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●『謎の蒔絵師 永田友治 尾形光琳の後継者を名乗った男』
属が何代目か、あるいは師弟関係のあった人物の作品であるかといった問題がまだ完全に明らかにされていないが、「永田友治」という蒔絵師が江戸時代にいたことを広く伝えるだけでも本展は意味がある。



●『謎の蒔絵師 永田友治 尾形光琳の後継者を名乗った男』_d0053294_15210270.jpg今日は内覧会が催された今月7日、家内と訪れたMIHO MUSEUMでの永田友治展について書く。雨天で鑑賞者は少ないかと思ったがさほどでもなく、送迎バスの1号車は長蛇の列で、ぽつぽつと横入りする人を凝視して注意する勇ましい女性がいた。鑑賞者の数はいつも内覧会の6,7割で、有名でない蒔絵師と雨天が影響した。なお、「友治」の「友」は右肩に点を伴なうが、本投稿では「友」としておく。江戸時代の作家ものとしての蒔絵作品は光悦がよく知られるが、蒔絵は当然江戸以前にもあって、大いにヨーロッパに輸出された。そのため蒔絵は日本の代名詞となったが、日本ではキモノ以上には馴染みがない。大変な手間を要する職人仕事で、作品がとても高価でもあるからだ。筆者は蒔絵作家となると、明治に金沢に生まれ、人間国宝になった松田権六や、江戸時代では光悦の作品程度しか思い出せないが、考えてみればそれは不思議なことだ。光悦以降も蒔絵は大いに需要があったはずで、またあらゆる工芸が盛んであった京都が本場であったことは容易に想像出来る。ところが、目立った作家や作品はほとんど見たことがない。その穴を埋めるのが永田友治のようだ。ただし、文献上は友治一代限りだが、子孫の作品が混じっている。一方ではまだ埋もれている作家もたくさんいるだろうが、それらが注目されないのは収集家や研究家がいないからだ。作品が少ないというのは早合点で、探すと続々と出て来る。どのような工芸品にもそれなりに収集家は存在するし、いなければその隙間を狙って収集を始める人もいる。そして、作品はある程度手元に集まると、骨董屋仲間で評判となり、初だしされたものが真っ先に持ち込まれもする。後世に伝わりにくい消耗品と違って、蒔絵の商品は高価であるので、何代にもわたって大切に保存されることが多いだろう。そのことは本展からもよくわかった。ところで、「光琳の後継者を名乗った」というキャッチ・コピーを最初見た時、たぶん明治から戦前に活動した、自分の才能を過信した法螺吹き蒔絵師を思って嫌な気がした。永田友治という名前が江戸時代とは思えなかったからだが、生誕は寛文5年(1665)から延宝3年(1675)、没したのは宝暦年間(1751-64)と推定されている。光琳より7歳から17歳年下で、30数年長生きした。また友治は光琳と同じ「青々子」や「方祝」の印章を使っている。結論を書くと、永田友治は工房をかまえ、京都から大坂に拠点を移したようで、光琳とは違ってほとんど情報がないが、近年の研究で生没年が推定された。
●『謎の蒔絵師 永田友治 尾形光琳の後継者を名乗った男』_d0053294_15215349.jpg
 会場では友治の家系図が紹介された。友治以降、小兵衛、文五郎、幾次郎など、2015年に亡くなった昌三(号は習水)まで8代続いたが、「御蒔絵塗師 永田友治」や「塗師 永田友治」と署名する作があって、前者は小兵衛、後者は友治と制作時期が重なる人物ではあるものの、「御塗師」とは署名せず、友治とは別の人物と考えられている。こうした研究は共箱の箱書きや作品を包むタトウ紙にある商標印を参考に贋作を除外し、また基準作を設定して進めるが、図録の解説によれは友治の作は多くが飲食具で海外流出は多くないらしいが、ここ40年は増加傾向にある。戦前の売立目録には40点ほどが確認されるとのことで、これは多いとは言えない。琳派風の意匠と「友治上げ」と呼ばれる錫粉による仕上げが特徴とされ、模倣作や、全く異なる作風の後代の作も混じる。代表作は図録の裏表紙やチケットに印刷される「槙鹿蒔絵料紙箱」とされるが、「友治上げ」が見られず、基準作でありながら標準作ではないという問題がある。友治の作が琳派風となれば、意匠の点では見るべきものがないように思えるが、多彩な色合いやまた琳派風でない表現もあって、見て楽しい。それに作った当時のままの輝きを見せている。これは独自の合金を案出したためで、また緑色地を刷毛目の跡を見せて塗ったものなど、技法的創造に富む。ひとりの蒔絵師が意匠も技法も革新することは難しい。工房をかまえれば意匠の創出に専念するか、専属の意匠家を雇えばいいが、当時の蒔絵の意匠は琳派文様の人気が圧倒していたのだろう。