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●『大徳寺龍光院 国宝 曜変天目と破草履』
が夜空の星か深海の小さなクラゲのように紺色の茶碗の底にたくさん散らばっている。その曜変天目茶碗が展示の目玉である展覧会が来月19日までMIHO MUSEUMにて開催中で、先月20日の内覧会に訪れた。



●『大徳寺龍光院 国宝 曜変天目と破草履』_d0053294_00192114.jpg「風風の湯」の常連の81歳のMさんを前もって誘ったところ、見に行きたいという返事であったのが、前日に確認に訪れると、娘さんとゴールデン・ウィークに行くとのこと、それで家内と行くことにした。これまでの内覧会としては人は多めで、また上品な人が目立った。帰りのバスが京都駅に着こうとする頃、家内は隣りの補助席に座っていた70歳前半の知的で上品な女性に話しかけた。東京からやって来たとのことで、すぐに東京に戻って夕方にサントリー・ホールで有名な外国の指揮者が振るコンサートを聴くと言う。時間も費用もかかるから、裕福でなければ彼女のように美術や音楽を楽しむことは難しい。人間は年齢を重ねるほどにますます棲み分けが明瞭になる。たとえば先の女性のような人と出会うには、それなりの場所に行かねばならない。これは10年ほど前だが、JR芦屋駅のすぐ近くの画廊で知り合いの染色展があった。それを見に行くと、芦屋で有名だとされる高齢男性を紹介してもらった。大金持ちであるのは当然として、温和で貫禄充分、また芸術に特に詳しいのではないが、それに携わっている若い人を援助する気がまえを持ち、筆者も芦屋で個展する際は声をかけてほしいと言われ、名刺をもらった。それ切り会っていないが、当時70代後半であったはずで、もう亡くなったかもしれない。それはさておき、知人の知人を紹介してもらうことで人脈が広がるが、紹介してもらえるのはそれなりの魅力があるからだ。また、相手に好感を抱いてもらわねばその後の交友は発展しない。才能も人に好かれることも若い頃は勢いでどうにかなるが、40代以降となると、会った途端に相手に値踏みされ、年齢に応じた知性が必要となる。知的な人とのつながりは、たとえば茶道を学ぶとよいとされる。確かにそうだろう。茶の湯に関心のない人は、それなりの人脈の中で不自由を感じない。たとえ別世界の住民と話すことがあっても、お互い居心地の悪さを覚えてそれ以上の関係にはならないだろう。それが物足りないと思う人は自分を磨き、社会的地位のある夫を得て、やがて前述のバスの中で出会った女性のようになる。とはいえ、筆者は茶道に関心はあっても、人に就いて教えてもらったことはなく、別世界の知的な住民との交友もない。またそれでいて、知性を軽んじる人とはあまり話したくない。「風風の湯』の常連客で曜変天目を知っている人は81歳のMさんだけだが、これは年の功の問題ではない。知っている人は10、20代で知ったはずで、その頃から知性の差はどんどん開いて行く。そしてやがてお互い別世界に住み、出会うことがない。
●『大徳寺龍光院 国宝 曜変天目と破草履』_d0053294_00201559.jpg
 2年前だったか、TV番組で陶磁器の有名な目利きが、中国では二束三文で売られている茶碗を曜変であると鑑定して、曜変にしては格安の1500万円ほどの価格をつけた。Mさんはもちろんその番組を見て、専門家の鑑定が当てにならないことを筆者に話したが、筆者もその鑑定された曜変に美しさがあるようには思えなかった。そういう話題があって、今回3館で曜変天目がそれぞれ展示されることになったのではないか。またその番組が放送された後、曜変天目茶碗の復元を手がけている陶芸作家がTVで何度か紹介された。父親が復元に命を賭けたことは『芸術新潮』を昔よく読んだ人は知っているが、その父の意思を継いで息子が制作している。藤田美術館が所蔵する曜変天目に匹敵するものを目指していて、なかなかいいところまで再現出来ているように思えるが、これは人によって評価が違い、Mさんは厳しい意見を言っていた。国宝と見分けがつかないほどのものが出来れば、その人はいっぺんに億万長者になるかと言えば、本人は金は二の次で、誰も復元出来ない曜変を作って自分の考えが正しかったことを証明したいのだろう。国宝と同じ程度かそれ以上の美しい曜変が作られるようになった時、国宝の曜変の価値が下がるかと言えば、それはない。オリジナルの強みと、伝来が重視される。美術品はこのふたつが大事だ。