●「FANTASTIK ALLEREDE(A FANTASTIC TIME ALREADY)」
険な雰囲気のある男が女性にもてるというのは本当か。女性もさまざまで一概にそう言えないが、一考すべき命題であろう。人間が狩りで生きていた頃はいつ獲物が得られるかわからず、男は生きるか死ぬかで常に賭けをしていた。



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それは危険と隣り合わせでもあって、その習性を今も男は本能的に持っているだろう。それで危険な香りのする男に女が魅せられるとすれば、それは本能のなせるわざと言える。ただし、口先だけうまい、本当の意味での危険な男がたくさんいる。賭けに勝つには危険を顧みないだけではなく、獲物を得るために技術を磨く必要があり、獲物の生態を知る学習や知識も欠かせない。そうした普段の努力があったうえで、賭けるという勇気がものを言う。そういう絶えざる努力を見ずに上っ面だけで男を評価する馬鹿女は今は大多数を占めるだろう。男が駄目になっている時代とすればそれは女の責任でもある。それはともかく、格好いい女性はどんな男にも注目されるが、そういう女性はだいたい目立つことを好むから、世間に存在が知られる場合が多い。芸能人がいい例で、人間が存在する限り、芸能に生きる人はなくならない。筆者は特徴ある声の女性歌手をとても好むが、今日は10年ほど前に知ったノルウェーのカリ・ブレムネスについて書く。このカテゴリーで取り上げる曲は原則的に10年以上聴き続けているものだが、カリのCDを初めて買った時、10年経って感想を書こうと考えた。その機会がやって来たが、カリの最初のアルバムと最新アルバムの2枚はまだ買っていない。今日取り上げるのは2003年に英語ヴァージョンが発表され、それが2010年にアレンジを新たにしてノルウェー語で歌われた曲で、彼女の曲の中では最もいいと思っている。だが、手元に16枚もアルバムがあれば好きな曲は多く、最近筆者はそれらを通して聴いてベスト・アルバムを作った。それをこの2か月パソコンで頻繁に聴いているが、ノルウェーの歌手なのでさすがに冬場は似合うからだ。家内は筆者がたまにカリの曲を聴いているのを知ると、「暗い」と言う。それは北方の辺境の国の生まれであれば仕方がないだろう。また暗いのではなく、渋いと言うべきで、大人の女の魅力がいいのだ。彼女は筆者より5歳下で、もう還暦を過ぎたが、それもあってか最新アルバムでは初めてジャケットが文字だけになった。容貌の衰えを気にしているのだろう。ところがホームページで近影を見ると、相変わらずスリムで格好よい。それに彼女は恥じらいを感じさせる。筆者は男としてとても彼女には似合わないが、長身で危険な香りを持っていれば、彼女を口説いて自分ひとりのために歌わせたい。そして今日取り上げる曲をデュエットしたい。そういう夢想を誘うのが女の魅力で、また夢想であるだけになお男は夢想に生きようとする。つまり、女は男の夢想だ。
d0053294_12570331.jpg カリのCDを買ったきっかけはムンクだ。筆者は西洋の画家ではムンクが最初にとても好きになった。中学1年生の美術の教科書に「叫び」がカラーで小さく載っていた。小学校の美術の教科書やまた月刊の漫画雑誌に載ったヴェラスケスやスーラなどの絵画の特製図版に注目したが、ムンクの「叫び」はとても変わっていて、その魅力は謎めいていた。狩りをして来た男は謎に直面するとそれを解明せねば命にかかわるから、必死でその真相を知ろうとする。筆者にとって最初の大きな謎は、同じ学級の好きな女子を除けば、ムンクの「叫び」であった。そしてその謎と似たものが絵画にはたくさんあることをやがて知った。もちろん女性においてもそうだが。「叫び」の謎を抱えたままでいたところ、10年と経たずして日本で最初のムンク展があった。また数年に一度は開催され、東京は別として、可能な限り筆者はそれを見て来た。今月半ばが最終日であったか、東京都立美術館で大規模なムンク展が開催され、図録だけでもと思いながらまだそれを入手していない。10年ほど前、ネット・オークションでムンク関連の本やグッズを買っていたことがあり、その時にカリのアルバムを知った。今もその1992年発売のアルバム『LOSRIVELSE』は格安で入手出来るが、ムンク展の大人気からしてカリのそのアルバムないし音楽がもっと脚光を浴びてよい。ジャケットはムンクの版画「マドンナ」だ。その点からしてもムンク・ファンは買うべきだが、嬉しいことにブックレットは全曲にムンクの版画がカラーで添えられている。また見開きジャケット内部は、右側のカリのモノクロ写真はムンクが描いた女性像「ブローチ」を思わせ、左側のムンクの肖像写真を笑顔で眺めるデザインになっていて、これがとてもよいが、カリが見つめるムンクはカリからそっぽを向くように配されている。