始発ではなかったが、早朝の電車で帰宅したのが5月5日であった。筆者はめったに外泊しないが、前夜の阪急の最終電車が動かなかったために、仕方なしに大阪の天六で泊まった。
4日の晩はライヴハウスでニエリエビタさんや明石のSさんらと話を少しし過ぎた。弦花さんの演奏が終わってすぐに地下鉄に乗っていれば天六駅で阪急に乗り継ぎ出来たかと言えば、改札口で駅員に訊くと、三国駅で事故があって1時間ほど電車は動かないままと言っていたので、どの道、その夜は京都に帰ることは出来なかった。そういう「飛び出しボーヤ」的な予期せぬことに遭遇することがたまにはある。ただし当夜は災難ではあったが、楽しい出会いも得られた。改札口で困惑する大勢の客の中に桂駅に帰りたいと駅員に訴えている20代半ばの小柄な女性がいた。筆者は自分もそうだと声をかけたところ、彼女もライヴを見ての帰りと言う。筆者は改札の外、彼女は内側にいたまま30分ほど電車を待ち、彼女はプラットフォームに電車が入って来るたびに階段を下りてそれが淡路方面に行く電車かどうかと確認しに走ったが、最終電車が出る時刻になってもその電車がやって来なかった。それがわかった途端、彼女は改札口のすぐ外に店の看板が立てられているのを指し示し、そこに行こうと言う。そして改札を出て、筆者を連れて駅の外に駆け上り、その看板の「快活クラブ」という仮眠可能な施設に直進した。改札で最終電車を待っていた他の客が同店にやって来るはずで、先を越されれば入店出来ないとの判断だ。店のフロントで彼女は要領を得ない筆者を横目にタブレットへの個人情報記入を逐一手伝ってくれた。そして彼女は女性専用室に泊まり、翌朝5時に筆者を起こしてくれることになった。狭い部屋に入った筆者は、まず備えつけのパソコンで2、3人にメールを送り、それから眠ることにしたのはいいが、慣れない空間でほとんど一睡も出来ないまま、気づけば朝の5時になっていた。それで女性専用室の前に行くと、彼女がそこにいるのか店を出たのかがわからない。フロントに訊くとまだ出ていないとのことで、筆者は無料のドリンクを何杯か飲みながら、店内をうろついて1時間過ごした。ちょうど6時に彼女は出て来た。ふたりで食パンを焼いて食べ、それからチェックアウトして地下の天六駅から阪急電車で京都に帰った。がら空きの車で彼女と話が弾んだが、驚いたことに彼女はEulalieと称するエレキ・ギターを演奏しながら歌うミュージシャンで、しばしばライヴハウスで演奏すると言う。また2週間後の17日に西院のネガポジで演奏すると言うので、彼女に予約してもらい、見に出かけた。
その日の感想は20日に書いた。そして次に彼女に会ったのが昨夜のAnnie‘s Cafeだ。彼女は演奏しなかったが、店の手伝いをした。そして先月4日に筆者が彼女に話した金森幹夫さんとも面識が出来た。
先日の投稿
「平川晋とZERO RECORDS」だが、金森さんによるFACEBOOKでの呼びかけにより、すぐに判明したことがある。まず平川晋は名古屋在住とのことだ。それ以上のことはわからない。また彼の住まいで出会った若い女性と彼女のEP盤だが、彼女の名前はアリス・セイラーで、伏見の中書島でカフェを経営している。EP盤は記憶どおりに栗とリスが描かれるが、「栗とリス」という題名ではなく、「アマリリス」だ。そう言えばその題名であったことを思い出す。そして筆者が彼女に「栗とリス?」と訊いたのであった。次に、昨夜のAnnie‘sでのライヴへは前回同様、JR1本で行くことにした。片道240円で、私鉄と地下鉄を使う半額だが時間は倍かかる。ただし、京都駅からの乗り継ぎは便利だ。また稲荷駅からAnnie‘sまでは、地下鉄のくいな橋駅からの距離とさほど変わらない。全く運動不足の筆者であるので、たまに外出して大いに歩くのは大歓迎だ。それに「平川晋と……」に書いたことを確認したくもあった。新高瀬川沿いの神社の名前を知りたかった。それで前回すなわち先月24日に歩いた時と同じ道をたどり、同じように祠前に停められている車を気にしながら祠の前に立つと、思っていた名前がどこにもない。ふと右下を覗くとそこに50センチほどの高さの自然石があって、その表面に「三吉〇〇」の文字が見えた。そこで思い出した。24日もそれを見たのに、頭の中で「龍王」や「白龍」を思い浮かべ、そういう水に因む名前の神社かと想像し、それが刷り込まれた。正しくは「三吉明神」のようだ。さて、先月24日のAnnie‘sからの帰り、JR嵯峨嵐山駅を少し南に下がった右手のとある店の階段に、「飛び出しボーヤ」が待ちぼうけしているような石像を見かけた。その時に撮影しなかったことが気がかりで、今度こそは写真を撮ろうと思った。もちろんAnnie‘sに向かう時のまだ明るい陽射しの中でもそれを見たが、周囲に客がいた。それに石像はのっぺらぼうではなく、線彫りに墨を入れて漫画的な表情を加えてあった。それは撮影する気になれず、最初に見かけた深夜の孤独な「待ちんボーヤ」としての姿を収めたかった。撮影後、誰も擦れ違わない夜道を早足で自宅に向かった。中ノ島小橋の上でまた暗い川を見下ろすと、ホタルはいなかったが、「風風の湯」の前から20代半ばの女性が筆者に声をかけながら走って来た。「ホタル、つかまえましたよ」。そう言って彼女は筆者の真横に立って掌をそっと広げた。ホタルは4,5秒、青緑色の光を放ち、そして羽をパカッと開いて闇にすーっと浮かび上がった。彼女は筆者に「お気をつけて」と笑顔で言い、別れた途端に暗闇に消えた。物騒な世の中で、彼女は筆者が怖くなかったのだろうか。そう言えばEulalieさんも初対面で筆者は信頼出来ることがわかるといった。人畜無害ということだ。