●梅田HARD RAINにて、悲しみかもめ
り籠の中にいるような気分と言えばいいか、途中でサビの部分があるわけではなく、淡々と繰り返されるエレキ・ギターの伴奏に語り口調で歌われる。あまり目立たない風貌の30代半ばとおぼしき男性がひとりで舞台上の椅子に座って演奏を始めた。



服装も普段着で、物静かなで柔和な雰囲気だ。「悲しみかもめ」と名乗った時、その「悲しみ」の形容詞がやや意外でありながら、言い得て妙であるとも思った。和歌山のシンガーソングライターで、大阪や京都で演奏している。大阪は難波のライヴハウスが多いようだが、南海電車を使えば便利だ。筆者は和歌山市内に3階ほど訪れただけで、和歌山にほとんど縁がない。熊野古道や熊野三山に昔から行きたいと思い続けているが、運転免許のない筆者にはなかなか縁がない。ついでながら、和歌山の文人画家祇園南海はとても好きで、彼の書をいくつか持っていて、これを書く筆者のすぐ背後に彼の七絶書の掛軸を飾っている。和歌山のうんと後輩の文人画家、と言っても江戸時代だが、桑山玉洲の絵画からも同様に明るく晴れやかな陽射しの国が想像出来て気分がよい。和歌山市内は人通りが少なく、ライヴハウスはないだろう。それで「悲しみかもめ」さんは大阪に出て来るが、大阪に住めば音楽が変わるだろうか。彼の何となく和歌山らしいのんびりとした日向を感じさせるところが持ち味で、またそれは変わらない気がする。ネットで調べると、2010年だったか、バンドを組んでギターとヴォーカルを担当し、それからソロになった。またYOUTUBEを見るとここ7年ほどは筆者が23日に接した演奏とほとんど同じで、スタイルはもう完成している。となると、この7年間、新曲をどれだけ書いたかだが、ライヴを毎月行なうとして、客数がせいぜい20名程度であれば新曲は認知されにくい。ならば演奏し慣れた古い曲を何年にもわたって客の前で披露し続けた方が気楽であり、曲の深みも増す。ザッパが来日公演をした1976年、2時間半のステージの半分以上が新曲であった。また旧曲はアレンジが違ったので、ファンは目を白黒させた。当時のザッパにはファンのことを思って馴染みのヒット曲を演奏するという考えがなかった。本当のプロ、本当の創作家としての格好よさとはそういうものかと納得した。ライヴハウスで演奏する音楽家はたいてい3,5組が出演するので、与えられた演奏時間は30分程度だ。それでは5,6曲がせいぜいで、そうなればほとんど毎回違う客に自分の代表作を披露する気になる。もうひとつの理由は経済的な問題だ。収入を得るための仕事をする傍らの活動では、作曲に勤しむ時間が取りにくい。全国的に有名になって音楽活動での収入が増えると、日々音楽に没入出来、作品は増えるが、これは話が逆と言える。食うや食わずの状態で猛烈に創作し、そのことで日が当たって有名になる。ザッパはそうであった。
 だが、今のシンガーソングライターはそんな無茶をしても有名になれないという限度をうすうす知っていて、目いっぱい力むことを恰好悪いと思っているのではないか。趣味と言われれば本人は否定するかもしれないが、ライヴハウスでの演奏という、自分が満足する行為で幸福感を得ることは、猛烈な人から見れば中途半端な作家活動でも、経済問題の前ではそれしか方法がないのは現実だ。それゆえ作品数は限られ、何年にもわたって同じ曲を人前で演奏することになる。そういうシンガーソングライターがたとえば遺産が転がり込むか宝くじが当たるなど、経済的な心配する必要がなくなった時、猛烈に創作に邁進するだろうか。そういう人もあるがそうでない人もあるのは当然として、案外創作意欲に経済的な問題は関係がないように思う。これを書きながら筆者が思い浮かべているのはシューベルトだ。その膨大な作品は10年そこそこで書かれたもので、また彼は常にとても貧しかった。多作であっても凡作が多いと意味がないとの意見があるが、多作でなければ名作は生まれにくい。とはいえ、現在のシンガーソングライターは大作曲家になろうという夢は持たず、取りあえず好きな音楽が続けられればいいと思っているのかもしれない。また悲壮感がないのは欠点ではなく、そういう音楽が歓迎される時代でもあるのだろう。強い自己主張をするのではなく、多くのシンガーソングライターの中で名を連ねていたいという程度の夢かもしれない。そうであっても毎年数百人の新人が登場するのであれば大したものだ。