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●『柳宗悦 棟方志功と真宗 土徳の大地と民藝の美』
方箋があるのかどうか、日本の精神性の荒廃がさまざまなところに噴き出ている気がする。毎年3万人の自殺者がいるが、阪急電車はしばしば人身事故で遅延し、筆者は今年はそのために大阪から京都に帰れないことを経験した。



●『柳宗悦 棟方志功と真宗 土徳の大地と民藝の美』_d0053294_01165415.jpgそれで新たな若い女性との出会いもあったので人生の面白さを思うが、一方でその電車遅延の原因となった自殺者を思えば、そう考えることは不謹慎な気もする。さて、今年の「関西文化の日」の無料で見られる展覧会として、今日取り上げるものを大谷大学博物館で先月10日に見た。博物館が入る建物の前の広場で学園祭が開催中で、目ぼしい古本2冊を格安で買い、また学生が運営するテントで生まれて初めてタピオカ・ミルクを飲んだ。予想していた味で感動はなく、また撮影した当日の写真がメディアの故障で全部駄目になったことのショックが大きい。本展は素晴らしい内容で、遅まきながら柳宗悦の書は浄土真宗の木版本の『和讃』の書体を真似ていることを知った。筆者が春秋社刊の10冊揃いの選集を買って読んだのは20歳の頃だ。当時から柳の書の個性が気になっていた。真面目な楷書で、いかにも柳らしい。現在でも、また最近は特にその書の作品をほしいと思っているが、数十万円はするし、これぞという好きな言葉を書いた作を見かけない。また贋作はとても多く、よく出来たものもあるが、たいていはどこか卑しさが滲み出ている。模倣はしやすいが、精神性までは無理ということだ。それはともかく、柳の書は片仮名を交えたものが多く、その書体が『和讃』を手本としたものであるくらいのことは、柳の本を読む人からすれば常識のはずで、筆者は今まで40年近く、何を考えていたのかと思う。だが、柳は自分の著作から読者が真宗に関心を持ち、さらに『和讃』を読むことを願っていなかったのではないか。自著によって真宗の本質が伝わり、またそこから民藝のそれもわかるはずとの自負があったと思う。柳の文章は同じことを少しずつ言葉を変えて繰り返す個性があって、その抑揚に慣れると1冊を読むのに時間はさほど要せず、言いたいことがよくわかる。またそうでなければ民藝の本質は伝わらない。筆者が20歳頃、つまり1970年代の最初は、もう柳の民藝運動はかなり廃れていた。それは日本の高度成長が進み、日本全体が画一化に向かい、田舎らしさが消えて行ったからだ。20年ほど前に筆者は郷土玩具に多少関心を抱いたが、現在その収集ブームが衰え、地方色がますます廃れている。そのことを柳は予想したはずで、それで民藝運動によって将来は途絶えるはずの民藝の品々を収集、紹介したのであろう。そういう柳のもとには棟方志功などの作家が集まったが、彼らは無名ではなく、芸術家であった。そこに民藝の矛盾があるが、民藝運動に参加した芸術家は仏教に関心があり、棟方は柳とともに昔から真宗の盛んな富山に住み、真宗によって作風を大きく変えた。
●『柳宗悦 棟方志功と真宗 土徳の大地と民藝の美』_d0053294_01172269.jpg
 そこに焦点を当てるのが本展だ。展示作品で最も目立ったのは柳が南砺市の城端別院(善徳寺)で見た室町時代の『三帖和讃(色紙和讃)』だ。筆者は最初、きれいな色のついた、また縁飾りのある料紙に手書きされたものと思ったが、木版であることを知ってさらに驚いた。『絵因果経』や国宝の『平家納経』ほどの豪華さはないにせよ、僧侶の言葉がこれほどに装飾された書物はきわめて珍しいだろう。この豪華な『和讃』は特別で、普通は今日の写真で紹介するが、筆者が所有する200年以上前のものと思われるもののように縁飾りはなく、雲母引きの白い和紙に墨一色で木版摺りする。それでも充分にきらびやかだ。ちなみに『和讃』は『正信念佛偈』、『高僧和讃』、『浄土和讃』、『正像末和讃』の4冊で、黒塗りの木箱に収められている。本展のチラシには柳の書「美之法門 无有好醜願」と棟方の絵が並ぶ。柳は「无有好醜願」という言葉を、城端別院を再訪した時に『浄土三部経』の『仏説無量寿経』を読んで知り、早速『美之法門』と題する著作の原稿を書いた。「无有好醜願」はネットで検索すれば出て来るが、「弥陀の誓願」(四十八願)の第4願「たとひ、われ仏を得たらんに、国中の人・天、形色不同にして、好醜あらば、正覚を取らじ」による。「仏になるとしても人に美醜があれば悟らない」といった意味で、人々の美しい、醜いという見栄えは関係ないという考えだ。