●ネット空間とライヴハウス
動すらしないような男性の後ろ姿であったが、3日のZacBaranでのライヴで3人の演奏が全部終わった後、斜め後ろに座っていた筆者の方を振り向いて笑顔で話しかけて来た。



ニエリエビタさんによれば、彼は先月28日、大阪北堀江のFUTURO CAFEに来ていたひとりで、毎晩のようにライヴに出かけ、また名前はSであるという。先月28日は、金森幹夫さんがジェファーソン・エア・プレインの女性ヴォーカリストのグレイス・スリックがザッパのアルバム『200モーテルズ』に収録される「Would You Like A Snack?」をマザーズの演奏をバックに歌った曲を客に紹介しがてら、筆者を最前列に呼び、その曲の説明をさせた。それでSさんは筆者のことを覚えていたのだ。筆者は客の顔を見なかったので、覚えている客は店に最後まで残って本を買ってくれた高槻の男性のみだ。また筆者が最前列に立った時、ニエリエビタさんがすぐ近くにいたはずなのに、その姿にも気づかなかった。それほどに金森さんがかけた「Would You……」を熱心に聴いた。それはさておき、Sさんのライヴ鑑賞趣味は金森さんと同じで、筆者より若い世代でそういう人が少なからずいることを初めて知った。Sさんは明石の天文台の近くに住んでいるとのことだ。最終電車に間に合う必要もあり、筆者とは10分ほど話したが、彼は最初、ザッパのアルバムを昔1枚だけ買ったことを言った。そのA面はよかったが、B面が難しくてザッパに縁がなかったことを語った。そのアルバムとは『溺れる魔女』で、A面はヒット性のあるわかりやすい曲で、B面はザッパ自身が一度もステージでまともに演奏出来なかったと語るほどの難曲だ。当時筆者はそのB面が気に入るかどうかでどうかでザッパ・ファンになるかどうかと書いたことがある。そのとおりで、武田理沙さんはそのB面から2曲も彼女のザッパ・メドレーで取り上げている。その意味でザッパは音楽家に好まれる音楽家だ。しかも演奏技術を誇る音楽家に一目置かれる。Sさんが熱心にライヴを見続けているのであれば、Sさんと親しくなればそういう情報が得られそうだが、彼はスマホもパソコンも所有しないと言う。それではライヴ情報を入手するのは困難だと思うが、筆者は当日の朝ネットで読んだ萩本欽一を例に挙げ、せめてパソコンを入手するとそれなりに人生が変わることを語った。また、筆者の誘導尋問によってSさんは自分の音楽体験を少々語り、ニプリッツという解散したバンドからソロに転向した「くんゆうり」というミュージシャンが凄いと推薦してくれたが、筆者はこれまで日本のミュージシャンにほとんど関心を抱いたことがなく、そう言われても全くわからない。そして60代半ばを過ぎたので、Sさんや金森さんのようにライヴハウスに熱心に通う気力がない。
 とはいえ、ニエリエビタさんのようにメールでライヴに招待されると、その思いに応える気になる。そして彼らにとって有益かどうかわからないが、そういう若い音楽家の作品についてネットに感想を書いておきたい。熱心にライヴを見ているSさんがパソコンもスマホも持たないのであれば、客として見た誰かが書いておかねばならない。筆者はSさんに、彼がパソコンを購入しない限り、筆者のブログを読むことはないということも言ったが、筆者のブログ目当てにパソコンを買えと言ったのではない。情報を得ることと、また自分の思いを伝えることに役立ち、また若い音楽家はネットでつながっているからだ。そのつながりは金森さんが言ったようにライヴ会場だけのものかもしれないが、ライヴで目当ての音楽家を間近に見ることはネットの仮想空間とは全く違う。Sさんがパソコンやスマホを所有しないのは、そういう疑似的なつながりが嫌であるからか。演奏者と一観客という間柄ではあっても、ライヴを見ている間はネットでは得られない人間的なつながりが感じられる。それを重視しない若者が増えているとして、その原因はネットでのつながりが増えたからであろう。スマホ画面を覗き込む時間が長ければ、道を歩いている人にも気づかず、それで自転車で轢き殺してしまうこともある。それでもその犯人はまたスマホ片手の人生を送る。そういう嫌な話題として、現在のネット社会を知らずに中村とうようや今野雄二が自殺した話題にもなったが、有名な音楽評論家が厭世的になるとして、それは音楽界の何に絶望してのことか。