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●『THE HOT RATS SESSIONS』その7
得に応じた活動しか誰しも出来ないが、レコードがよく売れていた時代と違い、今はCDは売れず、音楽を目指す者は存分な創作を目指すことが難しい。



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筆者は30年ほど前に言われたことがある。金儲けのための全然違う仕事を還暦頃までして、その後は蓄えたお金で好きな創作をすればいいではないかと。筆者は笑って取り合わなかった。数年前にTVで定年を迎えた諦念に抗う人の生き甲斐を取り上げた番組があって、その中に60半ばの身なりのいい男性がひとり紹介された。彼は高価なエレキ・ギターを買い、若い頃に邁進出来なかったロックへの道を改めて始めようというのだ。彼はかなり男前で、また知性もあるように見えたが、眉間に深いしわがあり、また何よりももう消耗し尽くした雰囲気があって、ギターを手にどうしていいかわからない困惑がはっきりと伝わった。ようやく好きなことが存分に出来る経済力と時間を手に入れたが、もう幕は上がらない。自分でどうにか上げたところでどういう見事な芸を披露出来るか。一方、明日の生活がままならない貧困の中で芸術を目指す者がある。一旦売れ始めるとその後はずっと安定かと言えば、そんな生易しいことはあり得ない。猛烈に驀進することはあたりまえで、そこに運が左右する。ザッパは新作アルバムが一定以上売れなければ次作を出せないと言っていたが、それは大量の仕事を成してそこから厳選した作品を提供する態度を強いた。とはいえ、脳裏にはいつも新曲への思いがあり、磨き上げることを忘れてしまう曲もままあった。それはザッパが忘れ、ファンに知られることはないので、存在しなかったも同然だが、たまたまザッパが録音を消さなかったテープが収蔵庫に保管され、それが陽の目を見る。本作にはそういう曲がいくつか含まれる。今日はそれらについて書こうと思いながら、肝心の『ホット・ラッツ』の6曲のうち、紹介したのは2曲で、残り4曲について先に書くべきで、予定を変更して明日も投稿する。さて、『ホット・ラッツ』の題名を歌詞に含むのが「ウィリー・ザ・ピンプ」(ひものウィリー)で、ザッパの10代半ばからの友人のキャプテン・ビーフハートが獰猛な声を響かせる。これがオーヴァーダビングであることは、ヴォーカルの最後がフェイドアウトすることから予想がついていたが、その歌声のみがディスク6に2分の曲「ヴォーカル・トラックス」として収録される。7月29日の録音で、同じ日にカラオケとしての演奏も録られたが、それらはディスク2に4曲収まり、ザッパは最初からビーフハートを招いて歌わせることを想定していたことがわかる。本作のヴォーカルは『ホット…』より1小節空きが多く、歌詞の「ホット・ラッツ」は24ではなく25小節目に歌われるが、これは87年の初CDと同じで、ザッパはLPでいかに余分を削り取ろうとしていたかがわかる。
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 またビーフハートのヴォーカルは本作でもフェイドアウトしていて、これはザッパがそのように加工した。ついでに書いておくと、本作で発表するに当たり、2019年にクレイグ・パーカー・アダムスがミキシングをしている。これは16トラックのうち2トラックを使ってビーフハートが二度歌い重ねた音源をステレオで聴いて不自然でないように加工された。楽器のベーシック・トラックがひとまず完成した時点でビーフハートにそれを聴かせながら歌わせたものに違いないが、荒々しい声が加味されたことでこの曲が完成した。ザッパのギター・ソロも聴き物ではあるが、本作のそれらのヴァージョンを聴くとやはり少々物足りない。またザッパはギターの音色に腐心し、さまざまに試みていることが面白い。その意味で『ホット』はザッパのギターが今後本格的に成長して行く端緒にある。ブックレットのマット・グレーニングが本曲のリフをストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』のオマージュと書いている。この指摘はザッパが語ったものかどうか知らないが、確かに『ペトルーシュカ』の冒頭主題と似ていて、双方を同時に奏でると対位法に準じたように響くだろう。だが本曲はロシアの民謡ではなく、ブルースに依拠する。ただしそれは白人のそしてアメリカのザッパがやるもので、それゆえ黒人のミュージシャンではなくビーフハートを前面に出すことがふさわしい。