●『恐怖の報酬』
える寒さはまだほとんどなく、今日も気温が高かった。明日もそのようだ。こういう時は地震が起きるのではないかと思っていると、昨日はまた熊本で震度6があった。



d0053294_00473730.jpg阪神大震災が1月中旬にあったので、今月はまだ気が抜けない。気が抜けないと言えば正月気分だが、今年は年始の挨拶にどこにも行かず、息子が帰って来たので家族3人で初詣でに出かけた程度で、正月気分をほとんど感じない。大晦日は年賀状のための切り絵作りと印刷、元旦は年賀状の宛名書きで、それはもうここ数年の行事になっているが、正月気分と言えば年賀状作りかもしれない。それはさておき、2日は息子に見せようと思ってビデオテープ『恐怖の報酬』を引っ張り出した。10年近く前に新品で買いながら見なかったが、3,4年前にTVで放送されたのを見た。それを録画していなかったので、一昨日はビデオを見たが、今年36になる独身の息子は中学生並みに終日スマホ・ゲームに没入で、一緒に見ようとしない。後半になって面白くなることを指摘すると、息子は半分ゲームをしながら見始めたが、人生で最大の楽しみがTVゲームという人は増えているようで、家内は夫婦でそれにはまっているというTVの特集番組を見たと言う。息子は筆者がWIN10にアップしてやったパソコンでゲームをしたいらしく、32ビットを64ビットに出来ないかと、帰って来てすぐに筆者に話した。筆者は勝手に調べろと言ったが、パソコンでゲームはしたいのに、自分で調べる努力をするのが嫌で何事も人任せなので、これからもしぶしぶスマホでゲームするだろう。努力すれば何かが得られることはわかっていてもその努力がいっさい嫌という、向上心ゼロの息子だ。そのため、今日取り上げる映画の主人公の思いや行動は理解出来ず、映画を面白いとも思わないだろう。前に書いたことがあるが、スティーヴ・マックイーンとダスティン・ホフマン主演の映画『パピヨン』の最後は、脱出不可能とされる断崖絶壁の孤島から海に飛び降りる場面がある。パピヨンことマックイーンはホフマンを誘って一緒に島を脱出しようとするが、ホフマンはとても無理と思ってマックイーンの背後で踵を返す。死の危険を冒してまで自由を得ようとは思わないのだ。島にいると最低限は生きて行ける。それは不本意だが、命を顧みない危険を冒すよりかは安全で長生き出来る。いつの世も大多数の男がそのように考えるので、命を賭ける男が映画の主人公になる。そしてそういう主人公はほとんどヤクザ者として描かれる。『パピヨン』でも本作でもそうで、またヤクザ者であるからには、最後は幸福になるという設定は忌避される。それでは風紀上好ましくなく、平凡な生活を送る観客も不満を抱えるからだ。そのため、島を脱出したパピヨンは自由を得てもあまりいい死に方はしないと観客は思うだろう。
 筆者は10代半ばにTVでこの白黒映画を見た。それで内容は知っていたが、数年前と一昨日改めて見ると、俳優の演技のうまさに感じ入った。2時間半ほどの長さがあって、前半はやや退屈とされるが、それはそれで見応えがある。美しい女性がひとり出て来るが、それは監督の奥さんだ。監督が妻に酒場の主の女でまたマリオに色目を使うすっぱな女を演じさせるとはなかなか太っ腹で、妻の方もプロ根性もさることながら、監督の夫に尽くそうとの思いがあってのことで、唯一の若い女性として映画の前半部で強烈な印象を与えている。この女が惚れるのが主人公マリオで、これをイヴ・モンタンが演じる。マリオは何かの理由でヴェネズエラにフランスから逃げて来た。アメリカには建国以前からフランスからの移住者があって、その伝統と言ってよいが、時代が下がるにつれて本国でよくないことをした者や一旗揚げようとした者がフランスと関係のある国に向かったのだろう。そのことは容易に想像出来る。マリオはパリの地下鉄の切符を大事に持っていて、いつか本国に帰りたいと思っているが、それには資金がない。真面目に働けばいいが、仕事もない。それでマリオは酒場の女のひもとして生きている。村は砂漠のようなところで、経済が回らないので、ビルは骨組みだけ出来て工事が中断している。それでもセメントをこねたりしながら真面目に働いている男がいる。イタリア人のルイージだ。陽気な彼はマリオと仲がよいが、やがて村にやって来た無一文のジョーという初老のヤクザ者に喧嘩を売られ、その勢いに負けておとなしくなる。この場面はルイージとジョーの演技がなかなか見物で、またはったりで生きて来たジョーの一か八かの性格がよくわかる。村に着いたジョーは身なりだけは立派で、またそれで人を騙せることをよく知っている。詐欺師は人が身なりや見栄えで人を判断することをよく知っている。金がなくてもせめて身なりが立派であれば、金持ちと思わせることが出来る。ジョーもパリで暮らしたことがあり、マリオとすぐに親しくなるが、やがて村を脱出出来る儲け話が持ち上がる。村から500キロ離れたアメリカの会社が経営する油田が火災を起こし、それを消すにはニトログリセリンが必要で、それをトラックで運べばひとり2000ドルもらえるのだ。だが、そういうめったにない話は誰もが飛びつく。それで試験となるのだが、ジョーは会社の担当者と昔は馴染みであってらしく、自分を雇えと談判に行く。この場面では、会社の担当者は今は真面目に会社にいるが、かつてはジョーと一緒にヤクザな商売をしていたことがほのめかされるが、そういうことは世の中には多い話だろう。戦争やその後のどさくさに少々の悪いことをして大金持ちになったという人物は世界中どこにでもいたはずで、日本も例外ではないだろう。