人間には差別心があるが、それでは仏になれないということで、柳はその好醜を人が作るモノに置き換えて民藝論を書いた。つまり、見栄えの美しいものが芸術とは限らず、むしろそれを意識して製作する芸術家の作品は弱くて脆く、名のない普通の人たちが長持ちするようにと作った生活に不可欠な道具類に逞しい美を見出した。ここには信仰がまだ深く生きている時代の幸福な物づくりがある。彼らはことさら美を意識せずに作り、消費した。今は美術館に展示されることを前提に作品を制作する人を芸術家と呼ぶ。それらの作品はごく一部の人が見るだけで、人々の生活とは無縁と言ってよく、また作品を見た人がその後自分の生活を大きく変えることはまずない。一方、名もない人たちが作る民藝も今はあり得ず、名前を前面に出してなるべく希少価値を狙って高額で売れることを望む。民衆はいるが、かつてのように各地の田舎で生産され、そこで使用される民藝は消えた。民衆がさまよい、迷っているも同然であるからで、それと同時に信仰も人々が懐疑的になって風前の灯に見える。筆者が本展を訪れた時、館内に学生の姿は皆無で、彼らはいつ柳の考えを書物によって知るだろうか。学園祭の様子を家内と眺めながら、学生たちはみな初心さがあるように見え、たぶん「土徳」とされる富山の田舎から来ている者もいるだろうが、彼らが真摯に宗教を考えなければ日本の変質は加速化する。
●『柳宗悦 棟方志功と真宗 土徳の大地と民藝の美』_d0053294_01174495.jpg
 本展は第1章が城端別院にある江戸時代の親鸞像や室町時代の聖徳太子像や蓮如上人像など富山県指定有形文化財を含む6点で、柳に焦点を当てる第2章の最初に、同じく同文化財の『三帖和讃』が展示された。つまり、民藝における南砺市の重要性を伝えるものだが、柳が日本全国を旅し、また真宗の盛んなことを除けば、戦前はどの田舎にも民藝はあった。また真宗が唱える他力本願は、そうした田舎ではお互い支え合わなければ生活が成り立たず、教えられるまでもなく当然のようにして身についたものだ。その支え合うことは新興の宗教においても守られ、またそれは同じ信者以外に対しては排他的に作用し、オウムのように殺人を犯してもかまわないという極端な考えに至った結果、宗教をひとまとめにして人々はアレルギーを起こすようになって来たと言ってよい。そのとばっちりをたとえば真宗も受けていることは想像に難くないが、真宗の僧侶が横暴な自動車運転をして暴言を放ったことがニュースで報じられるとなおさらで、人口減少も相まって今後は田舎の過疎地では真宗の寺は減少して行く。そのことを伝える数十年前のNHKのドキュメンタリー番組を先日見た。ある寺ではそのことを予想し、都内に移転して新たな門徒を多く得ている様子が映ったが、それは数十年前のことで、今後門徒が減らないとは限らない。それはさておき、筆者は20代後半に一度だけ砺波を電車で通過したことがあるだけだが、その田園の中に防風林つきの家が点在する独特の風景はよく覚えている。その眺めは今も変わっていないはずだが、合掌造りの家に住む五箇山の若者と親しくなり、彼のスポーツカーや同じ五箇山の若者らと一緒に桜を見に出かけた時、そのことを別段何とも思わなかったが、70年代の当時から車社会が本格化し、日本が画一化に向かったことを思う。ちなみにそのスポーツカーに乗っていた男性は当時独身であったが、数年前にNHKの番組に登場し、都会から観光で訪れた女性と所帯を持っていることがわかった。それは合掌造りの集落で有名な五箇山であるからで、TVで紹介されず、ほとんど観光客が来ない辺鄙な地域では嫁が来なくて超限界集落まっしぐらとなることは目に見えている。そして、一方ではダムによって村がかなり失われ、柳の民藝運動では保存出来なかった建物や生活の知恵が数多くあるだろう。となると、民藝によって伝わる作品は柳の審美眼にかなった芸術であって、民衆が作ったものにも美醜の優劣があり、柳が拾わなかった「醜」は残りようがなかったと言える。本展の第3章は棟方志功の南砺市の大福寺と光徳寺にある書画を中心に20点近く展示された。隋願寺の住持が書いた「隋順」の文字に棟方が感動し、同じ言葉を書いた作があったが、棟方の書と言われなければ、住持の端正な文字を好む人がほとんどではないか。天衣無縫は粗雑と紙一重で、筆者は棟方の書をあまり好まない。
●『柳宗悦 棟方志功と真宗 土徳の大地と民藝の美』_d0053294_11372386.jpg

by uuuzen | 2019-12-04 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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