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●大阪天満の音凪にて、Mujika Easelと長濱礼香と鈴木庸聖の共演
されたと思って食べてみ」と勧められると、食べた後に騙されたとは言いにくい。まあ、そこは人によりけりで、遠慮なしに思ったことを口にする、正直だが思いやりのない人もいる。筆者は気弱で相手を傷つけたくないので、おいしくないと思っても「まあまあ」と答える。



となると筆者の「まあまあ」は否定を意味することになるが、人から勧められるのではなく、自分から進んで食べた場合は勘の鈍さを認めたくないので、「まあまあ」は「最悪」、「よかった」は「まあまあ」ということになりそうだ。それはさておき、筆者は「騙されたと思って聴いてみ」と人に言った記憶がない。ブログで誉める場合は他者に勧めていることになりそうだが、筆者の独白に過ぎない。さて、先週の土曜日、神戸で展覧会を見た後、梅田に出て天満の音凪でライヴを見た。今日から3日連続でその感想を書く。自分の意思で出かけたので、「よかった」と書けば「まあまあ」、「まあまあ」は「いいところがほとんどなし」になりそうだが、筆者は気弱で相手を傷つけたくない一方で正直と思っているので、「よかった」も「まあまあ」も額面どおりに使う。店内は予想とは違って間口がとても狭く、またすし詰め状態の満席であった。筆者は店の最奥のカウンター席に案内され、隣りに会うのが4回目の高槻のOさんが陣取った。来るはずと思っていた明石のSさんは演奏が始まってから姿を見せ、そしてライヴがすべて終わった後もお互い移動が困難で、話が出来ないままに別れた。演奏を聴く段になると身を180度転回させて演奏者に対峙したが、筆者から1メートルと満たない位置での演奏だ。最初に登場したのは男女3人組で、普段は各人がソロで活動し、CDを出しているという。たまたま一緒に演奏したのを店主が聴いてライヴが実現した。ネットでは3人の名前が+記号で表示されているが、筆者はこれが嫌いだ。複数の人間を+記号で表示することは数十年前にどこかの粋がった愚か者が始めたが、筆者が誰かと何かの催しに名を連ねることがある場合、この表示であれば訂正させる。個性ある人間を数学のように+記号で表示してはいけない。では×ならいいかと言えば、それはセックスする場合にはいいだろう。つまり、誰かが誰かと性交することを公言したい場合、人名を×でつなげばよい。+も似たものだ。名前が+で結ばれると、筆者は肉体が重なる状態を連想する。古い人間はそのように考え方が頑固だが、古いものがなければ新しいものは生まれない。それに、新しいと思うことはたいてい昔にもっといいものがある。今日取り上げる3人組はそのことを熟知し、それで「騙されたと思って聴いてみな」との思いだろう。それはともかく、好きな音楽の傾向が違うらしい3人がトリオを組むほどに、ライヴハウスで活動する音楽家はつながりが密接なようで、画家とは違ってその分、孤独ではないだろう。
 最初に歌われたのは60年代の大ヒット曲「夢のカリフォルニア」だ。こういう曲を今の若い人は新鮮に感じるのだろう。筆者はカラオケでこれを昔歌ったことがあるが、オリジナルは録音がとてもよく、それをカヴァーするとどうしてもそれと比べる。その意味で3人の演奏はオリジナルにはない過激な編曲がほしかった。筆者の前に座って歌ったMujika Easelという女性はリコーダーでオリジナルと同じ間奏のメロディを吹き、また何度か音を外して練習不足を露呈した。彼女の左手の鈴木庸聖という男性、その左の長濱礼香という女性が時に歌を重ねながらアコースティック・ギターを奏でたが、そのギター・デュオはなかなかよかった。筆者は筆記用具を持参せず、記憶に頼って書くが、2曲目は「クルエル・シスター」で、これは長濱さんの推薦であろう。彼女は「CRUEL」を「狂える」に引っかけ、またバート・ヤンシュという知る人ぞ知る人の曲であることを紹介した。メロディの繰り返しが多い曲で、歌詞がわからなければかなり退屈だ。筆者はフェアポート・コンヴェンションを昔よく聴いたが、ペンタグルやバーンと・ヤンシュは名前を知っていただけで、これを書くために先ほどYOUTUBEでこの曲を初めて聴いた。YOUTUBE時代になって、「夢のカリフォルニア」と「クルエル・シスター」が同列で演奏される。前者は筆者の世代では誰でも知っているが、後者はほとんどの人が知らず、長濱さんが知ったのもネットが本格化した2000年以降ではないか。