美しく整列しているのを好むのは日本だけとは限らない。北朝鮮のマス・ゲームや軍隊だけではなく、どの国でも規律があり、それは整列を伴なう。

嵐山公園内にバラバラに落ちている松ぼっくりを集め、それで長方形の区画を作るのは、整列の美を好むからだが、筆者が
自宅前で台風21号によって吹き飛ばされて来た松ぼっくりを集めて作った時とは違って、数がわかりやすいように1個ずつきっちりと並べることまではしていない。松ぼっくりの大きさがかなりまちまちで、また朽ちているものが多く、しかも筆者が最初にその区画を見つけた時の状態が縦横の整列までは守っていなかったからだ。河川敷の端にあるその松ぼっくりの区画は、公園内の雨水を集めて川に流す埋設管のコンクリートの桝の蓋で、砕石は敷き詰められていない。この埋設管の敷設は確か5年前の台風15号以降だったと思う。公園の中央、川から最も離れた箇所に雨宿りが出来る休憩用の大きな木造の建物があって、その傍らにも同じ雨水枡があり、それが直線で松ぼっくりの区画の桝へとつながっている。この桝から雨水が川に吐き出されるが、なだらかな坂の河川敷は最後に急な斜面となって水面に接し、その斜面には水位を確認する標が立てかけられている。そのような場所は公園内ではここだけで、表向きは目立たないが重要な場所だ。公園内は細かい砕石が敷き詰められ、歩くのに足元が取られがちで、そういうところに松ぼっくりを並べると砂利が混じるから、雨水枡のコンクリート蓋の上ならばちょうどよい。またそこに松ぼっくりを隙間なく置くことは、公園に落ちている数からして、労力は多過ぎることはなく、また少なくて済むというほどでもなく、ちょうどよい。公園内の松の木の数からして、松ぼっくりを全部集めると、この桝上の松ぼっくりの区画と同じものが4つや5つは出来ると思うが、松ぼっくりを置く場所として公園内ではこの雨水桝のほかにはないと言ってもよい。ベンチに挟まれた真ん中で、ベンチに座る人は気づきにくく、また河川敷の端は歩行者の眼にも留まりにくいからだ。つまり、邪魔にならない。あってもなくてもいいもので、むしゃくしゃしている人はあえて蹴散らすだろうが、そういう人は少ないだろう。それで、人間が蹴散らすよりも台風が跡形もなく吹き飛ばすと思い、その最後の整列として台風が来る直前の午後4時半頃に雨の中、傘を差して写真を撮った。それが昨日の投稿の最初の写真だが、台風が去って晴天となった昨日の昼下がり、嵐山公園に行くと、驚いたことに長方形の区画はほとんどそのままで、左下隅が少しだけ欠け、そばに小さなビニール袋が捨てられていて、中に松ぼっくりが数個入っていた。台風で飛ばされた松ぼっくりを誰かが拾い集め、また長方形の区画を作ったのだろう。

筆者以上にこの松ぼっくりの区画を保つことに熱心な人は、最初にこの区画を作った人のはずで、しばしば確認に訪れているのだろう。ともかく、ぼったくりの権化であるはずの台風の後に松ぼっくりの区画は無事で、早速また写真を撮った。それが今日の最初の写真だ。朝から晴れたこともあって、嵐山にはかなりの観光客がいて、嵐山公園内のベンチは全部人で埋まり、またほとんどが渡月橋へと急いでいた。筆者も橋の南と北詰め、そして中ほどに立って下流を向いた3枚の写真を撮るつもりでいたが、欄干工事の様子に変化はなく、橋をわたらなかった。橋の南詰めの大きな松の木の近くに中国人の親子連れがいて、3歳くらいの男児が砂利を集めて小さな山を作り、その斜面に松ぼっくりを4,5個挿して遊んでいた。その様子を2,3メートル離れて父親が眺め、母親はしゃがんで一緒になって作業をしていたが、筆者がそばを通ると両親と目が合って微笑まれた。そして松の根元を見ると、松ぼっくりが大量に集められていた。そこから数個取って、親子は遊んでいたのだ。近くの松の木付近にも松ぼっくりがたくさん落ちていて、明らかに台風で吹き落とされたものだ。筆者は先に見つけた小さなビニール袋を手にしていて、それに松ぼっくりを拾い集めた。その間、男児のそばにいた母親はしゃがみながら、松の木の根元のすぎそばで、松ぼっくりを使ってIとハート・マークとUの文字を形作った。男児はその意味を理解したようで、母親と一緒に笑った。その様子を眺めながら筆者が松ぼっくりを探したのはだいたい直径30メートルの範囲で、5,6回に分けて合計3,40個集め、次々と松の根元にぶちまけた。中国人親子は筆者がそれで何をするのかと内心訝ったであろう。両親は細身で長身、なかなかの男前に美人で、せめて中国のどこから来ているのかと訊いてもよかったが、どこであってもそれ以上には話は弾まない。松ぼっくりを集め終わった後、おおまかに長方形を作って写真を撮った。それが今日の2枚目で、影は筆者だ。中国人の両親は筆者が松ぼっくりを長方形に並べる様子を見ながら、何やら感心したような声を発し、スマホで撮影したようだが、その写真がネットに出ても筆者は探しようがない。中国人親子はまだその後も15分ほどその場にいて、筆者も近くのベンチに座るなどして時間をつぶした。その間のことは明日書くとして、帰宅して台風前と台風後の松ぼっくりの区画を比べると、配置の差がほとんどない。その比較写真が今日の3枚目だ。つまり、台風はぶったくって行かず、松ぼっくりは前日に筆者が整列させたままであった。地面すれすれに風は吹かなかったのだ。朝、長方形の区画を見かけた誰かは、サンクチュアリと感じたのか、松ぼっくりを入れかけたビニール袋をそのままにして去った。