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●『オブジェクト・ポートレイト by Eric Zetterquist』
字路をシリーズ絵画にした横尾忠則だが、右か左かの分かれ道のY字路は、どこも似たようなもので、基本は同じであるから、Y字路シリーズの絵画はミニマル芸術と言ってよい。



●『オブジェクト・ポートレイト by Eric Zetterquist』_d0053294_00524132.jpg
だが、Y字路の分岐点に立って左右の道を臨むのであれば、抽象化は無理で、ある程度の写実は必要だ。極端に抽象化すると、「Y」の文字を大きく描けばいいようなものだが、それはY字路を真上から見た眺めの抽象化であって、Y字路の分岐に立ってどちらに行こうか迷う気分を表現することにはふさわしくない。それに、「Y」の字を大きく描くと、たいていの男はそれを女の股間と思うだろう。形態を抽象化することは簡単なようでいてそうではない。それで戦後は抽象絵画が大いにもてはやされた時期があったが、アメリカがミニマル・アートを世界に売り出してからはその先駆者の作品は大いに神格化された。たとえばマーク・ロスコだ。自殺したという悲劇性もあって、彼の作品は日本でも崇拝者がたくさんいるが、大きな画面を縦に二分して異なる色で塗り分けるだけの絵画がなぜ芸術なのか理解に苦しむ人は多いだろう。10年近く前、京都のとある小さな画廊で若い女性が油彩画の個展を開いていた。そこに展示されていたのは、ロスコの絵画のパロディと言ってよいが、画面は縦横数十センチの慎ましさであった。しかも一見オロスコの絵の縮小かと思わせながら、スーパーのチラシの小さな部分を拡大した絵である種明かしをしていた。たとえばスーパーのチラシの厚い肉の写真があるが、その断面の一部を長方形に切り取ると、上が白で下が肉色となって、それとほとんど同じ柄がロスコにあるという具合だ。つまり、ロスコの絵はスーパーのチラシに無数に散らばっているもので、名画ともてはやすほどのものではないとの作者の考えかもしれない。ロスコが自作をどのような考えによって縦に二色で分けて描いたかは知らないが、そこに神聖な思想があったかどうかもわからない。アンディ・ウォーホルがスープの缶かコーラの瓶を並べて描いたのであれば、ロスコのミニマル絵画はスーパーのチラシの微小な部分を抽出して拡大したかもしれない。むしろその方がアメリカ絵画の伝統だ。そのように抽象絵画をおちょくって同じような抽象絵画を描くことは簡単だが、以前にロスコの作品があるからには、後出の似た絵画は模倣ないしパロディとしてロスコの下位に甘んじなければならない。ということは、描くことが簡単なような抽象絵画は特に先駆性が重視され、また同時に連作性も必要で、アイデアが閃けば短期間にたくさん制作してしまうに限る。1点や数点であれば、他の誰かがアイデアを盗んで大量に描けば、そっちが先駆者と認識される。何事も大いにやった者勝ちだ。簡単な思いつきに過ぎないと揶揄しても、行動力が問題だ。
●『オブジェクト・ポートレイト by Eric Zetterquist』_d0053294_00532178.jpg 去年の12月23日に御堂筋のイルミネーションを家内と見に行った際、東洋陶磁美術館での企画展に訪れるつもりであったが、時間がなくなった。気になりながら、昨日ひとりで出かけた。行く前からどういう内容かはわかっていたが、以下感想を書く。まず、これは同館が所蔵する陶磁器を写真撮影し、白黒で表現したものだ。昔なら印画紙に焼きつけたが、デジタル写真であるから、インクジェットで紙に印刷し、その点で版画に見える。黒は艶消しで、漆黒の深みがあったが、家庭用のプリンターでは同様の出力は無理だ。次に思ったことは、重要な所蔵品をアメリカの50代半ばの写真家セッタ・ゼッタクイストに自由に撮影させたことだ。それは経歴を見てのことだろうが、チラシにある説明によれば、5年前にフィラデルフィア美術館、3年前にバンコクの東南アジア陶磁美術館で本展と同様の手法で写真を撮っている。本館での撮影も3年前で、今回は34点を展示している。つまり、フィラデルフィア美術館での実績があったので本館が許可したのだろう。そして集中的に同様の手法で撮影していて、前述の短期間で多くの作品をものにすることを実行している。1982年から92年まで、つまり20から30歳までの間、杉本博司のもとで働いていたというので、写真と東洋の古美術というふたつを学び、それが本展での写真作品につながっている。立体である陶磁器を撮影し、その部分を白黒で表現するのであるから、作品は抽象画に見えるが、被写体はどの写真とも同じ具象だ。