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●『世界報道写真展 2019』
いっぱいの愛ではなく、悲しみが世界には溢れている。トルストイの小説にあるように、金持ちの幸福な家庭はどこも似たり寄ったりだが、不幸には多くの形がある。



●『世界報道写真展 2019』_d0053294_00512987.jpgまた経済的に恵まれていてもグロテスクな人間模様があり、必ずしも金持ちが幸福とは限らず、不幸はどこにでも忍び込む。地獄図が迫力に満ちてまじまじと見つめさせるのに対し、天国を描いた絵はどれも退屈だが、そのことは円満院の注文に応じて描いた応挙の有名な「難福絵巻」にも言え、さまざまな禍を描いた絵巻のほうが何倍も印象深い。その禍は自然災害を含み、金持ち貧乏は関係なく、突如不幸に突き落とされることは現代の日本では映像によって人々は嫌というほどに見ている。そして、実際に起きた災難を記録するには今は写真や映像の時代だ。誰もが報道写真家になり得て、スマホで事故現場が毎日撮影され、TVで放送される。そのため、プロの報道写真家はわざわざ危険な場所に赴く。危険と引き換えに誰も撮影出来ない写真が撮れるかもしれない。彼らは賭けを好む人種だ。自分の命よりも誰もが注目する写真のほうが大事と考えているのだろうが、それはスポーツ選手も同じで、オリンピックで優勝出来るなら寿命が10年や20年は短くなってもいいと思う人がいることは何年か前に報道された。いずれも自分の名を長く記憶してもらいたいためだろうが、ネット時代になって「注目されたい病」に冒される人物がますます増え、平気で殺人を犯すことがあるが、一方では自分の幸福自慢のインスタグラムも大流行りだ。そういう幸福自慢の写真は先のトルストイの言葉のように、どれも同じで退屈であるから、いっそのこと不幸自慢をしたほうが注目を浴びると思うが、それが過激化すると自殺する映像を残そうとするのが出て来るだろう。もっとも、それとほとんど同じ写真や映像も今は珍しくない。つまり、もうどのような写真にも驚かなくなっている。それで毎年開催される本展の写真は、毎年同じように見ている時は驚くが、すぐに忘れる。そのため、毎年見ておこうとする。今日は10月30日に衣笠にある立命館大学の国際平和ミュージアムで見た展覧会について書くが、毎年見るようになって何年経つだろう。大阪のハービス・ホールで2回見たことがあるが、もっぱら京都で見る。ハービスに比べると圧倒的に人は少ないが、それだけに静かなホールでじっくり見られる。今回は見終わった後、ドアの外の、ホールと同じほど広い休憩室で百人ほどの中学生の団体が入って来て、整列してしゃがみ込み、そして先生らから説明を受けていた。彼らは地下の常設展を見たと思うが、本展を見たとして、どの写真も文字を読む必要があってほとんど素通りしたであったろう。写真は見れば一目瞭然と言われるが、本展の写真はどれも説明がなければどこで何を撮ったものかわからない。
●『世界報道写真展 2019』_d0053294_00520340.jpg
 本展は「76億の目撃者たち」の副題がある。コンテストは62回目で、129の国と地域から4738人の写真家が参加し、78801点の応募があった。部門は「現代社会の問題」、「一般ニュース」、「自然」、「環境」、「スポーツ」、「スポットニュース」で、25か国、43人が受賞した。どの部門が最も重要というのではなく、平等のようだ。だいたい100人にひとりの割合で、これくらいの競争率であれば優秀な作品が集まる。日本の毎年開催される公募展はだいたい3倍の競争率ではないだろうか。市民美術展ではほとんど100パーセントに近い入選率の場合もあり、それでも趣味に生きる人の活力に寄与している。本展のチラシの表に印刷されたのは、環境部門の第1位で、南アフリカで撮影された。顔を白く塗り、全身葉っぱをまとって銃を持った女性が沼に立っている姿の写真で、反密猟武装部隊のひとりだ。去年だったか、角を密猟人に切り取られた犀の写真があった。そうした密猟は貧困が一方にあって撲滅は簡単ではない。また犀の角は中国人が最高の漢方薬として重宝しているので、なおさらだ。犀の角が滋養強壮にいいというのは迷信だが、それはいつまで経ってもなくならない。チラシ裏面には6点の写真が印刷され、右上隅の最も大きいものは去年6月12日の撮影で、TVやネットでも紹介された。