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●『WE‘RE ONLY IN IT FOR THE MONEY』モノラル盤、その3
と瓜坊が通天閣に連れて来られて今年が始まったが、犬と猪はどちらが強いのだろう。犬が大声で大きな猪に向かって吠えると、何倍も大きな猪でもひるむだろう。



●『WE‘RE ONLY IN IT FOR THE MONEY』モノラル盤、その3_d0053294_17450894.jpg人が大きな熊に遭遇して大声を出すと熊は逃げ出したという話が去年あった。大声はそのように効果的で、泥棒避けにメガフォンがどの家にもあってもいいかもしれない。先ほどようやく本作を聴き終わり、ついでに『オールド・マスターズ第1巻』の盤とオリジナルのLPも引っ張り出して聴き、今はパソコンで『LUMPY MONEY』を聴きながらこれを書いている。『LUMPY MONEY』は『LUMPY GRAVY』と『WE‘RE ONLY……』のカップリングで、ザッパはこの2枚を表裏一体と考えた。この2枚によってわかることは、ザッパの音楽がロックのみではなく、ロックが大きな商売になる時代であったのでロックに重点を置いたことだ。本作はドゥワップやロックを挟む形で、A面最初「ARE YOU HUNG UP?」とB面最後「THE CHROME PLATED MEGAPHONE OF DESTINIY」に、電子音楽や前衛的なピアノ曲がある。「ARE YOU……」は「気がかりかい?」で、「懊悩しているのか?」と訳してもいいが、「オー・ノーの心的状態か?」は飛躍し過ぎるか。「THE CHROME……」は「運命のクローム・メッキのメガフォン」で、本作では最も大声で主張したい作品であったとも考えられる。そして陰鬱なこの曲に、聴き手に問う「気がかりかい?」が結びつき、アルバムはエンドレスになる。この両端の2曲はアルバム全体をきわめて奇怪な印象を与え、また間に挟まれた歌のある曲のアレンジに影響を及ぼしている。普通の声で、また普通の速度で演奏すればいいものを、テープの速度を若干上げて薄気味悪い戯画としているが、そういう変な音楽は、口当たりのいいメロディや歌詞がラジオで鳴るポップスというのが当時のアメリカ、あるいは今の日本でも同じで、ごく一部の人がこっそりと聴くが、本作はその変なものが誰も行く手を阻めない怪獣のように途方もなく肥大化し、ごく一部の人でさえも尻込みするグロテスクさを呈している。今なら誰でも簡単に録音出来てCDを出すことも出来るが、本作は当時MGMの配給だ。しかるべきスタジオやマザーズのメンバーを使って録音され、またザッパは日夜を徹して編集に没頭した。それはザッパに自由にさせる人たちが当時のアメリカのレコード会社にはいたという、ザッパの才能とは別の驚くべき事実を伝える。レコード会社にすれば賭けだが、それは大きく勝つことがある。今でもそういう賭けをレコード会社はするとは思うが、とびきり変わったものを作る才能がなく、またそれを認めて伸ばそうとする太っ腹な人もいないだろう。万事計算高く、それゆえ萎縮し、半世紀後に聴いても驚かれる音楽は生まれようがない。
●『WE‘RE ONLY IN IT FOR THE MONEY』モノラル盤、その3_d0053294_17454269.jpg
 ザッパの電子音楽とロック以外の管弦楽曲を書く才能は『LUMPY GRAVY』で示されたが、どのような音楽でも貪欲に摂取し、20代半ばでそれらの語法で作曲出来たことを公にした事実は、他にどの音楽家が比べられるか。その圧倒的な才能と仕事量を感知して、たとえばレコード会社のトム・ウィルソンはザッパに好きなように仕事をさせた。20代半ばでザッパのような自信と実行力がなければ、世に残る仕事をすることは難しいだろう。20代半ばの男は口は達者で軽々と何事も出来る素振りを見せることがよくあり、またそのことを恰好いいと見誤る女が群がりもするが、本物の人物は黙って真面目に仕事をする。だが、前者が圧倒的に多いポップス界では後者は日が当たらない。口先だけの人間がわずかな才能で有名になり、自分をさも偉い人物と勘違いするような社会では、後者は恰好悪く見える。誰でもギターを持って1日でコードを3つ覚え、大きな音をかき鳴らせばさまになったように聞える。黄色い悲鳴を上げる女子たちは音楽など聴いておらず、男をうっとり眺めているだけのことだが、そこにある軽薄な音楽はそれはそれで需要と供給が一致していて、これからもなくならない。日本にもアメリカにもそういう音楽はあるが、日本はアメリカの猿真似をして軽さは極限を越えているように思える。軽さのどこが悪い、軽音楽で充分という意見がきっと無数にあるが、軽いものばかりを歓迎していると軽い人間になり、誰からも重きを置かれないのは道理だ。