それは女にもてたために発砲騒ぎによって指を負傷したムンクが、カリから言い寄られても避けるかもしれないことを暗示している。それはさておき、カリはなぜムンクに注目したかと言えば、ムンクは詩も書いたからだ。その詩に作曲したのはカリではなく別人だが、カリが歌うことで絶品に仕上がった。ムンクの絵に馴染んでいる人は、ムンクが詩も書き、それが現代のノルウェーの女性歌手によってどう解釈されているかを知るためにも、そのアルバムは必聴ものだ。そのCDが届いて聴いた筆者は、1曲目の冒頭から洗礼を受けた。音楽はそういうものだ。一瞬の出会いが長年を呪縛する。話を戻して、そのアルバムにはもちろん「叫び」という曲が入っている。これはライヴでもしばしば演奏され、筆者はそのヴァージョンを前述のベスト・アルバムに含めた。別人がまたムンクのその詩に作曲してもいいが、カリは自分がノルウェーを代表する歌手であるという矜持を持っているはずで、それは「叫び」の曲からもわかる。
 カリには兄弟がふたりいて、彼らとアルバムを作ることもある。それらはカリのアルバムと違ってフォーク色が強い。そこでノルウェーのフォーク・ソングはどの国に影響を受けているのかといった疑問が湧くが、筆者はあまり関心がない。兄か弟か知らないが、カリが兄弟のひとりとジャケット内部に写る写真を使ったアルバムを筆者は所有する。1980から82年の録音で20代半ばのカリの歌声を伝えるが、発売は93年だ。筆者はそのアルバムの最後に収められるレゲエのリズムによる「ロマンティック」が一番面白い。それは他のフォーク調の曲とは雰囲気が大きく異なる。つまりカリはフォークに飽き足らず、もっとポップな音楽に踏み込みたかった。前述の兄弟と写る写真はどこかカーペンターズに似て、いかにもフォーク・シンガーの身なりと顔つきで、そのことはYOUTUBEの動画からもわかるが、カリの最初のアルバム以降の表情はがらりと変わる。女はそれほどすぐに自分の雰囲気を変えることが出来るものだと感心するが、フォークっぽい印象よりもロックに近づいた彼女の方が断然魅力がある。またそのことで毎年のようにアルバムを出し、人気を世界的なものにして行った。ただし、全曲英語で歌うのは2作のみで、まだ知名度は世界的とは言えないかもしれない。ノルウェー語では訳せず、それがもどかしいが、英語ヴァージョンの曲からカリの曲の歌詞の世界はだいたい想像出来る。フォークから出発したので、ノルウェーの雄大な自然を歌ったものがあるが、やはりラヴ・ソングがなかなか面白い。その歌詞内容がカリの実生活を反映したものかそうでないかとなれば、たぶんどちらもあるだろう。また、恋愛に関係のない、去年11月3日にブログで言及した「コペンハーゲンのバー」のような曲もあり、フォーク・ソングでは歌えない世界を描いたものがカリの魅力となっている。またこれはCDヴァージョンよりもYOUTUBEでのライヴ・ヴァージョンが素晴らしい曲として、レナード・コーエンの「エヴリバディス・ノウズ」がある。その曲の歌詞に魅せられたはずで、それはカリの声域がコーエンと同様、あまり広くなく、ほとんど語り調であることにもよるだろう。ギター、ベース、キーボード、ドラムスの男性4人をしたがえてツアーをしていて、CDもだいたいその4人の演奏と思うが、アレンジが多彩でアルバムごとにがらりと雰囲気が違う。また「エヴリバディス・ノウズ」のカヴァーからわかるように、同じ曲をいつも同じように演奏しない。そのため、来日公演があればどのように過去の曲が違う演奏となるかが楽しみだが、まだ日本には来ていない。初期の頃は何枚か日本盤が出たが、人気が持続しなかったようだ。日本では若い女性の歌手はアイドルやその延長として人気を博すが、大人の女性の歌はあまり歓迎されない。
d0053294_12572703.jpg これはどのような有名ミュージシャンにも言えるが、カリのアルバムにはベスト・アルバムが何枚かある。それは最初に発表した時のヴァージョンをそのまま収める場合と英語で歌い直したヴァージョンを収録する場合とがあるが、固定ファンとしては少しでも違う録音を聴きたいから、そこをベスト・アルバムでも趣向を凝らすことが求められる。そうして作られたカリとして初の2枚組CD『FANTASTIK ALLEREDE』が2010年に発売された。これは彼女の音楽の経歴を端的に知るには最適のアルバムで、アルバム・タイトル曲のみ新たなアレンジが施される。またそれがアルバムの題名になるほどに彼女には自信があったのだろう。筆者はこのアルバムの「FANTASTIK ALLEREDE」を聴いた後に、その原曲である英語ヴァージョンを聴いたが、双方を聴き比べて驚いた。全く別の曲に聴こえるからだ。同じ歌詞、同じメロディであるのに、こうも印象が違うとは、編曲次第でヒットしたりしなかったりする。