Sさんは筆者のその問いに答えなかったが、10分ほどで筆者とは割合話が出来ることを思ったようだ。彼はニエリエビタさんのファンのようで、彼女のライヴに行くとまた話す機会があるだろうが、演奏が終わればお互い終電を気にする必要があり、やはり金森さんの言うように、ライヴ会場だけの付き合いで、私的なことに立ち入らない間柄に終わるかもしれない。そうであっても、顔がわからないネットのつながりとは違う。そういう点をライヴハウスで活動する音楽家はどう思っているのだろう。昔は芸能人はスターと呼ばれ、一般人の手の届かない存在であった。スターたちはアウラを保つために一般人とはほとんど接することがなく、一般人も彼らのアウラをより輝かせたいために、姿を間近に見ることすら神々しいことと思っていた。今もスターはいるが、昔よりも身近な存在になった。それはネットの世界が出現したからで、人と人の垣根が低くなった。そしてネット上の言葉を巡るトラブルが生じやすくなり、Sさんが躊躇する理由もわかる気がするが、ネットという道具をどのように使いこなすかで、そこに個性を反映させることが出来るし、また自ずと反映する。
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 さて、先のザッパの話につなげる。筆者はグレイス・スリックが歌う「Would You……」を聴くのは初めてで、金森さんのザッパ・ファンぶりに感心したが、彼曰く、同曲を聴くためだけにそれが収録される3枚組CDを買った。『200モーテルズ』ヴァージョンとは違って、語り調の歌詞が多く、演奏も長いが、マザーズの演奏はザッパの指揮ぶりが見えそうで、しっかりしていて緊張感がある。1968年6月4日の収録で、当時ザッパは白人女性のきれいな歌声を求めていたことがわかる。もっと言えば、ザッパにとってジェファーソン・エアプレインの魅力はグレイス・スリックの声であった。日本でも大ヒットした67年の「あなただけを」の後、どういう経緯で彼女がザッパの新曲を歌ったのか知らないが、一度聴けば誰でも覚える「あなただけを」に比べと、「Would You……」は今聴いてもほとんどの人は印象に残らないだろう。世界的な大ヒット曲の前にザッパの才能は軽視されがちだが、音楽家の仲間では評価が違うことは今の日本に置き換えてもわかることで、有名度と才能の度合いは必ずしも一致しない。金森さんがジェファーソンの3枚組でザッパの曲しか聴いていないことは、ジェファーソンの曲に今は感興を覚えないからだろう。そのことについても金森さんは言っていた。つまり、昔熱心に聴いた音楽が今はあまりいいとは思わない場合があるとのことで、これは誰でも思い当たるだろう。それは人の心は移ろいやすいということで、ミュージシャンの人生が大変でもあることを意味する。ミュージシャンは同じ思いで活動していても、人気が潮が引くようになくなって行くことがある。それは仕方のないことだ。またそうなったからと言って、ミュージシャンは落胆することはない。レコードやCDが残っている限り、いつか再発見する人がある。そうなった時、当のミュージシャンは儲けられないが、名声は甦る。人生の勝負は生きている間だけで、目の黒い間に名誉も金も得なければ意味がないという考えは、一般には支配的だろう。何年か前、筆者は同じ自治会で油絵を描く主婦にそういう話をしたが、彼女は筆者の「いつか誰かの目に留まる」という考えを素気なく「ロマンティック」だと言った。彼女は自作がいずれゴミになると思っているようであったが、たいていの作家の作品がそうなるとして、いつか誰かの心に留まる可能性があることを思う楽天的な希望はやはり作家には必要ではないか。そういうことをSさんや金森さん、またニエリエビタさんがどう思っているのだろう。せっかく知り合っても、なかなか深い話が出来るまでの間柄にはなれない。そうであるから、一瞬の接触の場であるライヴハウスに通う者とそこで演奏する者がいる。そこでは演奏者も客も星のように輝いている。
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by uuuzen | 2018-11-05 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編)


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