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●『HALLOWEEN 73』その5
ではつれない真鯛が釣れないかと言えば、大観に磯で鯛を釣り上げる絵がある。大観が五浦の磯で実際に経験したことなのだろう。だが、沖にしか棲まない魚がいて、磯でいくらいそいそと釣り糸を垂れても出会えない。



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ザッパは世の中にさまざまな文明があって、そこにはさまざまな音楽があることを知っていたが、自分がいる国や時代に最も関心を抱き、その中でどういう表現をすべきかと考えた。ルース・アンダーウッドはザッパの曲には「FOLKLORE」の様子があると書く。それはフロ・アンド・エディの在籍時に顕著であった。「フォークロア」と言えば「フォーク・ソング」を思うが、民間で馴染みの事柄で、ザッパが大統領を風刺することもそこに含まれる。それは時代や国が違えば意味不明になりがちだが、人間の本質が変わらないのであれば、ある時代や国に顕著なことはいつどこでも理解される普遍性があると言える。ザッパはそう考えたに違いなく、今この社会で起きている本質を把握し、即座にそれを曲に反映させようとした。その意味で俗受け狙いの通俗的な作品になりがちだが、庶民がわかりやすいようなという妙な老婆心から単純な曲を書くことは拒否した。強いプロ意識があったからだが、それはたとえば現代音楽が複雑な曲を生んでいたことや、またそれはその複雑さによってしか表現し得ない独特の世界があることを知っていたからで、ロックやジャズ以外の音楽の世界で起こっていることが無視出来なかった。その視野の広さがなければザッパの音楽は卑小なものに見えるだろう。それはともかく、フロ・アンド・エディ在籍時代の次にザッパはアルバム『ワカ・ジャワカ』のようにジャズに向かったが、それも経て本作ではナポレオン・マーフィ・ブロックという人材を得てフロ・アンド・エディ期の「フォークロア」の要素を復活させた。本作のメンバー時代がザッパの黄金時代とされるのは、ザッパが求めた歌詞と曲が万全に揃ったからで、フロ・アンド・エディというふたりは、ザッパとナポレオン、そしてデューク、また時にはジェフ・シモンズに代わった。これは磯釣りで甘んじることなく大洋に向かったからで、本作後さらに別の海を目指し、珍しい大きな魚をものにして行く。それはより大きな困難にぶつかることでもあって、75年からはワーナー・ブラザーズ相手に訴訟を起こし、またそれに勝ってからはザッパの権力者嫌いはもっと過激になる。その憤怒が創作へと駆り立てた原動力であったと見ることも出来るが、他方では4人の子を抱えた家庭を維持する責務もあって、作曲のネタには事欠かなかった。本作に収録される「ティマーシ・ドゥイーン」の題名は娘が言ったたどたどしい言葉で、それも広い意味での「フォークロア」であったが、そうした微笑ましいことよりも、世間に跋扈するいかがわしさに注目することが多く、ザッパは人には騙されないという思いが強かった。
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 その警戒心からザッパには打ち解けた友人がいなかった。それは欲してもいなかったからであろう。それでいて孤独を感じる暇もなく、仕事に明け暮れた人生で、また仕事とは思わないほど、音楽に夢中になれた。ラルフ・ハンフリーは文章の最後で、「ザッパとは何者であったか」というみんなからの質問に対して箇条書きの項目で答えている。「天才」「因習打破」「強迫的に突き動される」「滑稽」「多才」「不適切」「輝かしく独創的な話手」「コーヒーとタバコ中毒」「賞賛や気安い賛辞に留まらない」「社会的なことや政治的なことを熟知している」「(知的な意味での)シリアスなジャズのファンではない」「偉大なブルース・ギタリスト」というもので、最後の「ブルース・ギタリスト」という表現が筆者には面白い。これはザッパがブルースだけに留まったことを意味しない。それを基礎に独自の語法を開拓した。またそれは「シリアスなジャズのファンではない」という意見と照らし合わせると、よりザッパのギターの特質がわかる気がする。「知的な意味でのシリアスなジャズ」とは、たとえばセリーによる現代音楽に似たものを思えばいいだろう。理論があって作品が出来るという考えだ。理論は様式と言い換えてもよい。ザッパはそれに寄りかかることを拒否した。どのような音楽でも分析すると理論が見えて来るが、そういう理論によって作曲するとわざとらしさが露わになるだろう。