●名誉と著作権
がふたつ見える桂川の堤防を先日家内と歩いて上桂のスーパーまで買い物に行った。初めてのことだ。地図で確認すると、その道の方が物集女街道を利用するよりも少し距離が短い。



ただし夕暮れになっても灯りがなく、すれ違う人の姿は間近に来るまでわからず、少し怖い。そういうところで刃物で刺されれば、発見が遅れて死ぬだろう。昼間は雄大な眺めが得られる場所がある。そこを通るたびに筆者はそのことを確認して悦に入り、少しは江戸時代の旅人になった気分だ。その場所近くで数キロ先に左手と右手に白い塔が見える。左は右京区の山手にある塵芥焼却場、右手は京都タワーだ。不思議に思うのは、京都タワーは渡月橋北詰めから桂川下流を見ると、その先の右手に位置するのに、松尾橋の少し下流のその眺めのいいところからではずっと左手にある。これは川がそれらふたつの橋の間でほとんど直角に曲がっているからだが、歩いている者はその曲がり具合が実感出来ない。人間が小さく、川の流れがはるかに大きいからだが、人間は自分を尺度にものを考えがちだ。それで堤防を下りながら京都タワーが右から左に移動することを狐につままれたように感じる。自分のことを棚に上げて周囲のことをあげつらうのも、自分自身があまり見えないからだ。毎日鏡を覗き込んでいるのに、人間は自分が思いたいように自分の姿を判断する。それでもたまにはさすがに老けたなと思うことがある。死んだ友人Nは、死ぬ2,3年前にそのことを口にしたことがある。自分の顔があまりに醜いと言った。月に一度くらい会う筆者はそうは感じなかったので、その言葉にさして反応しなかったが、Nは自分の身体が崩壊して行くことにどこかやけになっていた。糖尿病に加えて歯が全部ぐらぐらで、近くで話すと口から腐臭がしていた。それを指摘すると、Nはひどく落胆していたが、若い女性から言われるよりましであったろう。ともかく、Nは晩年の自分が醜いことを自覚していて、自分自身のことも含めて正直に物事が見られる人物であった。Nは飲むために生きていたと言ってよく、筆者と飲むことを最も楽しみにしていたが、酒代を稼ぐために働いていたところがあり、またその金儲けについてひどく心配をしていた。仕事が過酷であったのだ。月収は軽く百万はあったが、老いるほどに頑張りが利かなくなることを思い、じっとしているだけで収入がある何かを常に探していた。発明や特許、商標登録などで、その話になると筆者はうんざりしたが、Nは真剣であった。Nは筆者が本を書いたことで印税が入ることをうらやましがったが、それはわずかな金額で、費やした日数や資料の数十分の一に満たない。それでもNは著作権が得られる境遇を眩しく思ったのだろう。ともかく、Nはお金に無縁の筆者を長年毎月飲みに連れ歩き、弟のように優しく接してくれ、裏表があることを嫌った。
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 以前から話題になっていたが、福島の現代美術家が電話ボックスに金魚を泳がせた作品の著作権を主張し、それが大和郡山市から認められないので、ついに裁判所に訴えたというニュースを今日見た。その作家は以前大和郡山市に著作権を認めてほしく、同市が設置する同様の金魚ボックスの下にでも作家名を記した小さな銘板を貼りつけることを求めた。それは京都のとある美大の学生が作った作品であり、福島の作家の主張に対して同市はすぐに金魚ボックスを撤去した。揉めることが嫌であったからだろう。福島の作家はそれで訴訟を起こし、作品の著作権がどこまで認められるかが争点になる。金魚を変わった容器に入れることを最初にした人は誰か。アクアリウムという展覧会が10年ほど前から全国各地で開催されている。それは例えば大きな屏風形の透明容器に金魚を入れるなど、福島の作家の金魚ボックスのどこか汚れた印象とは大いに違って、藻が繁茂せず、きらきらぴかぴかの豪華さが特徴で、金魚ボックスのように野外ではなく、建物の中に置いて鑑賞する。筆者はそのアクアリウムは悪趣味の最たるものに感じ、芸術としてのインスタレーションとも思わないが、突飛なそのアイデアは百貨店での展覧会向きで、人集めにはよい。一方福島の作家と大和郡山の金魚ボックスは、たまたま使わなくなった電話ボックスがあったので、そこに金魚を泳がせてみたという、どこかの隠居老人が考えそうな素朴な悪趣味で、やはり芸術には思えない。