評判を聞いて訪れる人が多いことは今も昔も同じだろうが、たとえばTVで紹介される店や名所など、あまりにその数が多いので、いつか行ってもいいかと手元の紙にメモしてもすぐに忘れてしまう。

またTVに取り上げられたかといって、多くの人が訪れるのは2,3週間ではないだろうか。それほどに何事も競争で、安定した地位を築くには年月を要する。では、何百年の歴史のある社寺となれば安泰かと言えば、地元住民しか知らない小さな神社や寺はいくらでもあり、すっかり廃れて建物が取り壊される場合もある。有名な社寺でも繰り返し訪れてもらうように境内をきれいに保ち、新しい何かを増やそうとする。さて2日は阪急阪神1日乗り放題券を買ったので、門戸厄神だけ訪れるのはもったいないので、次にどこへ行こうかという話になった。家内は中山寺へ行きたがったが、まずは腹ごしらえと、三宮に出た。駅近くのよく訪れる中華料理屋で食べた後、家内は神戸で昔から有名なにしむらでコーヒーを飲もうと言ったが、阪神大震災以降、センター街にあった店はなくなり、元町商店街に移転した。そこへ行ってもいいが、筆者も家内もにしむらと言えばセンター街にあった地下の店に思い出がある。またそれよりも先にせっかくなので神社にお参りしようと考え、生田神社に向かった。道を間違えて少し東の南北に走る道を北へと上り坂を進むと、中山手通りに出た。その北側の斜め前に白壁に焦茶であちこち枠取りしたヨーロッパ調の木造風の建物があって、それがにしむら珈琲店であることがわかった。家内も筆者もその建物を見るのは初めてだ。そこが本店かと思い、家内はまたそこでコーヒーを飲もうと言ったが、まずは参拝と、道路をわたらずに南側の歩道を西に進んだ。2,3筋先の道を南下すれば生田神社で、今度は坂を下ると、神社の境内に通ずる脇道があって、2,3人の中年男女の警備員がそこからは入れないという素振りをする。境内に入るには南の端まで行かねばならないかと声をかけるとそうだと言う。仕方がないのでどんどん下がって行くと、先ほど入った中華料理店から数十メートルのところに出て来た。無駄に歩いたことになるが、息子はほとんど知らない神戸の街で、かえってよかったのではないか。ともかく、大勢の人が溢れていて、人の流れにしたがって進むとやがて両脇に屋台が連なる参道に続いた。歩きながら筆者は横にいた息子に、昔大阪のお笑い芸人が美人タレントのFと結婚式を挙げた神社で、ふたりが離婚してからはかえって不名誉な評判がついた形だと説明した。確かに人気者が利用した神社であるので、多くの若者が結婚式を挙げたと聞いたが、離婚したと聞くと神社の評判は落ちるのではないか。3組に1組は離婚する時代であるから、誰も有名人の離婚など気にしていないと言えるが、有名人に倣って結婚式を同じ神社で挙げた人は、離婚と聞けばそれが頭をよぎるだろう。

境内に入ると、10人ほどの巫女さんがずらりと横一列になって囲いの中に座っていた。その列がいくつもあって、たぶん50人以上をアルバイトで雇っていたであろう。ちょうど交代時間が来ていたのか、ぞろぞろと歩いて来る10人ほどの巫女さんの一隊と遭遇したが、寒い中を薄着で大変な仕事だ。家内は1日乗り放題券を買った時にもらったはがきを思い出し、そのクーポンで早速授与品をもらおうと言う。巫女さんがいる授与品受け取りのテントに行くと、3枚のクーポンのうち、使った1枚は門戸厄神と生田神社ともう1か所共有で、どこか1か所で授与品を受け取ると、残り2か所ではもらえないと言われた。それはクーポンに印刷してある社寺名を見ればわかることなのだが、そのクーポンは門戸厄神で切り取られたのでわからなかったのだ。ちょっとした恥をかいたが、来年は生田神社でもらえばいい。大混雑している境内で、参拝を済ませばもう用はないが、授与品をもらえるテントで家内を待っている間、背後に朱塗りの鳥居の列があることに気づいた。生田神社には3年前に家内と訪れ、多くの写真を撮ったが、ブログに投稿していない。それで同じ写真を撮るのはやめておこうと思っていると、背後つまり境内の東北に位置する鳥居の列は3年前にあったものとは様子が違う。3年前にあったものはもっと地味であった。何が変わったかと言えば、鳥居の列はなだらかな上り階段上にはなかったはずだ。また今日の写真からわかるように、階段や鳥居は真新しく、進入禁止のロープが一部に張られている。社の写真も撮ったのに、残念ながらまた写っていない。鳥居の列は伏見稲荷大社を思わせて印象深いが、真新しいのでえらく現代風で、それが落ち着かないが、街中の洒落たレストランやカフェに慣れている人からすれば違和感はなく、かえって現代感覚がいいと思うだろう。それに朱塗りの鳥居の列と狐の石像は新品であっても稲荷神社の雰囲気を濃厚に漂わせ、背後の生田の森と相まって、これが三宮の繁華街の中とは感じさせない。社の右手に警備員がひとり立っているのが気になったが、境内の端にある新しい社なので誰かがいたずらすると困るからだろうか。参拝客は筆者が見ていた限り、若いカップルばかりであった。そう言えば参道を歩いているのもほとんど若者で、先に述べたお笑い芸人と美人タレントが結婚したことは今でも記憶に強く、若者には評判がいいのかもしれない。写真を撮った後、生田の森を西へと進み、鯉が泳ぐ池に出た。一羽の鴨もいて、それを鯉がどう思っているのかを想像した。池のそばに小さな社があり、それが弁天社であることは3年前に訪れて知っていて、またその写真を撮ったが、写っていなかった。それでおまけとして池の鯉と鴨、そして池のそばにあった絵馬懸けの写真を載せておく。境内を出た後、元町商店街を歩き、にしむら珈琲店に入らずに帰った。