本曲には時に三味線のように聞こえるシュガーケイン・ハリスのヴァイオリンが起用されるが、彼がリード・ヴォーカルを担当したのは同じ黒人が作曲した「ダイレクトリー・フロム・マイ・ハート」で、ザッパは本作ではカヴァー曲と自分のオリジナル曲とでは微妙に思いを変えていたと言ってよい。ヴォーカル・ヴァージョン以外に本曲はディスク2の8「セッション」2分半、9「未編集マスター・テイク」15分、10「ギター追加録1」15分、11「ギター追加録2」6分、ディスク6の7「1969 クイック・ミックス」15分があり、全部で1時間近い量だが、ディスク6の5「ウィリー・ザ・ピンプのさらなる物語」と題する、GTOsのメンバーふたりとザッパのはしゃぐ語りもある。「未編集マスター・テイク」はギターの音色がファズで『ホット』とは印象が大きく異なるが、ソロ自体が違う。7分半までザッパのソロ、それ以降12分までシュガーケイン・ハリスのソロ、その後はまたザッパのソロだが、熱演ぶりが凄まじい。これが「未編集マスター・テイク」と題される意味がわからない。それを言うならば「追加録1」で、「スクランブラーとワーワー」と書き込みがあるとのことで、ギターの音色は『ホット』にほとんど近い。ハリスのソロがなく、全編がザッパのギターで、これを編集して『ホット』に使った。「追加録2」のギターはまろやかで優しく、「ブラック・ナプキンズ」に対する「ピンク・ナプキンズ」を思えばよい。
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 本曲の『ホット』ヴァージョンは9分で、初CDより逆に6秒少なくなっている理由はわからないが、そのことを含め、ザッパが本作のヴァージョンのどこをどう使い、そしてビーフハートのヴォーカルを加えたかを吟味したい人は本作をじっくりと聴き込むのがよい。『ホット』では最も長い13分の曲「ザ・ガンボ・ヴァリエーションズ」は87年CDでは4分も長いヴァージョンが採用された。この曲は「ウィリー……」と同じパワフルさがあるが、「ウィリー」と同じく短いリフの繰り返しにソロが続き、印象としては薄い。また本作では徐々仕上がって行く様子を伝える多くのヴァージョンがなく、ディスク4の4に「ビッグ・レッグス」と題して33分の演奏が収められる。『ホット』はその3分の1ほどを使ったことになるが、「ビッグ・レッグス」の3分の2が経過した辺りからはリズムが変わって演奏が軽くなる。その部分は、31分以降のコーダの最初は別として、『ホット』では使われなかった。ベーシック・トラックはベースがマックス・ベネット、ドラムスがポール・ハンフリー、イアン・アンダーウッドがピアノ、タック・ピアノ、オルガン、サックスを担当したが、イアンは持ち替えて奏でたのではなく、サックスの背後でオルガンが鳴っているので、後で多重録音したことがわかる。シュガーケイン・ハリスのヴァイオリンはクレジットされていないが、これは後で演奏を重ねたのではなく、記載漏れであろう。というのは、同じ7月30日にハリスは「ダイレクトリー・フロム……」を演奏しているからだ。「ビッグ・レッグス」をスローかつ静かにした曲としてディスク2の7「Bognor Regis」(ボーグナー・リージズ)がある。これはイギリスのリゾート・タウンの地名で、ロンドンの南西40キロの海辺にある。11分の曲で特長的なリフはなく、ザッパのギターとハリスのヴァイオリン・ソロが中心だ。信じ難いことだが、ザッパはこの曲を何度も作り直し、後年の「コーンヘッド」を作った。その過程でザッパは録音を消したが、最初のヴァージョンの本曲は2トラックにミックスされて残された。またディスク6の10曲目は本曲の「1970 レコード・プラント・ミックス」と題され、8分の演奏となっている。響きがやや異なるだけで大きな差はない。また後半部のギターが熱を帯び、そこにヴァイオリンが絡むところは「ビッグ・レッグス」の最後3分1に似て、入れ替えが可能なほどだ。それでザッパは未完成のまま放置し、70年のミックスはあるいは『チャンガの復讐』にでも収録しようとしたかもしれないが、さらに寝かせられてザッパが歌う歌詞つきの「コーンヘッド」となった。さて『ホット・ラッツ』の残り2曲「リトル・アンブレラズ」(小さな傘)と「イット・マスト・ビ・ア・キャメル」(きっとキャメル)本作の残りの初公開のヴァージョンや曲については明日に回す。
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by uuuzen | 2020-02-23 00:35 | ●ザッパ新譜紹介など
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