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●『フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア』その1
賛すべき代表の作家ということで豪華なチラシの表側に大きくルート・ブリュックの陶板作品が取り上げられているのだろう。今日は9月25日に東洋陶磁美術館で見た展覧会について書くが、その日の投稿「あ、カンナ、その4」ではその日だけで10回分ほどの投稿ネタを得たと書いた。



●『フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア』その1_d0053294_18281183.jpgこれは大げさではなく、好天でもあって気持ちのよい1日に多くのことを経験した。さて、御堂筋沿いに点在する彫刻群の中からザッキン作を目当てに北上し、東洋陶磁美術館に着いたのが閉館の45分ほど前であった。じっくり鑑賞出来なかったが、撮影が許可されていたので、全部ではないが説明パネルはカメラに収めた。本展はフィンランドとの外交関係樹立百周年を記念するためのもので、日本でもよく知られる布製品のマリメッコの紹介もあった。見開きのチラシは左右どちらも表表紙扱いで、右開き側が「フィンランド陶芸」、左開き側が「マリメッコ・スピリッツ」と題される。もっとも、筆者はいつもチラシをまともに見ないし、今回のチラシは会場に訪れた時に一部もらって帰ったきり、ようやくこの文章を書く段になって手に取っている始末で、会場にいた間、フィンランドの陶芸とマリメッコがどう関係するのかがさっぱりわからなかった。今もそうだが、それを今日から4回に分けて書くつもりでいる間に調べるつもりでいる。ところで、一昨日会期が終わった展覧会に伊丹市立美術館での『ルート・ブリュック展 蝶の軌跡』がある。「ルート・ブリュック」という名前がドイツ的で、これは筆者好みの作家かと直感し、同展を見に行こうかと思いながら、ほかに用事がないのに出かけるのが億劫でもあって、結局見逃した。そのチラシで紹介されていた図案化したライオンの装飾的で平面的な作品の色合いがかなり渋く、またそれもよかったのだが、「蝶の軌跡」の意味や蝶を題材にした作品が多いのかどうかわからず、それ以上調べることがなかった。それで、今日取り上げる展覧会のチケットやチラシによって、ルート・ブリュックなる人物が女性で、フィンランドの陶芸界で最も礼賛すべき作家として紹介されていることを初めて知り、やはり伊丹まで見に行くべきであったと悔いている。せっかく彼女の作品が本展で紹介されていたからには、会場内に『ルート・ブリュック展』のポスターを何枚も貼るなどして、彼女の本格的な作品がたくさん見られることを紹介すべきであったのではないか。伊丹は兵庫県で、東洋陶磁美術館を持つ大阪市としてはあまり宣伝したくなかったとすれば、せっかくのフィンランドとの外交関係樹立百年を祝う機会を重視していないと思われても仕方がない。また伊丹市立美術館で本展について紹介されていたかとなると、これは出かけていないのでわからないが、関連する展覧会であれば、チラシを置く程度ではなく、お互いに宣伝し合うことの相乗効果を美術館は意識すべきではないか。
●『フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア』その1_d0053294_18283889.jpg
 とはいえ、本展は7月13日からちょうど3か月という長期の会期で、筆者の出かけるのが遅過ぎた。もっと早く見ていれば『ルート・ブリュック展』と本展が補完的であることを知ったであろう。それはともかく、ルートは1913年生まれで1999年に亡くなったが、フィンランドの陶芸界を代表する人物が女性であることは、ムーミンを生んだとーべ・ヤンソンを想起させる。彼女は1914年生まれで2001年没で、同世代だ。また共通点を挙げれば「かわいい」絵を描くことで、ルートは20代半ばの4年ほど、美術工芸中央学校でグラフィック・アートを専攻し、卒業後はイラストレーターになった。そのことからチラシにデザインされた彼女の陶板「聖体祭」に納得が行くが、陶板で表現することは紙にイラストを描くこととは技術的に雲泥の差がある。ここは重要な点で、日本でもイラストレーターは無数にいるが、手に取って鑑賞出来るモノとして作品を考えた時、今では容易にインクジェット・プリンターで再現出来る紙のイラストとは違って、いわば立体的でまた触感を伴なう作品を手で生み出すことの出来る才能はうんと少ない。ルートの「聖体祭」が紙に描かれたイラストであれば、さして感動を呼ばないはずで、さまざまな色合いの透明な釉薬が陶板上に浮彫りされた輪郭線を境にして溶け込んでいることの目の楽しさが作品の大きな持ち味になっている。