり、また「Peaches En Regalia」は「En」が「And」になったり、省かれたりしていることもある。アルバムを発売するまでは題名も紆余曲折があったことがわかるが、そのすべてが本作で解明されることはなく、おそらく後の50周年記念アルバムなどで小出しにされるだろう。そこで『いたち野郎』は『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』の50周年記念盤が出るかと言えば、本作はそれらの後のアルバムに収録されることになる曲の基礎ヴァージョンが収められ、あまり期待出来ないように思う。それはさておき、本作には『バーント……』の重要曲の未編集ヴァージョンがある。ディスク3の9「アナザー・ワルツ」で、28分もある。これは『バーント…』B面の8曲目の5分13秒から始まるパートで、ヴァイオリンとピアノのソロが8分半続くが、ザッパは3分の1しか使用しなかった。ザッパの合図から始まる本作のヴァージョンは主題は奏でられないが明らかに「キング・コング」で、ザッパのギター・ソロを含み、また『バーント…』で聴くよりも圧巻で、スタジオのライヴがステージでのそれと大差なかったことがわかる。メンバーは元マザーズのロイ・エストラーダやジミー・カール・ブラック、それにドン・プレストンで、ザッパはそのメンバーでスタジオできっちり録音したかったのだろう。とはいえ、メインはシュガーケイン・ハリスのヴァイオリンで、それでザッパは自分のソロを削っても彼のソロを『バーント…』に活かした。とはいえ、ザッパは彼ソロの限界も見ていたであろう。彼特有の耳につく節回しがどの曲のソロでも登場し、それが気になり始めるとどの演奏も一本調子に聴こえる。
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 そういうハリスの長いソロをどう編集して『バーント…』に収めたか。本作を聴いて驚くのはやはりザッパの編集能力だ。28分の中で最も目立つ箇所は『バーント…』8曲目の5分13秒からのハリスによるヴァイオリンの鋭い刃物のような音色で、これは28分の最後に近いところに登場する。ソロを一旦終えた後にハリスはそれを奏でた。それをザッパは最初に持って来た。ここには名演を名演たらしめる個性的な箇所のみを選び抜くという無慈悲な思惑がある。テープのあちこちを切り、つなぎ合わせることで、より目立ち、印象的な音楽を作り上げる。同じ例は大阪公演での「ブラック・ナプキンズ」を『ズート・アローズ』に収録する際にもあった。そのもっと複雑なことが、「アナザー・ワルツ」が『バーント…』の8曲目で行なわれた。次に、本作のディスク3の7「リル・クラントン・フラッシュ」はザッパ没後の『ロスト・エピソード』に収録されたが、本作のヴァージョンは13分もある。主題はなく、ハリスのヴァイオリンが最初の5分間続き、その後ザッパがギターを3分半奏で、またハリスのソロとなってやがてギターが絡む。軽やかなブルース曲で、あまり打ち合わせがなくても演奏出来たであろう。またそれゆえ蔵入りとされた。ザッパはシュガーケイン・ハリスを69年以降起用しなかったが、これは優れた才能を見つけ、それを充分に自作に適用すると後はもう不要という態度で、冷酷と言えばそうだが、業界で生き抜いて行くためには仕方がない。ストラヴィンスキーがスイスにいた時、詩人のC.F.ラミュと一緒に『兵士の物語』を作曲したが、その後ストラヴィンスキーはラミュとは仕事しなかった。そのことをラミュはどこかさびしく感じながらも、偉大な才能は一か所に留まらないことを言って自分を慰めたようなところがある。才能同士のぶつかり合いはジャズでわかりやすい形で顕現化したが、本作もその例に洩れない。スタジオで顔を合わせ、打ち合わせをし、そして演奏を始めると、各人は持てる才能をあますところなく提示する。金をもらい、録音テープが回っているという失敗の許されない境遇にあるのでなおさら真剣勝負だ。その様子が本作のあちこちから伝わる。筆者は正直なところ、『バーント…』の8曲目のヴァイオリンとピアノのソロ・パートは少々冗漫でアルバムの全体的個性からは少し逸脱していると感じているが、本作のフル・ヴァージョンを聴くと、ザッパはその沸騰した熱の一部でも同アルバムに収録しようとしたことは理解出来る。本当はハリスをマザーズのツアーに同行させ、ライヴ録音出来ればよかったが、前述のようにスタジオ録音でも熱度は変わらない。またこのフル・ヴァージョンを発表しなかったのは、『アンクル・ミート』で「キング・コング」はたっぷりと収録済みで、『ホット・ラッツ』ではヴァイオリンがほしかったのだ。