メキシコとアメリカの国境で、青いジーンズを履いたホンジュラスの母親が背後から国境監視員に取り調べを受けている間、母の前で赤い服の女児が泣いている。その号泣の声が聞こえそうで、胸が痛む。この女児はただならぬ雰囲気を知っていて、それは大人になっても思い出すだろう。この後、この親子がどうなったかだが、母国へ送還されたのではないか。図版が小さくてわかりにくいと思うが、チラシ裏面の上左は「現代社会の問題」の部門で、右に写る妊娠中の女性はコロンビア革命軍に加わっていた間、5回の堕胎を経験した。5回目の妊娠の時は緩めの衣服を着て妊娠6か月になるまで指揮官に知られないようにしていたという。部門は忘れたが、LGBT問題として、女装する中年男性を扱った組写真があった。また、あるイスラム圏の国では女性がサッカーを見ることは許されず、若い女性が髭をつけ、男装してボーイフレンドと一緒にスタジアムにいる写真があった。ぱっと見は男でも、やはり女であることはわかるが、それは説明を読んだ先入観によるかもしれない。男装してまで見たいのであれば、国は方針を変えればいいと思うが、厳格に今後も守るのであれば、この男装女性の行為が発覚すればどういう罰が待っているのかとても気になる。日本でも女人禁制の場所はあるが、女性がどうしてもそこに入りたいという声はそう多くない気がする。あるいはそれこそが日本でLGBT問題への関心が世界的に見て低い理由かもしれない。 これは「自然」の部門にあったと思うが、水中の蛙の群れを至近距離から撮影した、とても色合いがきれいな、写真があった。絵画的で、また絵画ではとても描けないようなリアルさがあって、具象と抽象が相半ばする。特に赤い色が印象的で、それが画面全体に水色に混じって広がっている。説明を読むと、それは食用蛙の足が切り取られ、不要になった胴体を次々と水の中に放り込んでいる様子であった。つまり、印象的な赤い色は血で、蛙はもがき苦しみ、またやがて死ぬが、とてもそう見えない美しさがある。これは写真家がそのように感じて撮ったのか、撮った後でそのことに気づいたのかだが、予想しながら撮り、結果は予想以上の写真となったのが実情だろう。蛙は断末魔の苦しみにあるのに、それは人間には伝わらない。それどころか、写真は天国のようにきれいで、そのことを筆者は人間に置き換えてみた。たとえば、山頂にいて突如噴火が始まり、人々は逃げ惑うが、火の粉と岩石の降り注ぎの中で右往左往する人間を、蟻のような小さく上空から撮影すると、この蛙の写真と同じようにきらびやかに見えるかもしれない。自然にすれば動物がどのように死のうが関係なく、またその無慈悲な自然の動きは神々しくもある。ところが、この蛙の写真は、人間が食べるために養殖されていて、足以外は食用にならずに捨てられる。蛙の解剖を中学生の理科の授業でした人は多いはずで、また蛙の足を飲み屋で酒の肴にすることはあって、足のなくなった蛙の姿を滑稽程度にしか思わない人がいると思うが、そこには人間が人間を殺すもっと凄惨な事件が毎日生じていて、戦争になればそれが正義とされる現実が一方にある。本展はあまりに凄惨な写真は採用されないようだが、数年前は東南アジアのギャング団の抗争で、バラバラにされた死体の写真があった。同じようなことは麻薬撲滅で大鉈を振るっているフィリピンでもあるだろう。応挙の「難福絵巻」には、罪人が鋸引きされたり、四肢を反対方向に走り去る牛か馬に縛りつけられている様子が描かれるが、そのような創造的かつ丁重な殺し方は残酷とされて今は死刑は廃止の方向にあり、一方で人の命は羽のように軽くなって簡単に殺される。あるいは車が移動する棺桶になって、巨大な岩石が落ちて来て車がぺしゃんこになる事故がたまにあるが、中の死体を想像すると鉄とプラスティックと肉とが合挽ミンチとなって、さぞかしその色合いは華麗だろう。本展は幸福よりも不幸な写真が印象的で、そうした不幸な写真を見て自分の安泰さを思う。とはいえ、明日はわからない。はかない運命の人間であるだけに、他者から見て不幸であってもそうとは思わずに生きる。結局何が幸福か不幸かは考え方次第だが、悲しんでいる人を見るのは辛い。幸福はずっと続かないが、悲しみもそうだ。とはいえ、悲しみのドン底にいる人をどう慰められるか。
by uuuzen | 2019-12-01 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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