菖蒲がたくさん咲いていた畑は今年は数えるほどしか花が見えない。すぐそばにアパートが出来て、畑の持ち主は菖蒲の世話をしなくなったのだろう。あるいは世話する人がいなくなったかだが、それは大いにあり得る。
筆者の世代になると、何事もいつまでもあると思ってはならないことを感じさせられることが多い。何年も会っていないことが気になっている人が何人かいるのに、思うだけで年月が過ぎ去る。今年こそはそういう人を訪ねて心行くまで話したい。昨日アレックスからメールがあり、ザッパには関係が深いアニメーション作家のブルース・ビックフォードが亡くなったとあった。4月28日没で72歳であったという。3年前の1月に開催された高松でのメディア・アート祭に彼の粘土アニメの原型となった小さな人形が展示されるというので、家内と出かけた。そのことは当時のブログに書いたが、ブルースは高松に退屈して東京の渋谷に行ったとかで、ブルースが信頼している若いアニメ作家と、ブルースの作品を日本に招聘した日本の若者のふたりが部屋にいた。後者の話によれば、前者はブルースの遺産を引き継ぐことで話がまとまっているとのことで、子孫を残さなかったブルースは信頼出来る若者に後を託すことが出来た。ブルースは日本の旅をどのように感じ、またそのことを作品に盛り込んだのか、その予定があったのかわからないが、わずかでも日本を見たことは気晴らしになったのではないか。あるいはひたすらアトリエに籠って粘土アニメやまたライン・アニメの制作に勤しんでいる時だけが至福であったとも考えられる。作家たるもの、ザッパの言った「黙ってギターを弾きな」のように、制作に込める時間こそが勝負としてものを言う。費やした時間の多さはそれの少ない人を圧倒するのはあたりまえで、すべての時間を制作に関連づけて考える人から本当の芸術的な作品が生まれる。アレックスはブルースへのインタヴューを制作中のザッパのドキュメンタリー映画に含めており、それがおそらくブルースの最後の元気な頃の公となる姿であろう。今回のメールにアレックスはそのブルースへのインタヴューから写真を1枚添付している。その左右を少し切り取って今日は載せるが、かなり疲れているように見える。ザッパのDVD『BABY SNAKES』に登場する若い頃の姿とは同一人物に思えないが、今は簡単にYOUTUBEで数十年の開きのある姿を見比べることが出来ることは、何となく人間をごく小さな、一瞬の存在に錯覚させる。そして実際そのとおりだという気持ちにもさせるが、作家であればその人の風貌の変化はひとまずどうでもよく、作品によってその人を偲ぶべきで、筆者はブルースのDVD『CAS‘L’』を買っておいてよかったと思っている。今でも通販で簡単に買えるはずだ。