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 さてザッパはブルース・ヴァイオリンのほかにクラシックやジャズ畑の、つまり楽譜どおりに演奏することと即興も出来る才能をジャン・リュック・ポンティに見出した。後年ザッパはポンティのソロが一本調子であると言ったようだが、ザッパのような才能から見ればたいていはそのように見えるだろう。とはいえ、ザッパはポンティに自作曲を演奏させるアルバム『キング・コング』を『ホット…』後に企画し、ザッパは自作曲が現代音楽寄りのジャズとして響くことを確認したから、ハリスの才能よりかは評価したと言ってよい。そこで疑問に思うのは、『ホット…』では「イット・マスト・ビ・ア・キャメル」でポンティは演奏しているのに、本作では彼の名前がないことだ。もちろん本作の同曲にもヴァイオリンは含まれない。これは『ホット…』のマスター・テープをまとめる直前、つまり8月に入ってポンティに録音させたことになる。同曲でのヴァイオリンはわずかで、ハリスに演奏させてもよかったと思うが、ハリスは複雑な楽譜が読めなかったのではないか。それはさておき、「……キャメル」と「小さな傘」はジャズで、『ホット…』では目立たない小品と言ってよいが、ザッパしか書けないような風変りさがある。「……キャメル」はたばこの銘柄の「キャメル」ではないか。そうだとすれば「20本の短いたばこ」に通じる。「小さな傘」は本作では「Natasha」という女性の名前になっている。ディスク3に4分と3分のヴァージョンがあって、ディスク6では「小さな傘」と題されて3曲ある。いずれも3分ほどで、最初と最後に主題があり、間にある鍵盤楽器の短いソロはぎくしゃくして現代音楽のようだ。最も面白いのは最初の「クカマンガ・ヴァージョン」で、1961から64年の録音だが、主題を吹くサックスは誰かわからない。極初期のザッパがこういうメロディのジャズ曲を書いて録音していたことはもっともなことだ。そこにビートルズなどのイギリスのロック・バンドの活躍があり、ザッパはロックに舵を切ったが、ジャズを捨て去らず、本作のセッションでは改めて過去の曲を正式に録音した。その1曲の「小さな傘」はソロを長くすればたとえば「ガンボ・ヴァリエーションズ」のような曲に発展したであろうか。「ブロッコリーの森の蝦蟇蛙」を見れば、ザッパは古い自作曲の拡張は好まなかったようだ。「…キャメル」は「小さな傘」よりも複雑な構成で、後半はテンポが速まり、ザッパのギターも登場する。本作のディスク2に4曲、ディスク4に2分の長さのザッパの打楽器による「追加録ヴァージョン」があって、これは『チャンガの復讐』の「ザ・クラップ」と同種で、ザッパの打楽器好みを表わす。また『ホット…』のたとえば「ウィリー・ザ・ピンプ」に鳴り響くカスタネットなどの味付けや、「小さな傘」の中間部のように短い間に楽器が変わる多様な音色に通じてもいる。
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 「…キャメル」はたばこの香りを楽しむような、ザッパにとってのムード音楽としてよいが、隙間がたくさんありながら、全体として凝縮された複雑さ、難解さを感じさせる。そのためにも最後にポンティにヴァイオリンを奏でてもらう必要があった。「ウィリー・ザ・ピンプ」や「ガンボ・ヴァリエーションズ」とは対極にある曲だが、「小さな傘」とともに『ホット…』に収めたのは自分の出自がジャズにあることを再確認したかったからであろう。それに激しい曲ばかりではアルバムが単色になる。持てる才能を万遍なく提示するには6曲はみな雰囲気の異なる曲にする必要があった。「その2」で筆者は『ホット…』のジャケットが本作のブックレットで紹介されたクリスティーン・フーカの別の写真であれば、曲内容にそぐわないと書いた。そこで本作からそのフーカの別写真にふさわしい、つまりザッパのジャズ的なLPを1枚を作り出すとすればどういう選曲がいいかを考えた。CD-Rには焼いていないが、A面としてディスク1-1「ピアノ・ミュージック(セクション1)」(2:13)、1-2「同(セクション2)」(5:42)、4-6「アラベスク(ギター追加録ミックス)」(6:57)、4-7「トランジション(フル・ヴァージョン)」(6:22)、B面は6-3「…キャメル(1969 ミックス・アウトテイク)」(5:23)、6-2「小さな傘(1969 ミックス・アウトテイク)」(3:10)、6-14「アラベスク(ギター・トラックス)」(6:57)、4-8「ピアノ・ミュージック(セクション3 追加録ヴァージョン)」(5:41)で、AB面とも4曲ずつ、収録時間はほとんど同じ19分少々だ。そういうアルバムを作らなかったザッパは時代に乗じて70年にはまた全く違うバンドを結成する。その猛烈な嵐の前にあって、筆者が上記のように選曲したアルバムはザッパの別の、そして基本的な本質を知るのに役立つ。書き忘れていたが、本作ブックレットの裏面のザッパの発言はディスク5の7に、ザッパの『自伝』をまとめたピーター・オクチグロッソの87年時のザッパ・インタヴューの際のものだ。また、『スタジオ・タン』の「海に連れて行ってあげる」の元となったリズム・トラックが「Dame Margret‘s Son to be A Bride」(マルグレット奥様の息子は花嫁になる)が2曲、『ホット・ラッツ』のラジオCMが4ヴァージョンも収められる。さらにこれは社長のアーメットのアイデアだろう、CD収納の見開きと同じサイズと紙質でゲーム板が付属する。箱の蓋を開けるとギター・ピックが数枚入っているビニール袋があるが、それはゲームの駒だ。カードはミシン目がついているが、切り離していないし、ゲームの方法も読んでいない。そう言えばブックレットの解説もまだ全部読んでいないが、そうたいしたことは書かれていないだろう。
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by uuuzen | 2020-02-24 01:13 | ●ザッパ新譜紹介など
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