作られたものはこの世に溢れ返っているが、その作られた仕組みを理解しようとする者が世の中を動かす。筆者はTVゲームに全く興味がないが、それは誰かが作ったゲームに踊らされているからだ。そのため、筆者はゲームを作る側の人間にはなりたい。どれだけゲームの達人になっても、彼らは自分でゲームを作ることは出来ない。いわば観音さまの大きな手の上で飛び回る孫悟空と同じで、小さな、どうでもいい、いくらでも代わりがいる存在だ。ザッパはビートルズの『サージェント・ペパー』を一聴して、それがどのように作られたかを即座に把握し、同じ作詞作曲編曲録音、そして自分で奏でて歌うことで挑戦状を叩きつけた。相手はビートルズの4人と名プロデューサーで、こっちはザッパひとりだ。マザーズはわずかな手足にしか過ぎない。5対1では、また資金力のあまりの違いから勝ち目は決まっているが、ザッパは自分の持ち駒を総動員させた。それで勝ち負けを言えば、売り上げは大負けもいいところで、世間の評価も比べようがないが、ひとりで果敢に挑むところは判官贔屓したい。またそれを除いても本作はビートルズが決して描かなかった世界を露わにした点で圧勝だ。それがわかるのは大人になってからだが、日本では子どもがビートルズを唯一最高と思っている。お子ちゃま国家の日本が「かわいい」で有名になったのは当然だ。
●『WE‘RE ONLY IN IT FOR THE MONEY』モノラル盤、その3_d0053294_17460790.jpg
 筆者は周囲にいた誰よりも早く同時代的にビートルズに注目して聴いて来た。だがそれは子どもの頃のことで、20歳になってザッパを聴き始めた。これも書いたことがあるが、『サージェント・ペパ―』を買った時、そのジャケットのサテン地のカラフルな4人の衣裳が子ども騙しに思え、気恥しかった。その衣裳を喜ぶのは女や子どもだけだろう。その点で『リヴォルヴァー』の白黒ジャケットやそこでのビートルズはとても恰好よかった。それが『サージェント・ペパ―』のジャケットで有名人に囲まれた自分たちを演出したところに、有名人の自負はわかるが、驕りもあったように感じる。当時中学生であった筆者がそう感じたのであるから、大人のザッパが「ビートルズは金のためにやっている」と思い、大きな猪に向かって吠える犬になってやろうとしたことは大いに理解出来る。商才溢れるポール・マッカートニーがアイドル路線をさらに突き進もうとしたことは当然で、今もポールはそれをしている。ポップスの世界はそれが宿命なのだろう。だが、ポップスだけが音楽ではない。犬の遠吠えかもしれないが、売れればそれでいいのか。ザッパはそこで難しい道を選んだ。ポップスを見つめながらそうではない語法を用いる。隙間を狙ったと言えるかもしれないが、ザッパにとってはそれが王道であった。それほどに音楽の世界を広く捉えていた。そしてその態度は生涯変わらなかった。本作のA面最初とB面最後は遺作となった『文明、第3期』に直結している。それはポップス産業への呪詛であり、アメリカ文明への憐憫、そして音楽への深い愛の表明だ。さて、本作はモノラル盤であるので、多彩で複雑な音の奥行感は乏しい。ステレオ盤を聴くと左右の分離がよく、また音が左右をよく飛び交う。そういう楽しみを知ったうえで本作を聴くとザッパがどの音を重視して前面に持って来ようとしたかがわかる。A面最後の「フラワー・パンク」がそのいい例だ。またベースの音はモノラルの方が重厚だ。ジャケットの稲妻は今回左端部が新たに増えているが、これは元の全図の上端を取り込んだからで、逆に左右は少しカットされて、左端のトム・ウィルソンは耳が見えない。下端の野菜畑も少し狭くなっている。そのように比較せねばわからない音の細部の違いが、オリジナル、『オールド・マスターズ第1巻』、本作の間にあるだろう。最後に書いておく。先月30日にザッパ・ファンのMさんからメールがあり、2月23日の午後6時半から京都の五条大宮にあるPARADAISE GARAGEという店でMさん曰く「ザッパ会」が開かれる。筆者を招いてDVDを見た後に雑談となる。筆者は多少珍しい資料を持参する。とても狭い店で10人入ればいっぱいになるらしいが、誰でも入場可とのことだ。関心のある人は参加してほしい。MさんはFACEBOOKで告知したか、これからすると思う。
●『WE‘RE ONLY IN IT FOR THE MONEY』モノラル盤、その3_d0053294_17463151.jpg

by uuuzen | 2019-01-03 17:46 | ●新・嵐山だより(特別編)
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