 誰もやりたがらない仕事を3Kすなわち「きつい、きたない、きけん」と呼んで、日本ではますますそのなり手がないが、そのうち鳶職や福島原発の事故現場では外国人労働者のみとなるだろう。5年前に筆者は駐車場の用地を近くに転居して来たSに貸していたことがあるが、Sはその頃まだ22,3の年齢で数人を雇う社長をしていた。建築現場の足場を組む仕事で、本人の車には飛翔する鳶の絵が描かれていた。当時出来たばかりの「風風の湯」で裸を見たことが一度あるが、上半身に刺青が多少入っていた。金がないので途中でやめたか、彫ることがアホらしくなったのか、藍色の骨描きがわずかであった。Sはなかなか凄みのある顔と目つきをしていたが、筆者の息子より10歳も若く、話すと子どもじみたところがあった。それはともかく、3Kの仕事ではなくても今の日本ではなり手の少ない仕事があって、しんどい思いをして多く稼ぐより、嫌なことをなるべくせず、収入は少なくても気楽に生きることを望む若者が増えているようだ。それに肉体労働をせずに済むように機械化が進んで来ている。一方、日本も他国に遅れてはならじと、大阪には万博の後にカジノが出来るし、ギャンブルを奨励する風潮は強化されている。これも楽して金を儲ける場があるという幻想の振り撒きだが、その儲けにあずかれる者はごくわずかだ。それに背筋が凍るような危険に面した恐怖はなく、娯楽だが、危険も恐怖も嫌となればギャンブルが栄えるのは当然だ。そして、現在の日本で命賭けの危険な仕事がどれほどあるかとなると、工事現場では安全第一主義であるから、危険なことはなるべく減らして行こうという考えによって、今は昔ほど多くないのでないか。これはTVのドキュメンタリー番組で見たが、1970年の大阪万博のエキスポタワーは鳶職が大活躍した。その棟梁が出ていたが、雰囲気はごく普通のサラリーマン風で、そこがまた逆に真剣な凄みを感じさせた。本当の怖いもの知らずは一見ヤクザ風では全くなく、ごく普通の人に見えるだろう。その棟梁は落下する鳶職人は馬鹿であると断言し、一生一大のその大工事に果敢に挑んで設計図どおりに仕上げた。そして、おそらく賃金はその高所の恐怖に見合うほど高くなかったはずで、鳶職としての平均賃金を受け取っただけであろう。そういう縁の下を支える職人たちによって高層建築が実現し、またそれを日本が誇れたが、次の大阪万博では鳶職が活躍出来る場がどれほどあるのだろう。そのタワーは万博終了後も長年あったが、ついに撤去され、それの鉄骨を組み上げた鳶職人がいたことも忘れられた。いや、正しく言えばそのドキュメンタリー映像がある限りは記憶は甦る。それはともかく、命を賭ける危険な仕事がないに越したことはないが、仕事に命を賭ける意気込みは必要だろう。それがプロというものだ。
 『恐怖の報酬』は1953年の作品で、当時筆者は2歳だ。面白い映画は時代を経るごとに増えるのではなく、むしろ逆ではないかとさえ思う。今はCGを使うことがあたりまえで、最初から作りものとわかっている。それは実に味気ない。どの映画も作りものであり、CGを使うことによって真実味が減るとは必ずしも言えないが、CGに意識が向き過ぎて俳優の演技が印象に残りにくい。その俳優さえもCGで代用する動きが増える傾向にあるが、そうなれば気味悪さが際立って、ホラー映画にはいいだろう。舞台となったヴェネズエラでロケしたのではなく、フランスで撮影された。となると、南米人をたくさんエクストラに雇ったことになる。もっとも、その方が南米で撮影するよりはるかに安上がりであったろう。フランスにもこういう荒地があるのかと思わせるが、地中海に近い南部であろう。竹林が少し出て来る場面も何だか意外で、フランスにも日本と同じ竹が生えているのかと認識を新たにした。サボテンやリュウゼツランなど、熱帯植物が点在する様子はアメリカの西海外のどこかを思わせもしたが、そういう雄大な風景が見られるところも面白い。前半は村での出来事と、後半に登場する4人の紹介で、後半は2台のトラックにふたりずつ乗って、目的地を目指す。ニトログリセリンは少しの衝撃で爆発するから、トラックの運転は命がけだ。ところが道路は舗装されておらず、途中で山を越える必要もある。また油田のパイプラインが断絶して油が溜まっている場所もあるなど、次々に試練が待っている。そこを知恵を出しながら突破して行くのだが、それには相棒が協力しなければならない。それはふたりずつが敵対するのではなく、むしろ協力しないことには脱出出来ない。つまり、4人は仲間で、どちらのトラックが後先になっても無事に目的地に着くことを4人とも願っている。ところが4人がその夢を遂げれば映画としては面白くない。マリオとジョーのコンビは、やがてジョーが怖気づき、マリオが年配の彼を殴る場面がある。マリオは口だけは威勢のいいジョーを見損なうのだが、ジョーは老いると誰でも弱気になると言葉を漏らす。これはそのとおりかもしれない。『パピヨン』でのダスティン・ホフマンもそうで、もう冒険をして大きな夢をかなえようとは思わないのだ。ではマリオもジョーの年齢になると、やはり危ないことは極力避けるようになるかどうかだが、これは人によりけりだ。先日書いたように、虎が住む穴に入らねば虎の子を得ることは出来ない。本作はそのことをテーマにしていて、それで筆者はまた見ようと思ったのだが、虎の子を得たのに、それで油断すると元も子もないという厳しい現実をこの映画は描いている。その教訓臭を観客がどう思うかと言えば、マリオはヤクザ者であり、犬死にすることに留飲を下げるだろう。
by uuuzen | 2019-01-04 23:59 | ●その他の映画など


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