そこで、友治は色目で華やかさを発揮するために技法に凝る道に進んだのだろう。それも大したもので、普通はそのような失敗するかもしれないことを避け、従来の技法を踏襲する。最近堂本印象美術館で印象の兄の漆軒の作品を見た。彼は新しい図案を創出する時代に応じた斬新な意匠を使ったが、代表作と目される豪華客船の一等食堂内の蒔絵飾り扉は琳派模様だ。そのことは琳派文様が明治まで脈々と引き継がれて来たことを示し、またそれは主に画家の系譜による一方、筆者が知らなかっただけで、蒔絵の分野で友治やその系譜があったからだろう。つまり、漆軒は友治の作品を知っていたと思うが、それだけに琳派丸写しの作を快く思わなかったことが想像される。新時代には新感覚の文様が流行すべきだが、琳派は明治になっても人気があり、現在でもそうで、漆芸以外にも使われる。だが、やはり江戸時代特有の感覚で、それは筆の感覚だ。漆軒の時代になると、印象の書はもはや筆しか使わなかった時代の能書では全くない。筆に代わる筆記用具が豊富になると、いかにも筆によるくねくねとした琳派模様は古風な感じがする。またそれが新時代に斬新に思われて今後も琳派模様は何度も復活するはずだが、江戸ブームが何度も今後繰り返されることと同じで、その脈絡に友治の作品がすっぽりと収まる。
●『謎の蒔絵師 永田友治 尾形光琳の後継者を名乗った男』_d0053294_15222340.jpg 抱一の『光琳百図』や芳中の『光琳画譜』から図案を丸写しした友治の蒔絵作品と、元の絵との比較から友治らしさ、つまり琳派における友治らしさがうかがえるかとなれば、絵を蒔絵に移していることによる差異の面白さはあるが、それは原図をわかりにくくしていることも多々あって、成功ばかりとは言えない。また友治はそうした元の図を大胆に変化させる意図はなく、持ち味は琳派の図案を引き写ししつつ、それを蒔絵商品としていかに完成度を高くするかにあった。そのことは代が継がれる間に尻すぼみになり、やがて天才の松田権六の出現によって古臭いものとなって忘れ去られたと思えるが、光悦や光琳の後、松田権六までの空白はあまりに長い。そこに友治を持って来ると日本の蒔絵がどういう経緯をたどって権六に至ったかがよくわかる。また、友治の作は色合いや文様が多彩で、若冲を思わせるものもあった。それが3枚目の写真で、上は「梅樹蒔絵盃」、下が「鶏頭蒔絵盃台」だ。どちらも写生風で特に後者は若冲画を彷彿とさせる珍しい画題で、円に沿ったせせこましい区域にうまく鶏頭の花を湾曲させて収めている。それは写生風の菊やその他の植物でも可能であったはずが、わざわざ鶏頭を使っているところに個性を旨とする作家の自負を感じさせる。また前者は大中小の3枚組で、どれも文様が違っていて、その様子は若冲が最晩年によく描いた梅図の小品の連作とそっくりだ。これは友治が若冲画を参考にしたのではなく、生没年からして逆で、若冲画をこうした工芸文様との関係で眺める必要性も感じさせる。本展には盃台がたくさん展示された。これは盃を載せる台で、四角いものある。今はめったに盃で酒を飲まないのでこうした台を見かけることもないが、盃と文様が統一されているものもある。江戸期の文書に友治の盃が1両という記述があり、庶民には手の届かないものであった。ところが、幕府の倹約令によって豪商が減少し、友治は製作費を抑えるためにも金や銀の代わりに安価な合金を使うようになったとされる。そのことが新しい色合いや雰囲気の蒔絵を生み出したから、この点はどの時代の作家にも逆境を逆手に取る必要のあることを教える。蒔絵は工芸の中では陶磁に次いで、手入れを怠らなければ新品同様の状態を保てるが、本展での展示作品の大半は共箱つきで、販売当時のタトウ紙もあって、未使用かと思うほどに新品に見えた。それはにわかには信じられないほどで、いかに日本人が古いものを大切に扱って来たかがわかる。これは大量生産される消耗品が後世に残りにくいことや、宝と呼べるものは技術と贅の限りを尽くしたものであることを一方で説明する。3枚目の写真は右が「漆絵菓子椀」、左が「燕子花蒔絵螺鈿菓子盆」で、前者は外側は無地で、蓋の裏と椀の見込みに同じ文様を描く。後者は背景の金粒を一粒ずつ手で置いた「置平目」の技法が面白い。
●『謎の蒔絵師 永田友治 尾形光琳の後継者を名乗った男』_d0053294_15232481.jpg

by uuuzen | 2019-06-16 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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