だが、芸術は人によって尺度が違う。そして、何事も誰が最初に考え出したのかという著作権が主張され得る。それには名誉と金が絡む。福島の作家は前者を主張し、公に認めてもらいために裁判に訴えたのだろう。それほどに自分が最初に考えたアイデアだと思っている。それは責められるべきではない。作家とはそのように自己主張が強いもので、そこを譲れば自分の名前も作品もすぐに埋もれる。それほどの名誉のために生きている人種で、それは芸術に無関心な人には大いに滑稽に見える。何かを特別な容器に入れて突飛感を出せば芸術かと言えば、そうとは言えないだろう。芸術が観念的になり過ぎて、アイデアを優先視する時代になった。そのアイデアは知性と大いに関係し、観念芸術は知的な芸術家が生むものという感覚が、何より作家本人が抱くことになった。そこから芸術の暴走が始まった。文学でも同じことが言える。ロジェ・カイヨワはそれを思い上がりと糾弾した。だが、電話ボックスに金魚を泳がせることは、アイデアの次に水漏れを防ぐにはどうすればいいかなど、具体的な方法を講じる必要がある。それを福島の作家が自分でやったのかどうか知らないが、自分で全部したのであれば、その方法も含めての著作権であり、またその具体的な方法が大和郡山の金魚ボックスとでは違いがあるのかどうかが気になる。
 京都の有名な彫刻家が小さな模型を作り、それを工場に依頼して巨大な鉄の彫刻にしてもらったことを思えば、芸術も金さえあれば大規模な作品を手がけられ、またそのことで加速度的に有名になって行く。自分で全部手がけなくても、アイデアが最も大事で、そこに著作権があると見る時代になっているので、福島の作家と大和郡山の裁判がどうなるかは見物だ。音楽の著作権はJASRACが管理して便利という声があるが、美術はその点が厄介で、福島の作家の訴えと似たことは今後増えるのではないか。芸術家が名誉を主張するのはわかるとして、傍から見ればごく小さな名誉で白けることがある。これは以前書いたが、若い頃の富士正晴と開高健は一時交友があって、ある時開高は富士に何か面白いネタはないかと訊くと、富士は国鉄の環状線の京橋や森ノ宮駅近くにあった朝鮮人部落の住民が、夜になると近くの大阪砲兵工廠跡地に忍び込んで鉄屑をかっさらって来ることを伝えた。開高はそれを題材に『日本三文オペラ』を書くが、そのアイデアが富士のものであったことを筆者は30年以上知らなかった。富士は開高のその行為を苦々しく思い、その後は交際がなかったはずだが、アイデアに著作権があるのかという問題がある。小説を書いたのは開高だ。そのアイデアを開高が何かで読んだと主張すれば、結果的に富士よりはるかに有名になり、また何百、何千倍もの印税を手にし、数十億円の金を遺した開高の方が、創造性があったとみなされ、名誉も得る。実際そうなっているが、知っている人は知っていて、『日本三文オペラ』は富士のアイデアなくしては生まれなかった。つまり、著作権は開高にあっても、名誉は富士にあると言いたい。だが、富士はそれを表立って書いたことはない。癪に障ったことではあったが、訴えることまではしなかった。アイデアの著作権を主張し始めると誰でも思い当たることがあるはずで、子どもの頃でも、『あの子はすぐにわたしの〇〇を真似しよるんよ』といった話は頻繁に耳にした。誰でも目立つことは真似したがる。自分の得になることや名誉になることに関しては抜け目がない。著作権という言葉があっても、大金が絡まなければ、ほとんど表沙汰にならないだけで、うまく欺くことが無数に横行していることは東京オリンピックのエンブレム問題でも周知のことだ。岡本太郎の「太陽の塔」によく似た塑像が古代にあって、それを岡本が指摘されると、古代にも自分に似た者がいたと言った。今ならその言葉は炎上して、「太陽の塔」は実現しなかった。作ったものが大昔に似たものがあったことは大いにあり得る。それだけ人間は大昔から変わらない。個性を主張しても、似た個性は必ずいつかどこかにある。あまり自分の才能を過信しないことだが、自分を目立つ塔のように思う自信も必要だ。
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by uuuzen | 2018-11-11 23:59 | ●新・嵐山だより


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