AIの技術が進歩すれば芸術家は不要になると科学者は考えているかもしれないが、理論を越えて人が心に思い描く、表現への感情、感動、衝動がある。それはたいてい既知の作品の影響を受けているものだが、模倣の積み重ねの中から個性が芽を吹く時がある。つまり、人間はAIより常に一歩リードするはずで、でなければ芸術は存在し得ない。ザッパがブーレーズから管弦楽団用の作品を委嘱された時、ザッパにはブーレーズのようなセリー理論やそれに代わる現代音楽の新しい、あるいは独創的な理論は持ち合わせていなかった。それでザッパが採った考えは、個人的な経験に基づくアメリカ社会の戯画化であり、またそのグロテスクさを表現するためにきわめて真面目かつ演奏の難易度が高い音楽を書いた。そのロック・バンド編が本作でもあるが、強迫的に突き動されることで書かれた作品であり、先に打ち立てた理論に沿ったものでは全くない。それゆえ、ザッパには3コードによるブルース・ソロはあるが、それをツアーごとに披露するほど、ブルースにはのめり込んでいなかった。それはブルース以外に多くの音楽があることを知っていたからでもあるが、ブルースであれ、インド音楽であれ、ザッパは冷静に内部を詮索し、貪欲に消化し切ろうとした。その醒めながら熱くなった態度ゆえに、ある一定の満足を覚えると次の変化に挑もうとした。
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 ジョージ・デュークのために書かれた「インカ・ロード」も、本作のヴァージョンは74年のそれとはかなり異なる。ディスク4のリハーサルは15分のうちの10分ほどがイントロのジョージによるスローなヴォーカルを何度も繰り返し、ゆったりとくつろいだジャズの雰囲気を醸し出しているが、最後にザッパの2分弱のソロがあり、74年ヴァージョンのように速度を上げる。ショー2の11分のヴァージョンはもっと演奏をたっぷりと聴かせ、ジョージのヴォーカルからキーボード・ソロの後、トロンボーン・ソロが続く。副主題の後ジョージのヴォーカルに回帰するが、これは74年の演奏では踏襲され、またザッパのギターが即興を繰り広げるようになる。この変化は後のザッパのギター・ソロに大きな意味を持つ。というのは、ザッパはこの曲のギター・ソロを大いに変化させ、いくつもの独立したギター・ソロ曲として行くからだ。またジョージはこの曲では一息で16秒も歌い続ける箇所があり、ヴォーカルの才能を開花させたが、その意味で両者にとって記念碑的な作となった。いかにもジャズ的なメロディながら、歌詞はUFOブームに因んだ「フォークロア」で、ラルフの言う「因習打破」と「滑稽」が見られる。ショー2の最後は、「グリーン・ジーンズさんの息子」「キング・コング」「チャンガの復讐」という旧知の曲をメドレーで、最後は「グリーン・ジーンズ……」に回帰するが、ソロをたっぷりと聴かせるために16分半も演奏する。「キング・コング」ではトロンボーンがソロを奏でるが、背後でザッパがギターでリズムを刻みながら、その演奏は単調ではない。これはルースが書いているように、ザッパは伴奏でも絶えず工夫し、同じようには演奏しなかった好例だ。トロンボーンのソロが終わった後、ザッパは20秒ほどリズムを刻み続け、そしてジョージのキーボード・ソロが始まるが、その時にザッパがジョージに目で合図している様子が見えるかのようだ。またジョージの即興が激しく展開するにつれてザッパのリズム・ギターも荒れ狂い、そして突如「チャンガ」の主題が同じテンポのままに始まってザッパのギター・ソロの出番となる。ラルフとチェスター・トンプソンのツイン・ドラムス体制は当然2倍の音量を目当てにしたものではなく、後者は前者より1オクターヴの3分の1高く調音され、また前者はザッパがメンバー紹介で言及しているように、カウベルも奏でた。この音色はルースのマリンバとともに『ロキシー……』でも大いに特徴的で、ナポレオンの笑い声も相まって陽気さを全開させている。その明るさは75年以降には減少し、ザッパはどんどん黒くなって行くが、それはザッパが思う為政者や宗教家など、悪への呪詛のせいでもあった。そのザッパの風刺も「フォークロア」として語り継がれるべきだが、日本では権力にぺこぺこのお笑い芸人ばかりが幅を利かせて何にもオモロナイ。
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by uuuzen | 2019-11-18 23:59 | ●ザッパ新譜紹介など


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