ただし、彼はその具象である陶磁器のどこをどう切り取るか、またそれを画面のどこにどう配置するかは決めていないので、作品の大きさや形はまちまちだ。それを面白いと感じるかどうかは評価が分かれるだろう。前述のように、ロスコの巨大な作品が縦横数十センチに縮小してもそれなりにロスコの作品のように見えるし、またスーパーのチラシの写真の小さな部分を切り取ってもロスコの絵画そっくりに見えるからには、抽象画ないし写真はサイズ的に極端に伸び縮みがOKというものとなっている。それはそうだろう。抽象は実際の物の大きさに囚われず、その本質を押さえることが重要だ。となると、アメリカの抽象絵画がどれもだいたい大きいことを批判して、爪先程度の抽象絵画をスーパーのチラシから切り取って1万点ほど短期間で作ればいいと思うが、抽象画は金持ちが買うから、壁を覆うほどの大きさが求められる。つまり、抽象画は日本には馴染まない。そのように書くと、本展の感想を結論づけたようなものだが、筆者は彼の写真作品を見るより本物の陶磁器の方がはるかに面白い。思いつきによって作ったものではなく、人を戸惑わせようと思ったものでもない。それに、ゼッタクイストの作品は陶磁器あってのもので、その逆ではないからだ。
●『オブジェクト・ポートレイト by Eric Zetterquist』_d0053294_00534892.jpg そこに写真作品の限界がある。写真のほとんどは目の前にある何かを撮る。その何かがなければ撮ることの出来るものがない。そこで抽象写真なるものが試されたこともあったが、それも現実の何かを抽象画のように組み合わせて露光させるものがほとんどであった。写真は物の影を撮影するもので、物がなければならない。本展の写真に話を戻すと、彼はある陶磁器を見て、その個性を写真に写し出すことを考えた。そのことは確かで、抽象絵画に見える彼の写真と元になった陶磁器を並べ見ると、陶磁器の個性をうまく抽出しているように見える。だが、角度を変えていくつかの雰囲気の異なった写真を撮ることは可能だろう。そう思わせるほどに、厳密な抽象絵画には見えない。その点が元になった陶磁器の揺るぎない完成度や冒しがたい神聖さを改めて感じさせるのだが、それは長い歴史のある東洋に対する歴史がごく浅いアメリカ文明を明らかにしている。もっと言えば、東洋の陶磁器は用に供するものでありながら、重力との均衡を基本に置いて作ったものでもあって、完全な抽象性も根本に持っている。そう思ってゼッタクイストの写真を見ると奥行きがなく、白黒の対比も厳密なものではなく、陶磁器が肉体とすればその骨の一部のレントゲン写真に見える。つまり、本物に比してあまりに貧相だ。ある具象を純化させて得た作品ではなく、陶磁器を撮影してその部分ないし全体を白黒に置き換え、面白いと思える白黒対比が得られればそれを作品にしたという感じで、スーパーのチラシの微細な部分を撮影しても同じような面白い作品はいくらでも得られる理屈だ。ただし、それはコロンブスの卵と同じで、ゼッタクイストの作品を見たから言えるのであって、最初にやった者勝ちで言えばやはり彼には優れた着眼があると評価される。そうであるから本館で企画展が開かれた。それはともかく、手法はミニマルで、師の杉本を継いでいる。無機質、無色がミニマル・アートの大きな特徴で、それはそういうものほど金持ちが歓迎するからでもある。色がついているものは飽きられやすく、下品と思われやすい。白黒なら空間を邪魔せず、重みも感じさせる。李朝の陶磁器は金持ちの家に歓迎されるが、昭和のにおいのする庶民的な家の片隅に置いて、主がたまに撫で回すという眺めにぴったりのもので、そういう李朝の陶磁器からゼッタクイストは時代性を奪い、ある角度から見つめて時に部分を切り取り、そして平面的に処理して突き放す。であるから、陶磁器の表面に出来たかいらぎは注目することがあっても、絵付けには無関心だ。もちろん肌の色もだが、強烈な日差しと影という対比表現に東洋の陶磁器は似合わない。それを知ってか知らずか、ゼッタクイストは陶磁器の微妙な曲線を注視し、それを東洋の伝統文化の切り絵のように表現する。ならば筆者の切り絵の部分を切り取っても彼の作品と似たものが得られそうだ。
●『オブジェクト・ポートレイト by Eric Zetterquist』_d0053294_00541242.jpg

by uuuzen | 2019-01-24 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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