3曲目はカーター・ファミリーだ。戦前のアメリカの白人グループで、カントリー音楽で有名なことくらいは誰でも知っているが、今の若者に再評価されているとすれば、やはりYOUTUBEによって古典となった曲が自在に参照される時代であるからだろう。また、男ひとりに女ふたりならカーター・ファミリーと同じで、それで選曲されたかもしれない。曲名は記憶にないが、「Poor Orphan Child」であったと思う。流れからして4曲目はジョニー・キャッシュでも演奏するのかと思ったところ、もう少し時代が飛んでボブ・ディランの「ドント・シンク、トゥワイス・イッツ・オールライト」であった。邦題は「くよくよするなよ」で、とても有名なので説明の必要はない。この2曲は鈴木さんの選曲だろう。5曲目はロバート・ワイアットの「SEA SONG」だ。これはまた長濱さんが歌いたかったのだろう。イギリスの渋めの音楽が好みであることがわかるが、彼女は「不思議な曲で歌うほどに魅力がわかる」と言った。最後の6曲目はMujika Easelさんの選曲のはずで、ジャニス・ジョプリンの「ミー・アンド・ボギー・マギー」だ。ジャニスは何と言っても声量が圧倒的だ。それをカヴァーするとどうしても比べてしまう。カヴァー演奏は原曲の雰囲気に振り回されず、別のアウラの付与がほしい。
 カヴァー演奏であるので3人の個性は伝わりにくい。それを前提に下記にもう少し書く。「Mujika Easel」の「Mujika」は「Musica」のことだろうが、何語だろう。それの画架ということは、音楽を絵のように表現したい願望がありそうだ。キーボードを前に座っていたので、彼女は歌手というよりも鍵盤楽器奏者だろう。彼女は1オクターヴくらいしかない、玩具のようなアコーディオンも弾いたが、黒鍵がひとつ剥がれているのが見えた。またタンバリンを指先で静かに叩きもしたが、その音量はきわめて適切で微妙な音を大切にする気持ちが伝わった。また彼女の声はそれなりにいいが、朗々と歌うほどの声量はなさそうだ。さまざまな音色で曲を構成することに関心があるとすれば、今回のような3人組の演奏では本当の実力がわからないだろう。長濱さんの声は「SEA SONG」では耳をそばだてられた。彼女は細身で長身、長髪ではなく、歌手に美女を期待する向きからは目に留まらないだろうが、世界的に名声を博すポップスの女性歌手たちが美女であるとは限らない。ジャニス・ジョップリンも美人とは言えず、結局最も重視されるべきは独自の音楽性であり、それを保持することによる独自の味のある雰囲気だ。金森幹夫さんによれば、彼女は「いかんせん花おこし」というバンド活動をしていて、そこではエレキ・ギターを弾いている。YOUTUBEでその演奏が見られるが、実際のライヴを見ないことには何とも言えない。バート・ヤンシュやロバート・ワイアットの曲をカヴァーすることは、彼女の理想が垣間見え、またそうした曲の演奏は聴き手を啓蒙する点で意義もあるが、彼女のオリジナル曲がそういう一種の天才肌の音楽家を向こうに回しながら、どこまでその感化を消化しているのかという別の興味を聴き手に引き起こすかとなれば、まずは旺盛な創作活動が必要だ。ライヴハウスでのカヴァー演奏で未知の古典曲を知るのは、YOUTUBEのそれと同等ではあるが、後者はオリジナル・ヴァージョンが優先されていて、聴き手にとってはそれが一番よい。オリジナルを別の意味で超越しないカヴァー演奏は、カヴァー・ミュージシャンのファンでない限りは楽しむことは難しい。また3人は好みの音楽が大いに違うようで、その点でも付け焼刃を感じさせた。金森さんによれば鈴木さんはアメリカのジョン・フェイフィの影響を受けているとのことだ。長濱さんと同じように好みが渋いが、フィンガー・ピッキングの個性的な奏法を確立することが夢なのだろう。その点でカーター・ファミリーの曲をカヴァーすることもわかる。彼がシンガーソングライターかギタリストのどちらかは知らないが、前者を自称するのであれば作詞をどう考えているかだ。ボブ・ディラン張りの詩を日本語で書いて歌うことを目指しているとすれば、なかなか骨を感じるが、実際のところは知らない。
by uuuzen | 2019-02-21 23:59 | ●ライヴハウス瞥見記♪
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