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●『HALLOWEEN 73』その4
物とは人生の輝かしい思い出だろう。ルース・アンダーウッドにとっての宝物は、彼女がこれまでにザッパの新譜に書いて来たことからは、ザッパと一緒に演奏したことであることがよく伝わる。



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本作のブックレットで彼女は最初にこんなことを書く。「ザッパの73年のバンド・メンバーとクルーが40トンもの機材を毎夜次から次への場所へと運ぶという不可能なことをやり遂げていた驚異を、わたしは決して忘れない。」この後にルースはクルーがショーのためにケーブル類を点検補修している様子を見つめていたことを書くが、その下働きの人物たちがいてショーは可能となった。76年2月の京大西部講堂での演奏に際しても、その建物前の空き地に視界を遮る大きなトレーラーが斜めに停まっていて、筆者はロック・バンドのツアーがそれほどに大層なものであることを実感した。あたりまえのことだが、多くの人々の尽力が積み上がって本作があり、そう思えば8800円は何と安いことか。40トンもの機材をトレーラーで運び、それを舞台に設置し、うまく録音出来るかを調べるという真剣な仕事ぶりの一方で、ザッパやメンバーたちは全力を尽くして演奏に臨んだ。そのチーム・ワークの完璧さがあっての本作で、表には出ない者も自分がすべきことに最大の努力をしている。金を払い、わざわざ会場に足を運んでくれる客を満足させることにはプロ根性が欠かせない。ザッパが麻薬撲滅のキャンペーンに協力したことは、麻薬によってプロ根性がないがしろにされかねないからだ。ミュージシャンや俳優はどうせろくな連中ではなく、麻薬や乱交は日常的にやっているだろうという世間の見方があることをザッパは知っていたが、では医者や教師、裁判官、政治家といった連中はどうか。アメリカでは彼らも麻薬にひどく汚染されていて、職業柄正しい判断を下すべき時にそう出来ないことがあるだろう。それでも麻薬を使うのかとザッパは曲を書いた。ザッパの音楽はとても醒めている。醒めていながらとても熱い。これは麻薬の力を借りずに心地よくなることを知っていたからだ。筆者もたまにそういう快感を覚えるが、その満足感は自力で得るもので、他者、また酒や食事といった体内に摂取するものとは関係がない。ルースがザッパと一緒に演奏しなければ、彼女はほかのミュージシャンと演奏したかもしれないが、ザッパとの共演は損得勘定で言えば明らかに得と考えたからで、自分と演奏するとキャリアに箔がつくと考えたはずだ。ザッパに見出されたエイドリアン・ブリューがその後デイヴィッド・ボウイやキング・クリムゾンへと移って行ったのは、より大きな名声を欲したからで、ビッグ・ネームに格があると思っている世間の見方に応じていた。ザッパ・ファンは少数派だが、それでもルースは40トンの機材運搬を目の当たりにして、自分の演奏の責任の重大さに慄いたであろう。
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 『ロキシー・アンド・エルスウェア』と同じく、本作にはザッパの語りが目立つ。それらは1曲として独立している場合と、曲の最後で次曲の題名紹介として含まれる場合とがあるが、今日の最初の画像ではショー1と2、そしてディスク4のリハーサル曲を全部掲げつつ、語り曲は黄色の線を引いて消した。また赤い線によって同じ曲を結びつつ、後出の同じ曲はオレンジ色で消してある。曲目冒頭の緑色の数字は同時発売されたハイライト版の1枚ものCDの曲順で、ショー1と2から選曲されていることがわかる。ハイライト版に含まれないディスク2の最初の曲「デュプリーの天国」は、ショー1では最長の19分の長さがある。ジョージ・デュークのソロから始まり、『チャンガの復讐』の「ナンシーとマリーの音楽」を想起させつつ、やがてザッパの指示によりバンドの混沌とした即興に移るが、デュークかナポレオンか、即興のヴォカリーズがある中、ザッパもデュークも「ビバップ」という言葉を発する。これは『ロキシー……』の「ビバップ・タンゴ」につながりそうだが、ショー2の「ファーザー・オブリヴィオン、パート2」が同曲の大半を構成していて、本作の演奏では「ビバップ・タンゴ」の題名がまだ定まっていなかった。話を戻して、5分経った頃にようやく「デュプリー」の主題が奏でられ、サックス、ベース、トロンボーンのソロが続き、一旦副主題があってザッパのギター・ソロの出番となる。いつもの調子で最初は模索するような感じで次第に熱を帯びる演奏が5分続くが、後半はドラムスがザッパの勢いに呼応して派手になる。同曲の後、アンコール的に「ディッキーは大馬鹿野郎」が歌われるが、その前に2分弱のザッパの語りと「ディッキーは……」のエンディングを客と一緒に歌う「サンクレメンテの磁気偏差の歴史」と題する曲がある。当時「サンクレメンテ」にはニクソンの別荘があって、そこは西のホワイトハウスとされていた。語りの中でザッパが使う「とても新しい」や「アップデート」という言葉からは、ザッパが全米が注目していたニクソンのウォーターゲート事件に注意を払い、ニクソン風刺の曲を書いていたことがわかる。語りにニクソンの名前は出て来ないが、誰もが「ディッキー」すなわち「リチャード」が「ニクソン」を指すことを知っていた。またこの演奏があった10月31日は、ウォーターゲート事件の裁判によって、ニクソンが民主党の電話を盗聴したテープを提出するように判決が下ったにもかかわらず、大統領特権でそれを拒否して10日ほど経ったばかりであった。『ロキシー……』のナポレオンが歌う「オー・ノー」の中で、ザッパはニクソンが11月17日に語った有名な言葉「わたしは詐欺師ではない」を合いの手を入れて語るが、結局ザッパは「ディッキーは大馬鹿野郎」を73,4年にはレコード化しなかった。様子を見ながら機会を逸したからだろう。
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by uuuzen | 2019-11-17 23:59 | ●ザッパ新譜紹介など


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