一昨日筆者はニエリエビタさんの曲がもっと別アレンジで録音し直せばいいと書いたのは、この「FANTASTIK ALLEREDE」のふたつのヴァージョンの著しい違いを念頭に置いてのことだ。ここで断っておくと、この曲は2003年のアルバム『YOU‘D HAVE TO BE HERE』 に収録され、そのアルバムはわずかに収録曲を変えてノルウェー語盤と英語盤が同じジャケットで出た。筆者は後者しか所有しないが、2枚はノルウェー語と英語の違いだけであって、編曲は同じだ。そしてロックの伴奏で歌われるその2003年ヴァージョンは全体に物憂げで暗い。ところが2010年のベスト・アルバムに収録されたヴァージョンはそれが吹き飛ばされ、とても華やかになっている。同じ歌詞とメロディであるのに、カリの歌い方がまるで違う。これは歌詞の世界に対するカリの接し方の変化があったからだろう。簡単に言えば、失恋も7年経てばすっかり癒され、輝かしい思い出だけが残ったといった様子だ。前述した筆者が作ったカリのベスト・アルバムでは、『YOU‘D HAVE TO BE HERE』からもう1曲選んだ。それは「I WOULD LIKE TO GO」で、ノルウェー語では「KLAEL」と題されるが、60年代半ばのもの悲し気なロックといった感じで、筆者はこの曲を児玉真吏奈さんが聴けばきっと気に入ると思っているが、単純な構成なのでカヴァーは簡単だろう。それはいいとして、この曲の歌詞は彼のことを忘れるためにロンドンやローマなどどこへでも行きたいというもので、その当時かどうか知らないが、カリの経験を元にしたものかと想像する。だが、自分の恋愛をあからさまに歌詞にするには、いつも誰かに恋をしている必要があり、いくら男にもてる女性であってもそれはなかなか無理なことで、半ば虚構でそこに感情を込めるのだろう。
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 「FANTASTIK ALLEREDE」は英語に訳すと「FANTASTIC ALREADY」で、これは歌詞の中では男が語る言葉だ。そしてその一行をカリは2010年のヴァージョンではリカルド・ヴォルフというスウェーデンの男優兼歌手に歌わせている。今調べると彼は2017年11月に59歳で亡くなっている。カリより2歳下で、カリと作った2001年のアルバム『DESEMBERBARN』ではふたりは恋人か夫婦のような仲のよさを見せた写真がジャケットやブックレットに満載されている。それにブックレットの表紙は生まれ立ての赤ん坊の写真で、ブックレット内部にはその大きく引き伸ばされた写真をふたりが捧げ持つ写真もあって、この赤ちゃんはカリが生んだものかとも思ってしまうが、そういう個人的なことはどこにも記されていないだろう。だがこのふたりは格好よさではとても似合っていて、音楽を通じて少なくても2010年までは交友があった。リカルドは男が惚れるような格好よさがあるが、ホモセクシュアルでスウェーデン人女性と結婚して子どもをもうけている。カリと男女の仲であってもおかしくなく、またそれはカリがリカルドに接近したものであることは、「FANTASTIK ALLEREDE」の歌詞から想像出来る。この歌詞は簡単に言えば、愛する男ともっと仲よくし、出来れば一緒に暮らしたいと思っている中年の女性に対して、男はいつも「オレは今のままで充分素敵な気分だ」と言葉を返すという内容だ。落ち着きたい女に対してそうではない男の習性を見事に描くが、前述のように2010年ヴァージョンはリカルドが曲の題名をカリの歌の応答として渋く語り、男女がデュエットする日本の歌謡曲を思わせる。リカルドはこの曲の歌詞さながらに性的にも自由に生きたようで、それは狩りをする男としての本能にしたがったものだ。そういう男を今の日本は駄目男と断罪するが、それは男の本能を認めないことで、男が本能を失えば女もだらしなる。そして2003年のカリはそういう男に恨みを抱く歌いぶりであったのが、7年後にはさばさばして男の生き方を見つめ、またそういう女と男の関係をとても華麗なものとして考えていることが、ふたつのヴァージョンを聴き比べると想像出来る。もちろんそれは筆者の妄想だが、慎ましいフォーク歌手から出発したカリがスウェーデンの格好いい男優に惚れ、ふたりでアルバムを作るまでになったことを鑑みると、そこにひとりの女の成熟さが見られる。ただし、カリが愛する男を引き留めておけないことを自覚し、またそのことを華麗に表現出来るようになるまでの7年は、どろどろとした関係があったはずだ。そういう時の思いがたとえば「I WOULD LIKE TO GO」になったであろうが、恋愛と失恋を通じながら、それらすべてを歌に投入するカリに賛辞を贈りたい。
by uuuzen | 2019-01-31 23:59 | ●思い出の曲、重いでっ♪


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