「悲しみかもめ」さんをだしにしたような話になったが、彼はいつでも人前で披露出来る300曲ほどのレパートリーがあるかもしれず、以上はYOUTUBEを見ての筆者の勝手な思いだ。さて、彼の演奏に接しながら、揺り籠ないしぬるま湯に浸かっている気分になったが、それは悪いことではない。気分よくさせることが音楽の目的であるから、くつろいだ気分になれることはその作品の長所だ。また彼の声は独特であまり似た質の歌手を知らない。その心地よい声でほとんどどの曲も同じキーかと思わせるほどに音域が似ている。そのためもあって、筆者は歌詞を聴き取ろうという気がしなかったが、これは彼が歌詞によって何かを強く訴えたいという思いがさしてなく、ギターの伴奏と相まって曲全体であるムードを伝えたいからだろう。クラシック音楽で言えばサティに似ているかもしれない。自己主張を強くしないことによる強い自己主張で、どういう音楽を聴いたのかはっきり覚えていないが、聴いたことははっきり覚えている。そういう不思議な魅力があって、筆者は似た雰囲気の音楽を頭の中で探しながら、ギャラクシー500に思い至った。そのCDをレコード会社からもらったのは1996年か7年だ。どの担当者か記憶にないが、「大山さんは好まないと思いますが」の手紙が添えられていた。
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 そのCDを聴いたのは一、二度であった。先ほどそれを探し出し、聴きながらこれを書いている。もっと静かで悲しい演奏と思っていたのが案外そうではない。やはり特に聴きたくなる音楽ではないが、彼らの音楽がその後に影響を与えたことはわかる。その影響を受けた音楽を「サッド・コア」と呼び、「悲しみかもめ」の「悲しみ」はそれに符合するようだが、ギャラクシー500も「悲しみかもめ」さんも、いかにも涙を誘うというより、決して力まず、心の底でしみじみとさびしがっているという雰囲気だ。そして「悲しみかもめ」さんの演奏はギャラクシー500からドラムスやベースを取り去り、エレキ・ギターをもう少し静かに奏でれば、とても似たものとなる。どちらもきわめてミニマル的で、でしゃばる雰囲気がない。筆者は90年代のロックについてほとんど知識はないが、ギャラクシー500の音がニルヴァーナに代表されるグランジの対局にあることはわかる。筆者はうるさいロックが好きなので、どちらかと言えばグランジ派だが、ニルヴァーナの音楽には関心がない。ギャラクシー500は歌詞が覚えられず、足元に置いた歌詞を見ながら歌ったので、彼らの音楽はシューゲイザーと呼ばれるが、「悲しみかもめ」さんはスケッチブックに書かれた楽譜か歌詞を見ながら歌う映像がYOUTUBEにあり、シューゲイザーと言ってよい。筆者はグランジは破滅型のミュージシャンで、シューゲイザーは知的でおとなしい人物がやる音楽と思っているが、ロックは元来無頼漢が携わるものという見方は正しくない。昔から知的でおとなしい感じの人もいて、バディ・ホリーがそうであった。そしてその路線を初期のビートルズは踏襲した。ビートルズを持ち出したのは、「悲しみかもめ」さんが「レット・イット・ビー」のイントロに似た伴奏の曲を演奏したからだが、彼がどういう曲を好んで聴いて来たかは、筆者とは世代があまりに違ってよくわからない。そこでまたギャラクシー500に戻るが、彼らの演奏はそのバンド名にあるように、夜空を連想させる音色と音の広がりがある。それはジョン・レノンの1974年のアルバム『ウォールズ・アンド・ブリッジズ』の特にB面1曲目「#9 ドリーム」を思わせる。ギャラクシー500の音楽は「ドリーム・ポップ」とも呼ばれるからだが、ギャラクシー500がジョン・レノンの音楽を好んだかどうかはわからない。だが、聴いたことは確かで、グランジのバンドもそうであろう。ジョン・レノンには激烈なところと静謐なところがある。その二面性と80年代半ば以降10年ほどのロックとの関係はもっと年月が経たなければ見えて来ないかもしれない。また日本への影響はライヴハウスに通って多くのミュージシャンの演奏に触れなければならないが、筆者は古い音楽を参考にしながら、巨大な箱の中を針先程度の穴から覗いているに過ぎない。
by uuuzen | 2019-01-27 23:59 | ●その他の映画など


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