曜変が再現出来ても、それはオリジナルの複製であり、伝来の点では全く新しいものであるから、国宝級になるには千年は必要だろう。また、同じようなもの無数に作られるとなると、もはや日用品扱いだ。曜変天目は宋時代に作られ、現在まともなものは世界に3点のみで、どれも日本の国宝になっている。特に本展の龍光院のものは見る機会は珍しく、筆者は初めて見た。東京の静嘉堂文庫美術館にあるものが豹の斑文様のようで最も迫力があり、その次に大阪の藤田美術館のものが美しい。どちらも筆者は見たことがあるが、前者は今月13日から6月2日まで静嘉堂文庫美術館、後者は同じく13日から6月9日まで奈良国立博物館で見られる。現在のゴールデン・ウィーはとても賑わっているはずで、まともに見られるのは10秒ほどだろう。東京は無理で最初から諦めているが、今のところ、後者も展覧会のチラシを見るだけで我慢しておく。曜変天目は実物より拡大した写真図版は実物よりきれいに思えるが、実物は見る角度によって輝きが変化し、立体の迫力はさすがにある。貝を使った螺鈿細工の光沢がそれに似るが、茶碗を覗き込む丸い面全体に不規則な小さな泡のような円形が散らばり、蒼穹の星座のような宇宙観が感じられる。しかも天目茶碗は直径12センチほどの小ささで、それを両手で包み込むと自分が宇宙の神になった気分だろう。国宝なので、その茶碗を実際に使うことは許されないと思うが、それで茶を飲めばどんな気分だろう。
 本展の図録はMIHO MUSEUMのものでは最も分厚いと思う。5センチだ。チラシから引用すると、龍光院は大徳寺の塔頭で、武将の黒田長政が父の菩提を弔うために慶弔11年(1606)に、堺の豪商で茶人の天王寺屋・津田宗及の次男であった江月宗玩和尚を開祖として建立した。当時の龍光院は小堀遠州や松花堂昭乗ら一流文化人が集う寛永文化の発信地であった。天王寺屋伝来の名峰は大坂夏の陣の難をくぐり抜けて、多くが江月和尚の住する龍光院に寄進され、現在まで伝えられている。400年間、散逸を免れたことは博物館や美術館より歴史が長く、いかに代々の住職が大切にして来たかがわかる。分厚い図録は大半が茶道具の紹介に充てられるが、書や絵画もある。また、曜変天目以外の有名な作は、重文で牧谿筆の「柿・栗図」がある。図録には大阪市立東洋陶磁美術館の小林仁という人が書く「奇跡の器―曜変天目の伝世品と出土品」と題する論文がある。前述の曜変天目の復元を目指している作家は中国に何度も赴き、曜変天目の窯跡を調べ、同じ土を輸入して焼いている。図録には2009年と2017年に杭州で出土した曜変天目の破片を継いだ写真が紹介されるが、前者は全体の7割ほどで、後者は全体の3分の1のみだが、どちらも曜変であることがわかり、特に前者はとても美しい。この破片は南宋の宮廷遺跡から出て来たもので、日本の国宝の3点も南宋の宮廷への献上品と考えられる。また日本には国宝の3点以外に曜変とされる天目茶碗があり、MIHO MUSEUMがその1点を所蔵する。小堀遠州による箱書きに「曜変」とあるが、顕微鏡で見ると、東洋陶磁美術館で国宝の油滴天目と同じ斑紋で、江戸時代は「油滴」を「曜変」と混同していたことがわかる。徳川美術館にも「曜変天目」があるが、これも実際は斑紋が細かい「油滴」だ。曜変天目の復元を目指している作家は何人もいるようだが、前述のTVで紹介された作家の仕事ぶりを見ると、まるで錬金術で、しかもかなり広い作業場に大きな窯も必要で、しかもわずかに窯に投げ込む触媒は数秒違っても駄目という厳格さで、計算どおりに行くことを信じながら、運も作用するという賭博のような仕事に見えた。南宋の無名の陶工もたまたま出来た素晴らしい曜変天目を宮廷に献上したが、その神秘的で輝く美しさのお陰で日本では大事にされ、今に伝わる。これは有名な作家が作ったから素晴らしいのではなく、作品そのものが復元がほとんど不可能で、また誰もが魅せられる美があるからだが、今はそういう作品を作る人がどれほどいるのだろうか。またいるとして、その人の作品は国を代表する人に大切にされなければ、いずれ巷のゴミと化する。写真をネットに保存してもそれは単なる影だ。断捨離ブームでは重文や国宝の何が美しくて大切かを考えない人が多い。
by uuuzen | 2019-04-27 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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