最初に絵が重要であることはもちろんだが、その後、それが陶板になるまでにはそれなりの広さを持った工場的な工房や、また技術や工程が必要で、誰でも簡単に作り得るものではない。その絵画とは大いに違う複雑な技術と工程を経ることで、ほかの方法では得られない独特の味わいを持つ。そこが工芸の見どころだが、そういう持ち味は画像をもっぱらパソコンで見ることに慣れている現在、理解されにくくなっている一方、希求されてもいるのではないか。人間の手指がパソコンやスマホしか使わない状態ではいずれ頭脳が劣化するのは間違いがなく、手先を器用に動かす必要のある工芸の重要性は将来もっと重視されるように思う。今の小中の義務教育で図画工作の授業があるのかどうか知らないが、試験のための暗記が優先され、またそれで高得点を得た者が世の中をリードしていく社会の国家は、滅亡が早まるだろう。だいたい、ただの物知りはきわめて退屈な人種だ。彼らの手書きの文字がどの程度に無様で、また絵を見る才能に劣るかを筆者はこれまで何度も実感して来たが、手技による美を知らないことは、何を面白くてこの世を生きているのかと思う。話をルートに戻す。今日の最初の写真はチラシ表に大きく印刷される「聖体祭」の一部で、ヴェールに細かい文様が埋まり、これは後年の彼女の作風を暗示している。また彼女の陶板は本展で紹介された、1915年生まれで88年没のビルゲル・カイピアイネンという男性作家の影響を受けた。
●『フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア』その1_d0053294_18290423.jpg 「聖体祭」は1952、3年の作で、ビザンチン風はビルケルの影響と見てよい。筆者はビルゲルの作品が本展では最も印象的であった。ルートよりも色彩は明るく、作風は華麗で、ルートの評価のほうが高いのは、おそらく彼女の後年の作が重視されるからではないか。作家として彼女のほうが作風を広く展開し、またフィンランド人の好みに合っているからだろうが、ルートの作品にある鬱蒼とした森の雰囲気を好む人とそうでない人がいるだろう。今日の2枚目の写真は上がルートの「聖体祭」の全体像で、横が140センチほどで大小の陶板を7枚組み合わせている。下もルートの作品であったと思うが、ビルケルかもしれない。3枚目は上がビルケルで、陶製の板を組み合わせた立体作品だ。下もビルケルで、蝶が描かれるのはルートに影響を与えたか、あるいは与えられたかもしれないが、細かいビーズを使うレリーフ的作品も彼の特徴で、後年のルートの作も半立体化して行く。その萌芽が陶板上の浮き上がった線と見ることも出来る。ビルゲルの作品はルートよりも女性的かつ繊細で、それは持病があって轆轤を引く体力がなかったためだ。それで陶板に向かったが、会場の説明によれば彼はモダニズムに反する装飾過多で、その唯一無二の作風はルネサンスやビザンチン美術の影響が大きく、バロック、マニエリスム、シュルレアリスムも反映されている。陶板は日本の陶磁界ではほとんど作家がいないのではないか。タイルは日本の家屋でよく使われるが、1枚ずつに手で模様を施して焼くという作家はいないと思う。そこでビルケルやルートの陶板の技法について簡単に書くと、線が浮き彫りになっているところが釉薬を堰止める効果を担っていて、これは友禅染とかなり似ている。友禅は糯糊を生地上に盛り上げて線引きし、それが乾燥してからその線の間に染料を挿す。彩色後はその糊の線を水で洗って除去するが、ビルケルらの陶板は線として盛り上がったままだ。この線はどのようにして引くか。友禅のように筒に糊ではなく土を入れ、それを土の板の上で絞り出せばいいが、それでは量産出来ない。ビルケルらは1点ものの陶板を作らなかったようで、石膏板上に下絵を描き、その線を彫った後、石膏板に柔らかい泥状の土を流し込んで陶板を作り、そして浮彫になった線の間にさまざまな釉薬を流し込んで焼いた。これはビュランを使用した銅版画から着想した技法と思うが、石膏板があればいくらでも量産可能で、またそれらは釉薬を変えることで色違いの作品を作ることも出来る。石膏の型に泥を流し込んで土人形を量産することは日本ではごく普通に行なわれていて、またそれらは1点ものとは違って安価な商品に用いられる技法だが、ルートやビルケルがどれほど量産したかはわからない。作家の意識が強かったので、ひょっとすれば1点制作か、また数部という少数生産であったかもしれない。
●『フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア』その1_d0053294_18301363.jpg

by uuuzen | 2019-10-22 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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